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【ゲス顔のマンガレビュー・note版】#14『悪役令嬢の中の人』※ネタバレあり

どうも皆さんこんにちは、マンガ系YouTuberのゲス顔です。

今回ご紹介する作品はこちらです。
『悪役令嬢の中の人~断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします~』

今回はこちらの作品、マンガ版1巻を読んだレビューとなっております。

この作品に対する僕の感想を一言でまとめるのならば、「悪役令嬢は愛のために悪となる」といったところでしょうか。

詳しい内容はレビュー本編の方でお話したいと思います。


こちらの作品はタイトルにもありますようにいわゆる悪役令嬢ものです。
ただし、主人公は悪役令嬢なんです。
「お前は一体何を言っているんだ」と思われるかもしれませんが、ここはややこしいので、きちんとお話したいと思います。


この物語の主人公は、レミリア・ローゼ・グラウプナーという名の貴族令嬢です。彼女の物語は、彼女が断罪されるところから始まります。

星の乙女と呼ばれる少女を虐げ、いじめていたという事実が明らかになり、王太子が婚約破棄を言い渡されるところから物語が進むんです。

では、レミリアの物語が始まる前、彼女自身が何をしていたのかと言いますと……何もしていなかったんです。本当に文字通り何もしていなかった。

正確には何もできなかったんです。なぜなら、この断罪の瞬間までレミリアはレミリアではなかったから。

彼女は幼い日、高熱を出して寝込んでしまいました。
そしてそこから目覚めると、何もない空間に閉じ込められていたんです。

暗闇の中から眺めることができたのは、自分の体を他の誰かが乗っ取ってしまった光景だけでした。
もちろん最初はレミリアもその状況に抵抗しようとし、抗議します。「自分の肉体を返せ」と。

ところが、体を共有しているせいなのか乗っ取った人物、エミという少女の感情が自分の中に流れ込んでくるんです。

彼女は幸せな人生を送っていた。その幸せが急に終わってしまった。
そして、それによって家族や友人たちを悲しませてしまった、と。

その感情がレミリア自身の中に流れ込んでくる。
それはレミリアにとってあまりにも新鮮なものだったんです。

なぜなら彼女は、自分の両親にすら愛されているという実感がなかったからです。そこで、彼女はしばらく様子をみることにします。

体を共有することで感情も共有されるだけではなく、レミリアはエミの記憶も共有することができるようになりました。
その中で、自分がエミのプレイしていたゲームの登場キャラクター、悪役令嬢であると知ります。

また、このエミという人物が悪役令嬢レミリアというキャラクターを愛してくれていたことを知るんです。

しかも、その自分の大好きなレミリアに生まれ変わっているという事実に気づいたエミは「自分がレミリアを幸せにする。レミリアには幸せな人生があったと証明するんだ」と努力するようになっていきます。

それはまさに、僕たちが知っている悪役令嬢ものの主人公でした。
ゲームの知識を活かして強力なパワーをドカンと身につけたり、ゲームの中では本来死んでしまうことになっていた自分の叔父をそのスーパーパワーで助けたり。

はたまた、いずれ嫌われることになる攻略キャラクターたちに対して、その持ち前のまっすぐな心根をぶつけていくことで少しずつ良い関係を築いていきます。
その影響から、「悪役令嬢レミリア」が破滅するシナリオが少しずつ少しずつ外れていく。

こうして、エミが転生したレミリアは幸せな人生を送っていく、そう思えていたのですが、そんなときにあの女が現れます。

エミのゲームの記憶において星の乙女と呼ばれていた少女、すなわちゲームにおける主人公の立場になるキャラクター。

彼女はまるでゲームの中の出来事をなぞるかのように行動していきます。
しかし、それは全く結果に繋がりません。なぜなら、もう状況はゲームのときとは違っているからです。

しかし、ゲームの状況は変わっているのに、星の乙女の行動だけが変わらないのはなぜか。

それは、彼女もまた転生者だからです。
そして、彼女はレミリアに凶悪な敵対心を向けてきます。

それでも、エミがレミリアとして周囲と築き上げてきた信頼は、簡単に揺らぐことはないはず。そう信じていたのですが、次第に状況が変わっていきます。

周囲がどんどん星の乙女ピナの味方になっていき、レミリアを敵とみなすようになっていくんです。

その様子を見て、本物のレミリアは「それではいけない」と考えます。
相手が何か仕掛けてきている以上こちらからもきちんと対応していかなければと思うのですが、その思いは決してエミに届くことがなく、そして断罪の日を迎えてしまう。

レミリアを幸せにしたかった。そのために自分ができることを全てやってきて、信頼され、認められていると思っていた。その全てが無駄だった。

そのことをエミが自覚し心が折れてしまったとき、ついに本物のレミリアが表に出てきます。そして彼女の心の中には渦巻いているんです。

怒り憎しみが。

でもそれは、本来のゲームの中におけるレミリアとは違う。
ゲーム内におけるレミリアは、誰からも家族からすら愛されないその孤独の中で怒りや憎しみを抱き、自ら破滅の道へと進んでしまうというキャラクターですが、この物語においては違うんです。

彼女の怒りと憎しみは、エミのためにあるんです。
ただ1人、自分を愛し自分を幸せにするために頑張ってくれたその努力を全て踏みにじった連中に対する憎悪と憤怒が、彼女の中には渦巻いているんです。

だからこそ、彼女は本来の悪役令嬢どころかそれを遥かにしのぐ悪の道へと進んでいきます。

ゲームにおける悪役令嬢レミリアとは比較にならないくらい狡猾に、そして明確に悪の道を進んでいくという悪役令嬢の物語。

いや、これは面白いでしょう。
しかも、このレミリアはエミがゲームの知識を使って鍛え上げてきた肉体を持ち、同時にエミの記憶からゲームの知識を得ているレミリアでもあるわけです。

そんな彼女が、自分を愛してくれた人への愛を貫くために徹底した悪をやるっていうんですから、一体どこまで悪くなってくれるのかめちゃくちゃ楽しみです。

まだ1巻ですよ。1巻でどんなに面白いとわかるものなのかって思われるかもしれません。

確かに正直、シナリオ面だけでは判断が難しいところもあると思います。
ですがね、この漫画家さんのうまさですよ。もう、めちゃくちゃうまい。

何がうまいって、表情の作り方がうますぎます。
特に、主人公とライバル側のヒロインです。この2人の表情の作り方が素晴らしい。

中でもね、負の感情を引き起こすような表情っていうのがめちゃくちゃうまいんですよ。

例えばですね、レミリアが確固たる決意で復讐を誓うシーンがこちらです。

いやもう、かっこいい。もう悪い顔全開でしょ。
こういうのをかける人すごいですね。

はたまた、星の乙女ピナの方、彼女の初登場シーンがこちら。

殴りたい、この笑顔。もう見た瞬間に、「こいつ絶対なんかやばいやつ」だというのがわかる顔です。

あるいは、このピナちゃんが攻略キャラクターたちに媚を売るときのこの顔。

いやもう、本当に殴りたいね。あぁ、殴りたいさ。
こういう、表情を使った演出ってのがめちゃくちゃうまくて、どんどん引き込まれてしまいました。

ざまぁ系、復讐系が好きな方になら伝わるとは思うんですが、表情は大事です。

何の表情が大事かって、それはもうざまぁ展開を迎えた瞬間の相手側の顔。
これほど楽しみなものはないわけですよ。

一体どんな顔で絶望してくれるのか、どんな顔で許しを懇願し、最期のときを迎えるのか。

これが見たいがために、ざまぁ系復讐系を読んでるところはあるので、そういう意味でこの作品は絶対に面白くなるだろうなと思います。

この漫画家さんなら、読者の期待を超えるような表情を描いてくれるんじゃないかと期待してしまうわけです。

もちろん、シナリオの方でもきちんと面白みを感じる部分はあります。
例えば、断罪をされた直後、レミリアは現状を覆す手を持っていません。

「今はそんな力はない」と。
だから、なるべく傷が浅くなるように立ち回り、一旦引きます。

その上で、きっちりと準備を進めて、復讐のための力を蓄えようとするんです。その方法が、領地経営です。

転生……婚約破棄……領地経営……うっ、『嗜み』が!という感じではありますが、こちらに関しては明確な目的があるわけです。

領地を富ませなければいけない理由、自分が力を得なければいけない訳、それは打ち倒すべき敵がいるからです。

まず最初の一手、魔族と呼ばれる人間を自分の領地に招き入れる。
なぜなのかというと、複数理由はありますがその中の1つが、彼らが作っているアイテムを他に流させないため。

正確には星の乙女ピナに使えなくさせるためです。
それまでレミリアときちんと信頼関係を結んでいたはずの人々が、なぜか急に星の乙女ピナの方に傾いていった。

その大きな要因の1つが、「課金アイテム」です。
ゲーム内におけるアイテムを使うだけで、好感度を上げることができます。

これを今の世界で作り販売しているのが、魔族です。
そのため、供給源を断つという理由で魔族たちを自分の領地に呼んで、そこに村を作らせて保護すると同時に自分の領地の良い商売の種にしようとするのです。

ちゃんと復讐という大きな目的があり、そのための手段として小さな目的……すなわち、課金アイテムを遮断する方法をとります。

そのために魔族を味方につけ、さらに自分がこれから行動するための資金の足しにするために、魔族たちを自分の領地で呼ぶ。

段取りがきちっとできている状態で話を進めていける作家さんだと思いますので、今後も少しずつ着実に、あのにっくき連中を地獄へと叩き落とすための話は続いていくんじゃないかと思うわけです。

本当の意味でちゃんと悪の道を進む悪役令嬢ものという、そうでありながら一般的な悪役令嬢ものの「悪役令嬢に転生してしまいました」という要素をきちんと生かしている作品という意味で、僕個人として非常に期待しております。


というわけで、総評です。
「この悪は美しい」といったところでしょうか。

主人公レミリアがしようとしていることは悪です。
それも、転生者エミが回避しようとしてきた悪役令嬢への道。

これを突き進むというか、突き破るというか。
本来のゲームのエミリアがやってきたことのはるか上を行くような悪事をなそうとしているわけです。

しかし、醜いとか汚いとか感じないんです。
なぜならば、彼女がそうしようとする理由に愛があるから。

自分を愛してくれたエミという少女のため、彼女が自分の幸せを願ってくれたのだから、自分は幸せにならなければならない。

その幸せのためには、エミの努力を踏みにじった連中を全て叩き潰さなければならない…という、ある意味では一種の暴走のように思えますが、同時にそれを当たり前のことでやらなくてどうするんだと感じさせるものもあります。

だから、読んでいる側も「いいぞ、もっとやれ!」という気分になれるんじゃないかと思うわけです。
この、「もっとコテンパンにしろ!」みたいな気持ちが持てるかどうかという部分は、復讐もの、ざまぁ系にとって本当に重要です。

上記の感情をきちんと持たせてくれる作品ですので、僕は面白いマンガになるだろうと思っています。

なので、こういう復讐系、ざまぁ系が好きな方は、ぜひ読んでみてください。

逆に悪役令嬢もの、悪役令嬢になってしまった主人公が自分の努力でシンプルに幸せになっていく、という話を好む人にはちょっときついかもしれません。

悪役令嬢というテーマを使ってはいますが、この作品の面白味の大きな部分は復讐劇的な部分にあると思います。ですので、その点はご注意いただければと思います。

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