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コングのグルメ〜第8話〜

布団の暖かさに包まれ、朝を告げる目覚まし時計を止める。


冷たいフローリングをツマ先立ちで歩き、結露している窓を見ながらカーテンを開けるKONG。



急に肌寒くなった11月後半。
気づけば師走がもうすぐそこまで来ている。


暖房器具を使うか使わないか迷いながら、ツマ先歩きで洗面所に向かい、鏡に映る自分を見て



「うおぉ…」



思わず声が出る。

重力に逆らわず、筋力も必要最低限しか使わず、全てが解放された素の自分の顔が眠気を吹き飛ばす。



ホラー映画を一本みたぐらいの衝撃を受け、
歯を磨きながらカレンダーの前に座りスマホで文字を打つ。

(トントン…トトン…トントン)


『来週以降行ける日ありますか?』


(ピッ…送信)


そう、KONGはワンマンライブが終わったらやりたい事が一つだけあったのだ。


数分後、連絡を入れた相手から返信が返ってくる。


『〇〇日〜〇〇日なら都合つけれます。』


よし。


すかさず返信をする。


(ピッ)


『キャンプへ行こう。』


(ピロリン)


『いきましょう』


こうしてKONGのキャンプが幕を開ける。

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ソロキャンプへ向けて、今回のキャンプは大きな一歩になるに違いない。


パートナーな前回のキャンプでもお世話になったマイフレンド。


(彼がいれば、大抵の試練は突破出来るだろう。)


今回『鍵』となるのは必要最低限の荷物で、どれだけこの寒い夜を有意義に過ごす事が出来るか。


食べ物等はKONGが用意する事を宣言し、決戦の日に向けて準備を始める。


食べ物を考えるにしても問題はこの寒さ。


「体と心が暖まる食べ物だな…」


うむ。


脳内でメニューを考える。


カレー…
シチュー…


ここで一度それぞれの料理のシュミレーションを行う。


野菜を切り、ペットボトルから水を入れ、鍋で煮る。


「苦手なタマネギは電子レンジで"チン"して柔らかくすれば問題ない…」



ふっ…。


電子レンジなんぞ、何処にあると言うのだ。


KONGが扱えるのは『薪の火』『炭火』だけじゃないか。


うむ。


「カレーとシチューは却下だな。」


今のKONGの選択肢は具材を入れて煮る&焼くのみ。


調理器具(包丁類)は使わない。 


いかに簡単にワイルドに。


それでいて体と心が暖まる食べ物。


「……これしかない」


脳内に浮かび上がった食材を購入する為、レジ袋を脇に挟み、スキップも加えながらスーパーへ買い出しに行くKONG。


購入した食材は冷凍庫と冷蔵庫にそっとしまい、

後は当日を待つのみとなった。

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こうして迎えて決戦日。

大きな車がKONG城の前に止まり、選定をしながら機材を運搬。

大人2人で中腰になりながら倉庫から荷物を出す。


「コレは使いますか?」

K「いらぬ!」


「コレは使いますか?」


K「いらぬ!」


「コレは使いますか?」

K「いらぬ!」


「本当にコレだけで行ってみますか?」


K「問題ないじょ」


「行きましょう…
今回も場合によってはコテージで寝れます…」

K「大丈夫だじょ〜」


こうして、ウキウキ気分で冒険に行くおじさんは車に飛び乗り、歴代のワンピースの主題歌をBGMで流しながら走ること1時間30分、ついにキャンプ場に降り立ったのだ。


到着するやいなや、チェックインなる作業を済ませて決められた区画へ移動し、持ち込んだKONGの機材を全て下ろす。


ふう。


「ここからが勝負だ。」


まずは購入したばかりのタープテントを組み立てる。


今回は寒さを凌ぐ為の新アイテム『木炭ストーブ』を準備しており、その熱を少しでも維持出来るようにタープテントを囲める『横幕』も追加で購入していたのだ。


ぬかりはない。


ビビるがいい。


が、


探せど探せど、

(ガサゴソ)


横幕が見当たらない。


(ガサゴソ)



「ほよよ?」


探す場所がなくなったKONGにマイフレンドの視線が刺さる。


すると


「紙袋は倉庫で見ましたよ。」



この男。


なぜ、紙袋に入っているのが横幕と知っている。


「ちゃんと聞きましたよ。
   コレは使いますか?って」



とんでもねぇなぁおい。


『焼きそば作る』って言ってんのに、ソースが無いの知っててそのままにするようなもんだ。


半笑いでマイフレンドがこう言う。


「取りに帰りますか?笑」



悪魔の囁きだ。


取りに帰ったら往復3時間。


時間の無駄な気がするが、日が沈んでからの時間のほうが長い。


どうする…。


もう戦いは始まっている。


どうする…下町のナポレオン。


『よく考えて行動せよ、
しかし、行動する時が来たら、
考えるのをやめて進め』

by ナポレオン


KONGは自身を鼓舞するように軽く手を叩く。


「よし。」



おじさんが、精一杯の虚勢を張る瞬間が訪れた


「今夜は…寒くないらしい…」


マイフレンドは笑いながら、


「OKです!!」


と、言って再び作業を始め、アッと言う間にKONGの基地が完成する。


圧倒的な程に


タープがデケェ。


ストーブとの比率わるぅ。


風通し良好すぎるぅ。


取りに帰ればよかったかもぉ。


どうやら"いずれは大人数で使えるように"と願いを込めた3メートルのタープテントはこの日のKONGには広すぎた。



心の声が聞こえたのか、相棒は防寒グッズを車から取り出しダウンジャケットを一枚羽織る。


うむ。


Tシャツ一枚で良いぐらいの心と体が暖かくなる料理を作ってやろうじゃないか。

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日も沈み良い感じになった頃合いで、薪と炭に火を付ける。

今回のメニューは

【スンドゥブ】
【ピザ】

である。

買っていた氷の溶けた水を鍋に入れ、冷凍のシーフードミックススンドゥブの素を一緒に入れる。

そして、


メインとなる豆腐の袋を開けようとした時、


KONGの握力が0.1Kgになり


(ベチャ!!)


大地に落とす。

ハプニングこそキャンプの醍醐味。


「キャンプしてる!って感じだ。」



笑い転げる相棒に一言


「3秒ルールだしぃ〜
   落ちたのは端っこでぇ〜 
      後は無傷だと思うのぉ〜
               つまりぃ〜
無傷な所は洗ってドゥブってもいい感じぃ?」

「いっちゃいましょう。」


その後、じっくり煮込む為、火を見ながら放置。



続いてピザに取り掛かる。


落とさないように。


慎重にピザを袋から開け、木炭ストーブの上で焼ける容器にピザを入れる。


蓋をして上からも火の付いた炭を置く。


これで石窯で焼くような仕上がりになるとかならないとか。


あとはボッーとしたり会話をしながらお酒を飲む。


………。

静かだ。


シーズンオフなのかトイレに向かうと、他の区画にはほとんど人がおらず、ホラー映画のワンシーンのようだった。

トイレから帰還したら、【スンドゥブ】【ピザ】は完成しており、美味しくいただく。



辛さも丁度良く、なにより暖まる。


ピザは驚く程"パリパリ"。


焦げる事もなく見事な仕上がりだった。


「こーゆーのがいいんだよ。」


……。

しかし大人2人分の胃袋の計算をミスってしまった結果KONGの腹はまだ満たされていない。


恐らく相棒もそうだろう。


だが言えない。


武士は食わねど高楊枝。


そんな芸当KONGには無理だ。


すると、ガサゴソとピザを焼いていた容器から、知らない食べ物が姿を現す。


トイレに行っている間に仕込んだのか?


「どうぞ。」


渡された茶色い食べ物がKONGの体の空いている部分にスッポリ入る。



なんだ、これは…


こんなに美味しい食べ物が日本にはあったのか?



いや、


それよりこの男はこんな食べ物を準備していたのか…



松崎しげるもビックリだ。



「これは世界でNo.1だ。」



ベジータが言っていた。


「カカロット、お前がNo.1だ!」


すまないベジータ。


「焼きおにぎりがNo.1だ。」



こうして、


今回のKONGのグルメは幕を閉じ、


一番心が暖まるのは、


タープの横幕でも熱々の料理でもなく、


サプライズだと心に刻まれた。


そう…


先日のワンマンライブで見た、笑顔で振られるサイリウムのようなサプライズ。


みんなありがとう。


それでは!


また!

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