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マフィンを譲らない

この記事はテーマ「私の発見」アドベントカレンダーの19日の記事です。先月にこの日担当を予約し、ずっと意気込んでたのにかけこみで書いてるよ。計画性。




さて、「私の発見」というテーマ。今年もいろいろな発見があったなーどの発見にしよっかなーと考えた末、選べなかったので、諦めて直近の人生で最も大きな発見といえる5年前のはなしを書こうと思います。
今年気づいたことなんかの多くは、この発見の上に積み上げられているといってもよいでしょう。


5年前の冬。舞台は群馬のパン屋さん。大学1年生だった僕はそこでアルバイトをしていました。
大学入学と同時に始めたこのバイトももうすぐ1年が経つところ。
高校時代、丸3年間不登校と引きこもり生活をしていたため、コミュ力&社会性ゼロがぼくのステータス。学校も、バイトも、これはリハビリだと自分に言い聞かせながらくらいついている毎日でした。

初めてのアルバイト、仕事は時間をかけながら覚えることができたのですが、特に難しかったのが他の学生バイトとの会話。
不登校だった当時、同世代の顔を見ることができず、見たら目が溶けてしまうと発言していた自分にとって、彼らは大きな恐怖の対象だったのです。しかも、パン屋さんスタッフは、そのほとんどが女子。こわい!!!!!

異性どころかそもそも人と会話した記憶が久しくなかったぼくにとって、無理ゲーもいいところでした。あと男兄弟だったし…。
どうやったってぎくしゃくしてしまいます。どうすればもっと円滑なコミュニケーションがとれるのか?日々考えているなかで、大きなヒントを得られたのが、大学1年、冬のことです。

その日はクリスマスが近く、厨房で試作のマフィンが焼かれていました。
普段はチョコ・ラズベリー・紅茶・バナナの4種が店頭に並びます。しかし、今日は見ない色合いのものが釜からあがってくる。それを確認しては、店長やら専務がああだこうだ言っています。
ひと通り終わったあと、店内で作業をする僕らにも声がかかりました。
「試作で作ったマフィン置いてあるから、帰るとき好きなの食べていいよ」

店は閉まり、後片付けも終了。帰る時間です。バックヤードにいくと、色違いのマフィンが3つ。
さあここからが本題。誰がどのマフィンを持ち帰るか。

登場人物は3人。僕。バイトリーダーで2個上の元気な先輩。入った時期はいっしょで年は1個上のおとなしめな先輩。先輩2人はどちらも女性。
どうしましょう。どうやって決めよう。

ぼくは考えました。自分が1番年下だし、レディーファーストっていうし、人に優しくするなら取るべき選択肢は「譲る」か…。今までもそうやって生きてきたし。
けれど、2個上の先輩はよく余ったパンなど積極的に譲ってくれる方でした。1個上の先輩はその様子を見てこちらに譲ってきそう。
これはおそらく譲り合いになるなあ。

さらに考えます。より円滑なコミュニケーションってなんなんだろう。より人に優しい行動ってなんなんだろう。
いままでしてきた先輩に「譲る」という行為は、優しさじゃなくて恨まれたり責任を抱えたりすることから逃れているだけなんじゃないか?となると、自分が次にする行動は、

「えーおいしそー。おれ、これがいいです」
そういって3個あるマフィンのひとつを、部屋に入るやいなや指差しました。場の円滑さと優しさのために、すべきことは「譲る」じゃない。あえての「主張」だ!これがおれの解答だ!

狭い橋を通るとき、対面からやってくる人に譲り合って避けると、お互いが同じ方向に避けた場合ぶつかってしまう。であれば初めから堂々と真ん中を歩くことを主張して、相手に避けてもらう方が、場合によっては「円滑な」「優しい」行為になるんじゃないかと考えたわけです。相手に花も持たせられますし。
もちろんシチュエーションを考慮し、譲ってもらった際の感謝は大きく。

かくして無事マフィンはスムーズに分けられました。
え、いいんですか?わーい。どうもー。もぐもぐ。おいしー。先輩のもおいしそうですねー。よーし帰りますか。おつかれしたー。
一件落着。これがよい体験になり、コミュニケーションにおける自分の武器がひとつ、手に入った感覚がありました。めでたしめでたし。


ただでさえ譲りがちな人が多いこの国では、「真ん中を歩く」というリスキーな行動が敬遠されているように感じます。大なり小なりコミュニティ内でその行動をすることで、批判なり評価なりが浴びせられることがある。
確かにそれは怖い。けどだからこそ、矢が飛んでくる覚悟で正面に立つと思いのほか利もやってくるぞというのが、今後人と関わるうえで大きな発見でした。ぼくは先に主張する。人と円滑でいたいし、優しくありたいからね。

まあ成立させるための関係調整や自己反省も同じだけ大事なのですが、ぼくはまだ未熟なユーザーです。ここのバランスが取れると、現時点では最強だと思うんだよなあ。
さしずめ、一休さん戦法ですかね。
なら私はまんなかをわたります。

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