隠された狂気…なぎら健壱
もう何年前になるでしょう…なぎらさんとお仕事しました。まだADでした。
「葛飾にバッタを見た」は名曲です。表現とか、ものづくりとかの仕事をしてるヒトには経験のあるせつなさがひしひしと伝わってくる。そんな歌です。尋常な才能じゃないっすね。
で、そんななぎらさんと仕事をすることになって…。出会いは那覇空港。グルメ旅番組のロケでした。
全身カントリー&ウエスタンスタイルでさっそうと現れたなぎらさんは、おどけたおじさんではなく、なんていうか…凄みのある明るい“その筋の人”という雰囲気。ピリッと緊張感が走りました。
夜は打合せと称して飲み屋で大騒ぎ。20年以上前ですから、まだ業界も景気のいい時期でしたね。
まあとにかく、笑った笑った。確実に笑いをとります。すごいです。いわゆるテッパンネタっていう…もう伝統芸能の域に達してるな…と思いました。
なぎらさんに気に入っていただけたようで、それからというものロケに行くたびに飲みに連れて行っていただくようになって…。仕事と関係ないときにも飲みに連れて行っていただけるように…。
福岡ではなぎらさん馴染みのライブハウスに2人で飛び入り、ボクもギターのおぼえがありましたので、ボクのギターでなぎらさんが歌う…という…。なんと大それたことを…。こわいものしらずだったんだなぁ…と。
その夜、なぎらさんの部屋に呼ばれました。あれ?もしかして、なぎらさんあっちの気があるのかな?まずいな。覚悟しないと…。という思い…というのは冗談ですが。
部屋で目の前で、これも大好きだった「フォークシンガー」を歌ってくれたんですよ。これもすごいことだよなぁ…。
歌を作るときに歌詞を何度も直すという…いかに何気なく作っているように聴こえるか…そのためにものすごい時間をかけているんだという…ここまでになった人でも生み出す苦しみがあるんだ…と自分の行く末を思って、またもピリッとしましたね。
そんなこんなで、おもむろに「弟子にならないか」と言われたんですよ。願ってもない話だったですよね。もともと芸人になりたかったワケですし…。だけど、歌のほうなのか、芸のほうなのか…。
かなり悩んだんですけど、演出の仕事がなんとかなっていきそうな時期ですし…という理由で、弟子の話はお断りしました。
銀座の飲み屋に連れて行ってもらったときです。唐突になぎらさんが「この店の雰囲気をどう撮る?」と質問されました。
ボクは、飲み物のグラスをナメて店内のカウンターを…とか、客の喧噪からパンして…とか。そんなことを言ったような気がします。
陳腐だ…と。そんなの誰でもやってる…。
いいかい、誰もやってないことをやらないと…。
衝撃的でした。ただただ流されて仕事してた自分が、ガツンとさらされたような…。
同時に、ボクに向かって「1人でやっていく目をしている。近いうちに独立するんじゃない?」って。
当時は制作会社の社員でしたし、そんなこと考えたこともなかったんですけど…。なんと予言のように、なぎらさんの言う通りになっていったワケで…。しかしボクもどんな目をしてたんだろうなぁ。
あのときのなぎらさんの顔…。笑っているようで、目が笑ってない。この人、くるってるのか?いや、これがスゴミってやつだなぁ。恐ぇなぁ。だけど優しいなぁ。修羅場をこえてきた大人ってこんなんなんだ…。とね。
なぎらさんは師匠のひとりだと、今でも勝手に思ってんですけどね…。
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