コングのグルメ〜年末Special〜
ピピピピッ…。
(カチャ)
朝。
モソモソと重たい布団から出るタイミングを測る。
この機を逃せば再び寝入ってしまうだろう。
布団から出た時の寒さに耐えるテンションも大事だ。
KONGは腹に力を入れてカウントダウンを始める。
『3.....
2......
1........
うっほほーーーーい!!!!』
(バサッ)
KONGは飛んだ。
背中が地面についた状態からの物理法則を無視した77㎝の跳躍。
地面が遠くに感じ全てがスローモーションに見える感覚。
……。
「なんだ…寝ぼけていただけか。」
こうして最高のスタートを切ったKONGは、中森明菜の『スローモーション』を口ずさみながら、部屋にポカポカの光を入れる為にカーテンを開ける。
「おはよう太陽。」
本日、布団から飛び起きた理由はただ一つ。
年末の買い出しだ。
今日を逃せば年明けまで買い物には行けない気がする。
予定ではこんな筈はなかったのだが、流石『師走』とでも言っておこう。
イソイソと身支度とある程度の家事を済ませて、大好きなスーパーマーケットに向かう。
「…それにしても寒いな。」
ポケットに手を入れながら歩くが、
帰りは荷物を持つ事に気付き、手袋を着けて来なかった事を後悔する。
しばらく歩いて目当てのスーパーマーケットに入店すると、赤と白のめでたい雰囲気の店内がKONGを迎えてくれる。
「年末って感じだ。」
チルドコーナーを進むと、年末に存在感を放つアイツを見つける。
「年末は蒲鉾だな。」
切れ目を入れて
シソと胡麻昆布を挟んでしまった日にはお酒が止まらない。
緩む口元をマスクで隠して店内を冒険する。
「次はお酒コーナーに行こう。」
このスーパーは最近リニューアルされ、お酒コーナーが驚くほど広くなっており、
KONGもよく飲んでいる"THE DEACON"(ディーコン)が通常ラインナップで陳列されているのを見た時は、担当者様には感謝を伝えたくなる程興奮したもんだ。
「今日も良い仕事をしている。」
ここでも口元が緩みニヤニヤが止まらない。
「あと2時間は滞在できそうだ。」
ビールコーナーも充実しており、各国のビールも綺麗に陳列され、自然とKONGの顔はビールコーナーだけにエビス様と同じ顔になっている。
後ろを振り返るとワインも所狭しと並んでおりKONGの頭は崩壊寸前。
「とにかくもう 学校や家には帰りたくない。」
尾崎豊の『15の夜』ならぬ『39の昼』である。
年末はワインを飲むのも悪くない。
イベント時には、ここぞと『ワインを飲もう』と意気込んでしまうあたり、普段からパーティーに参加できないロンリーウルフの人付き合いの悪さが出てしまっている。
でも、ワインは最近少し飲むようになってきたのも事実。
"年末にワイン"と決めると自然と足はお肉コーナーに向かって行き、パーティーを盛り上げる"お肉コーナー"は店内でも一際賑やかにお客様達が集まっている。
「活気があるなぁ。」
KONGも賑やかなコーナーに身を投じ、ウロウロと"お肉"を吟味する。
『あの豚トロデカいな。』
『この豚のブロックを圧力鍋で角煮にするのも悪くない。』
ワクワクが止まらない。
脳内で試食を繰り返す。
「おや?」
そんなお肉コーナーに"パーティーに主役"と貼られたお肉が目に飛び込む。
「これは…」
"ローストビーフ"である。
綺麗にカットされた"ローストビーフ"に心を奪われてしまったKONG。
「年末は"ローストビーフ"を作るのも悪くない。」
そっと真っ赤な牛のモモ肉を手に取ると、購買意欲を駆り立てる文言が目に飛び込んでくる。
「"店長オススメ"だと?」
この広いスーパーのBOSSである"店長"の称号を手に入れた人が"オススメ"をしている商品。
店内の数ある"肉"の中から"オススメ"をされる"牛のモモ肉"のパッケージからは、満を持してリングに上がる挑戦者のような雰囲気と、
安心して応援出来るベテランのような風格が漂っている。
「キミ出会う為に僕はここに来たんだ。」
こうしてKONGは"店長オススメ"のシールが貼られた、真っ赤な"牛のモモ肉"と"年末の食材類"を購入し、スキップで家に帰る。
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家に帰りると、モモ肉は丁度良いぐらいの常温になっており、さっそく調理を開始する。
しかし調理というほどの工程はない。
愛用の調味料『マキシマム』をふりかけ、フライパンで肉の表面を焼く。
肉は『ジュー』と食欲をそそる音を立てながら焼き色が付いていく。
「もう食べたいな。」
いかんいかん。
あまりの美味しそうな匂いに本来の目的を忘れてしまう。
さすが"店長オススメ"の代物だ。
焼き目が付いたら、再び『マキシマム』と『塩胡椒』を刷り込み、Ziplocという万能アイテムに肉を入れ、オリーブオイルをかけて揉む。
あとは、【炊飯器にぶち込み】【90度のお湯を入れ】【保温ボタンを押し】【90分】待つ。
ちなみに、このZiplocと言う袋は80度まで耐えれると表示されているが、前回は90度のお湯で耐えれたので、今回も90度でトライをする。
この90分の時間で家の全てを終わらせる。
リミットがある事は素晴らしい。
ダラダラとしないで済むのだ。
90分後には"特製ローストビーフ"が完成していると思えば、部屋の掃除も楽しく捗るってもんだ。
ふと、
本棚に手をかけた時、
「しまった…」
ここまでスムーズに進んでいた工程が一気に崩れる。
「HUNTER×HUNTER 38巻を買い忘れている…」
タイマーを確認すると残り23分…。
駅前の本屋までKONGの黒王号に乗って爆走としても往復20分…。
どうする…。
決断をせまらせるKONG。
早くせねば。
(47.46.45.44.…)
カウントダウンは止まってくれない。
「明日買えば…。」
本当にそれでいいのか?
明日本屋さんの開店中に立ち寄ることが出来るのか…?
ローストビーフを手に入れるか…
HUNTER×HUNTERを手に入れるか…
KONGよ、違うだろ。
お前なら
『両方手に入れる』だろ!!
ポケットにタイマーを入れ、光の速さで上着を羽織り家から飛び出し、黒王号に跨りペダルに全体重をかける。
「簡単な事だ。
タイマーがなる前に家に帰ればいい。」
少し遠回りになるが、なるべく見通しの良い直線の道を選ぶ。
頭も冴えている。
しかしここでも手袋を忘れて後悔をする。
少しの段差で黒王号は『ガタン』となるものの、それぐらいでは止まらない。
今のKONGを止めれるのは"赤信号“と"タイマーのピピピ"のみである。
……。
息を切らして本屋に辿り着き『HUNTER×HUNTER』を購入し、出口の前で
『はじめの一歩142巻』が目に入り再びレジに並ぶ。
「とんだサプライズだ。」
少し時間をロスしてしまったが、過去最速で家に着く。
まだタイマーは鳴っていない。
「買った、勝った、よかった。」
タイマーを確認すると。
【28分25秒】
「増えてるーー!!!!」
………。
…そりゃそうだろう。
剥き出しのボタンに触れず自転車を漕ぐなどKONGには無理である。
何が『頭も冴えている』だ。
急いで電子ジャーから"ローストビーフ"を救出し、涙か蒸気かわからない曇った目を凝らし"ローストビーフ"にゆっくり包丁を通す。
「神様…。」
思った以上に柔らかく、
すんなり刃が通る"ローストビーフ"
「これは!!」
ほぼ角煮でごわす。
こうして…
年末の"ローストビーフ"は必ず成功させると決めたKONGは美味しく"肉って感じの肉"を食べたのでした。
今年も一年ありがとうございました。
皆様の応援がKONGの筆と箸を進めさせてくれました。
良いお年を!!
それでは!
また!