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コングのグルメ〜第7話〜

KONGは街をフラフラしていた。



ミルクティーを片手に、ほんの少しメンタルを整える為にパチンコ店の近くベンチに腰をかける。


ふぅ。


腹が減った。



今夜のご飯は何にしよう。



『コレが食べたい!』



と、決まったわけでもないが休みの日は外に出る。


素敵なsomethingがない限り、家にいても食べたいものは決まらない。


なら視覚的情報は多い方が良いと思っている。


KONGの頭上ではパチンコ店に行っていたであろう常連さん達が会話をしている。


あーだ。

こーだ。

この場所はいつでも活気がある。

元気があるのは良い事だ。


もう少ししたら重い腰を上げて、放浪の旅
に出ようと思った矢先、『とあるワード』にスマホを弄っていた指が止まる。

盗み聞きをするつもりは無いが、大声で会話をしている方にも多少責任はあるだろう。


「ずっと出てたなぁ…

……。

……ショウヘイ…。」



日常的にも良く聞く名前だけに、ついつい耳を傾けてしまう。


すると、



「いやぁ。

今日も止まらないわ。

オオタニショウヘイ。」




むむ?!!



確実に聞こえた。



オオタニショウヘイ。


ミルクティーの蓋を開けようとした手は止まり、ついつい会話を聞いてしまう。



あーだ。

こーだ。


なんてこった。


どうやら、話の流れ的にオオタニショウヘイ(と呼ばれる人物)がココのホールにいるらしい…。


今日はオフなのか?


球を打つ事に長けているのは十分知っているが、ここでもその能力が発揮されているのか?



アダ名なのか…
本名なのか…
似ているのか…



謎は深まるばかりだ。


重い腰を上げるタイミングを見失ってしまったKONGの前に、別の常連さんらしき人がモグモグしながら会話に加わる。



「まだやってたかぁ?」



お?


『あの人がオオタニショウヘイさんなのか?』



ここでKONGの止まった時間が動き出す。



その人の手に握られていたのは。



バットではなく、


ケバブラップ。



「これだ!!」



悩んでいた夕飯が、気持ち良いぐらいのストレートで"ズバン"と決まる。

座っていたベンチからは自然と腰が浮き上がり、気付けばKONGは歩き出していた。

一旦ホールを経由し、
入り口と反対側にある出口を出て、
近くにあるスーパーへと向かう。

「今夜は『ラップロール』で優勝するのも悪くない。」



夕飯が決まれば、記憶のダイヤモンドを一つずつ進めて行く。

『家の冷凍庫にトルティーヤが入っていた。』


『ドレッシングもあったな。』


あとは【キャベツ】【鶏の胸肉】を買って
ホームに戻る。



盗塁王も驚くスピードで買い物を済ませるが、レジでは行儀良く並ぶ。

KONGが盗むのは、


塁でもなく、


商品でもなく、


誰かのハートでもなく、


実家の仏壇の"もみじ饅頭"だけと決めている。



家に帰るやいなや、どこからか球審からのコールが響く。


「プレイボール!!!!」


球審からボールが渡され試合が始まる。

1番。
【キャベツ】

手に馴染んだバット(包丁)を握り、千本ノックのように包丁を何度もキャベツに当てる。


粗いぐらいが丁度いい。

この一振り一振りが己の血となり明日への迎えるパワーになる。



2番。
【鶏肉】

胸肉を切ってビニール袋にぶち込む。

3番。
【タレ】
『ニンニク』『オリーブオイル』『ターメリック』『コリアンダー』『塩コショウ』



これらを混ぜて、肉のビニール袋に入れて味を染み込ませる。

……。

終わってしまった。


肉に味を染み込ませる間に、
風呂を入れて、
祝勝会でサクッと食べれる物でも準備しよう。


家にあるバットに似ている叩き棒を出して【柿の種】を砕く。

ボールに、
【ラー油】多め
【砂糖】少し
【ポン酢】普通
【ごま油】良い感じに入れておく。


おそよ40秒。


『天空の城ラピュタ』に出てくる海賊女船長のドーラに


「40秒で準備しな!!!」


と、言われても時間的には難しくない一品だろう。

あまった時間で調理器具を洗い、風呂のサイレンが鳴ると同時に風呂に飛び込む。




数分後…。




サッパリした体で冷蔵庫を開け、
ビールに手を伸ばすが、ここはグッと我慢。



「まずは豆腐だ。」




豆腐を皿に移し、
先ほどの【柿の種】等をボールに入れてガシガシ混ぜ、豆腐の上にかける。


これは鮮度が命。


時間が経つと"柿の種"が汁を吸い、ヘニャヘニャになってしまう。


完成した所で、お酒をグラスに注いで


(グビグビ)


「……っくぅー。



今日もホームランだ。」



『柿の種豆腐』を口に運ぶ。



ザクザク感と豆腐で口の中が幸せになる。



ラー油、ごま油、ポン酢、柿の種、これらが砂糖で優しくなっている。



「全員が主役だ。」




これぞチームプレー。


胴上げのように背面跳びをしそうになるが、まだアルコールに支配されていない理性により無事回避。


「あぶない、あぶない。」


一呼吸おき、『ラップロール』に取り掛かる。



トルティーヤをフライパンでクルクルしながら温めてて鶏肉を焼く。



トルティーヤキャベツと焼けた鶏肉を乗せて、コブドレッシングを掛ける。

あとは、


顎で豪快なフルスイング。


(ガブッ)


肉と野菜を同時に食う。



ベタベタになる手も家ならお構いなし。



ただ豪快に頬張り咀嚼する。



「これだ。」




素敵な休日。



ふと、


今日の出来事を思い出す。



一旦ホールに入った時、ドジャースのキャップを被った男性がフィーバーしていた。




サイドに刺繍された数字を見ると


『16』




野茂英雄だった。



こうして、


KONGの試合は幕を閉じたのでした。


それでは!

また!

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