月刊下宿館 創刊号
1・『月刊下宿館』ってなに?
1-1・「下宿館」と『月刊下宿館』
そもそも「下宿館」は、愛知県某所にある住居です。
2018年にひょんなことから、難民申請者(※1)や仮放免者(※2)を受け入れるようになり、結果としてシェルターのような場所になっています。
『月刊下宿館』は下宿館の女将・眞野明美や元住人・小柳康之、番頭bなどの支援者(※3)の活動や、下宿館の風景、知り合った外国籍の人たちのことを書くサイトです。
『月刊下宿館』には、以下の目的があります。
1・下宿館メンバーの支援活動(難民申請者、仮放免者への生活や医療支援)を知らせたい。
2・医療や生活に関して困っている人に向けた募金の告知をしたい。
3・下宿館の動きを書くことで、資金援助してくれる人を増やしたい。
4・私たちと一緒に活動する人、一緒じゃなくても似たような活動をする人を増やしたい。
5・「人権」をより多くの人に考えてほしい。
1-2・『月刊下宿館』の意味
「難民」や「難民申請者」に接したことがないと、「難民という集団」を想像しがちです。私自身も下宿館に住むまで、国連などの画像で見る難民キャンプのイメージがありました。
しかし、一緒に暮らしてみると、それぞれ個別の背景、個性、望みが違うことがわかります。
そんな人たちと一緒に暮らす経験をしている私たちだからこそ、伝えられることがあると思ったのです。
難民申請者、仮放免者の日常は、生活上の困難、未来への不安、病気の苦しみなどにあふれています。
それでも、美味しいものを食べれば笑顔になりますし、好きな音楽を聴いて肩を揺らすこともあります。ドラマを見て落涙することもあるし、家族や仲間に良いことがあればみんなで喜びます。
そんな私たちと変わりない普通の人なのに、個人では背負いきれない事情を持つ人が世の中には大勢います。また、「難民」というだけで、「めんどくさい」「やたら権利を主張する」という悪印象もあるようです。
しかし実際の難民申請者は「難民になりたい」のではなく、普通に暮らすために難民申請という行政手続きをしているだけです。
『月刊下宿館』を、そんなことを知るきっかけにしたいと思っています。
難民や入管の記事は硬くなりがちですが、下宿館の女将・眞野明美はシンガーソングライター、元住人・小柳康之はマンガや小説を書く人です。『月刊下宿館』は、より多くの人が読みやすいように、日常の何気ないことや、文化的なことも意識的に書いていきます。
★当事者の安全上、書けないこともあるので、名前や出身国を伏せることもあります。個人の境遇や出来事を書くときは当事者の了解を取ります。
★下宿館の成り立ちやメンバーの紹介などは、『月刊下宿館』2号以降でぼちぼち記載します。
2・活動報告
『月刊下宿館』では、私たちの支援活動を書きます。2023年4月は、以下のようなことをしました。
2-1・ウガンダ国籍のMさんの居住を助ける募金活動実施
ウガンダ人Mさんの居住を助ける募金活動を、目標20万円で2023年4月25日より開始し、5月26日に目標を達成しました!♫
皆様のご協力のおかげです。
募金や拡散へのご協力、本当にありがとうございます。
2-2・東日本入国管理センター(牛久)で拷問のような収容にあった人の件で多方面の助力を得て仮放免を実現!
東日本入国管理センター(いわゆる「牛久」)に収容されていたAさんは精神的な要因から、「食べれなくなった」のに、入管は「意図的なハンガーストライキ」としてカメラ監視付きの独房に拘禁し、彼の自由時間も奪いました。
そのストレスも加わったことでAさんの体重は激減!
Aさんが名古屋入管に収容されていたときから細かいやり取りをしている番頭bは、電話のAさんの様子から生命の危機を感じました。
その話を聞いて牛久を訪問した小柳や、Aさんに面会してくれた弁護士さんも「このままではウィシュマさんのようなことになる!」 と恐怖しました。
そのため入管への申し入れ(抗議行動)を行いながら、情報を多方面に拡散しました。
記事を見た国会議員や弁護士の方々、心ある市民の皆さんが抗議や申し入れをしてくださったおかげで、Aさんは収容を解かれ、現在療養中です。
2-3・歩行にも支障があるレバノン出身Tさんへの支援報告
名古屋入管で出会ったレバノン出身のTさんは、京都在住。そのため大阪入管で更新を受けるのが通常ですが、入管はなぜか、彼に名古屋で更新を行うように指示しています。
Tさんは交通事故の後遺症を抱えており、歩く時や椅子から立ち上がるときに苦痛で顔が歪むほどの状態です。そのためTさんは大阪での更新を希望しましたが、入管は明確な理由も示さず、「名古屋に通え」の一点張り。
そんなわけで、彼は足を引きずり、苦痛に耐えながら名古屋入管に毎月来ていました。(コロナ禍では2ヶ月に1回になったこともある)
保証人さんが交通費を出してくれるので新幹線を使っていますが、足への負担は大きくなる一方です。
本人は大阪での更新を望んでいるのに、何故改められないのか? 理不尽に思った眞野は名古屋入管に数度の申し入れをしました。
最初の申し入れからほぼ半年かかりましたが、抗議の甲斐あってこの4月に大阪での更新が可能となりました♫
しかし時期を同じくして、Tさんは耐え切れないほどの激痛に襲われるようになり、救急搬送されて8日間入院💦 入院でいったん痛みは減ったものの、完治を目指すものではなかったため、退院した現在はまた激痛に耐えています。
そしてこの入院には54万円かかりました。経済的に厳しいTさんですが、わずかな蓄えから毎月2万円ずつ病院に支払い、2年以上かけて完済する予定です。
痛みを根本解消するには、事故の際に埋め込んだボルトの摘出手術が必要なのですが、Tさんにはそんなお金はありません。
そこで私達は、関西のキリスト教関連団体と連携しながら彼の完治を目指す方法を検討中です。
ボルト摘出手術には150万円ほどかかりますが、Tさんの苦痛を放置できません。そのため、また募金活動などを行うことになるかと思います。
新しい情報があれば、また報告します。
2-4・ロシアの侵略戦争への参加を拒否し、平和を求めて日本に逃れてきた夫婦への生活支援
東京在住の小柳は、ウズベキスタン出身の知人から、「ロシアから来て難民申請している友人を助けてほしい」と頼まれました。
当事者は最近までロシアに住んでいた20歳代の夫婦、キルギス国籍のYさんと、アルメニア国籍のAさん。
彼らはロシアの侵略戦争に加担できない、という想いで日本に逃れてきています。
二人の話は情報量が多いので、次号で詳しく書きます。
事情を聴いた小柳は、2023年5月15日現在、関東に住む個人支援者や、支援団体とともに彼らの生活や医療の支援を始めています。
2-5・視力を失いつつあるウガンダ人Bさんへの医療支援継続中
「角膜移植手術が必要」というウガンダ国籍の Bさんが助けを求めてきました。
彼は幼少期のトラブルで目を負傷し、ウガンダで手術を受けたものの効果がなく、現在も視力は落ちる一方です。
現状、左目は角膜混濁、右目は高眼圧症混合乱視という状態で、すでに左目はほとんど見えていません。放置すると失明の恐れもあると聞き、眞野は複数の眼科に相談しました。
名古屋大学病院は、「手術は可能だけど保険証が無い外国人は治療費400%」との冷たい返答(この件、メディア等に出しても良いかと病院に確認したところ、「どうぞ」という返答だったので、病院名も明記しています)。
角膜移植は10割負担で150万円ほど掛かるらしく、400%だと600万円必要です。この金額を用意するのは難しいと思った眞野は、さらに複数の眼科に相談しました。
そうして、健康保険がない日本人と同様の100%で診てくれるうえに、非常に親身に当事者のことを考えてくれる眼科に巡り合いました。
しかし、症例として視力を回復することが非常に難しく、手術は可能だが困難の方が多い、という医師の意見を聞き、Bさんと話して角膜移植は断念💦
その後、せめて見た目のストレスを減らしたいという考えで虹彩付コンタクトレンズを購入しました。下記に裸眼の状態と虹彩付コンタクトレンズ使用時の画像を貼り付けます(画像は意図的にぼかしています)
とはいえ彼の症状は進行しており、痛みもあるので通院は継続します。
完治は難しいですが、進行を止め、苦痛を減らすために、私たちは今後も彼の通院を支えます。
2-6・ほかにも面会や医療支援、申請の補助などを多数行っています
下宿館メンバーは、面会活動は中心にしていませんが、4月だけでも3人合わせて20回ほど行っています。また、入管への申し入れは10回程度、病院へのアポ取りや同行は20回を大きく超えています。
役所や入管への申請補助なども得意ではありませんが、依頼先がないときは、自分たちでサポートすることもあります。
眞野はウィシュマさん関連でメディアに露出して以降、数多くの当事者からの相談を受けていますし、番頭bは英語スキルがあるので、英語話者からの相談が集中しています。
また、英語圏以外から来た当事者も多く、英語ができればOKというわけでもありません。そのため、いきなり病院や役所に行っても目的を果たせないので、翻訳ソフトなどを使いながら、時間をかけて事前に話しを聞きます。
さらに、当事者からの電話も多いです。医療支援など、目的が明確なこともありますが、鬱やPTSDを抱える人の不安や悩みを長時間かけて聞くこともしばしばです。
これらの活動のすべてはボランティアで行っています。私たちの活動を理解してくれる方々からの資金援助もありますが、メンバーの手出しが多いのが正直なところです。
この記事を見て、応援したいと思う方、前述した募金活動に賛同してくださる方からの資金援助を心よりお待ちしています。
【振込先】
愛知銀行 津島支店(店番306)
普通2085476 マノアケミ
また、私たちと一緒に活動してくださる方も募集しています。入管への面会や申し入れ、病院へのアポ取りや通院同行など、やってみたいと思う方はぜひ以下までご連絡ください。
e-mail:geshukukan@gmail.com
ツイッター:@geshukukan
3・下宿館女将・眞野明美より
そして締め
さて、参院での入管改悪法を絶対阻止!の大きなうねりの中で、 「月間下宿館」創刊します。
3人だけの小さなチームですが、入管での見捨てておけない人権侵害に声をあげ、当局に仮放免者の生存権を求め続けていく様を発信します!
更に、名古屋を根城に多様性を求めて活躍する表現者の皆さんにも登場願います。
乞うご期待♫
編集責任者小柳より
『月刊下宿館』は毎月15日頃公開予定です。来月もぜひ読んでくださいね。
注記説明
※1 難民申請者…日本は難民認定率が非常に低いので、難民認定された人はごく少数です。また、難民審査は数年かかることが多く、審査期間中もさまざまなストレスがあります。さらに難民申請していても入管に収容されることもあります。それらの現状を踏まえて、当記事では意識的に「難民申請者」という言葉を使います。
※2 仮放免者…入管のホームページでは「被収容者について,請求により又は職権で,一時的に収容を停止し,一定の条件を付して,身柄の拘束を仮に解く制度」と記載されています。
収容を解かれることから、刑務所の仮釈放と混同されがちですが、就労できない、許可なく県外に移動できない、健康保険証が作れないなど、生活上の困難が多い状態です。
https://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/tetuduki_taikyo_syuuyou_00001.html
※3 支援者…特に定義はない言葉です。『月刊下宿館』では、「難民申請者や仮放免者を支える人」という意味で使います。
一般的な支援内容は、生活支援、医療支援、行政手続きや申請のサポート、被収容者への面会活動、情報拡散や政治家へのロビー活動など、多岐にわたります。
下宿館は居住空間なので、面会や申請のサポートよりも、医療、生活支援を中心にしています。
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