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準備は整った
5月も後半に差し掛かろうとしていた。
正課レッスン、および小学生レッスンは順調に進んでいた。
独立を決めたあの日から
ゴールデンウィークが明け、本格的に日進まこと幼稚園のカリキュラムの一部として動き出した、
「どこでもWorldKids」
独立を頭の中に思い描いたのはちょうど約一年前だ。
あの頃は、一体どこまで出来るのかもまったくわからないながら、
「必ず出来る、いややってやる」という想いだけで
会社員をしながら何とか時間を捻出して行動に移していた。
そして2020年末に会社を退職。
2021年1月1日を開業届を出し、ひとまずフリーランスとして独立に至った。
そしてそれから5か月余りが過ぎようとしていた。
この時点で、僕には思うことがあった。
まずは絶対にこの選択は間違っていないということだ。
その理由は、ここ一年間の行動のリズムである。
僕は、何かを行うときに大切にしていることがある。
それは、挑戦する中でスムーズにいかないことのほうが多いが、それらの問題にぶち当たったときに、自分の心が折れる前にその問題の解決に至っているかどうか。
ということである。
僕は、上手くいくときは必ず心が折れる前に次のステップに進めていると考えている。
逆に、どれだけ好きなことだったとしても、何度チャレンジしても全然先に進めない時もある。
七転び八起きしても八回目もやはりすぐに転ぶ場合は、それは僕のやるべきことではないのかもしれないと考えるようになった。
この状態は非常に気分が悪いのだ。
しかし、今回の挑戦に関してはというと、
思い起こしてみれば、初めにアイデアが浮かんでからすぐに吉村さんと出会い。
マイカ、アンドレイ、そしてミアといった素晴らしいメンバーと出会い。
何より大きなステップとして、日進まこと幼稚園と出会い。
ここまではある意味、ほぼプラン通りの流れで進めてこれた。
もちろん、決して簡単だったわけではない。
その道中には、ドリームキラーも現れたし、予想外のプランも発生し、これからそれによってどう転ぶか全くわからない状態にあることも確かである。
しかし、そのすべてを乗り越えることが出来た。
そして、完璧に僕の体に生きた血が通っているのを感じながらこの一年間を過ごしてこれた。
そして今、とうとうスタート地点に立てたのだ。
それは、本当に僕がやりたいこと、
異文化交流リモートレッスン。
果たして、非対面でも同じように楽しんでもらえるのか?
全くスクリーンに集中してもらえなかったらどうしたらいいのか?
そんな不安はもちろんあるが、これまた行動してだめなら解決策を練るしかない。
独立すると決めてから、心に決めたこと。
それは、
とにかくごちゃごちゃ考えずに、今日もこの二つの選択肢から選ぶこと。
やるか、やらないか。
そう、もちろん僕は今日も”やる奴”になることを選ぶのだ。
子供たちを世界市民へ
子供たちとは十分に仲良くなれた。
外国人メンバーが来たときなんかワーキャーとはしゃいで迎えてくれるようになった。
きっといける!
これまでの対面レッスンは、僕も園側も子供たちも慣れてきていたせいもあり、なんとなくの時間間隔で行うようになっていた。
園の先生たちに気持ちのゆとりがあるせいか、がちがちのルールで縛られることなく、こちらもとても気持ちが楽である。
しかし、この日、ついにリモートレッスンを試すときがきた。
僕の中では歴史的瞬間であるため、気持ちが不安でピりつく。
いつもより早くイチゴ組の教室に向かい、レッスンを行う教室側のモニター、ノートパソコン、マイク、スピーカー、カメラ、そしてオーディオインターフェイスを準備して、Zoom、Yamaha シンクルームを起動。
モニターもオンにして、どこでもWorldKidsのロゴを映した状態でスタンバイ。
そしてそれから、コの字にグリーンスクリーンを張り巡らせたスタジオ部屋に移動し、レッスンを配信する側の機材もすべて準備。
こちらも同様に機材を準備し、Zoomとシンクルームを起動。
すると、イヤホンから教室側の音がきれいに聞こえてきた。
後は、こちら側で音声とビデオをオンにして、音楽を再生し、
マイクのボリュームのつまみを上げればこちらの姿と声と音楽、そしてグリーンスクリーンに映した背景がリアルタイムで教室のモニターに映し出される。
そして、子供たちはテレビの中の人間と対話できる状態になる。
この日は僕一人でレッスンを行う日だ。
リモートレッスンは基本的には担任の先生にいっしょに参加してもらい、子供たちをリードしてもらうことが重要である。
その場のクラスの安全面も考慮しなくてはならないし、システムの不具合が起きたときには対応が出来ない。
ネット環境にも依存するため、正直まだまだ不安定な状況であることには間違いない。
しかし、友人の協力もあり、遅延問題は解消。
もうやってみるしかない。
こちら側のモニターにはレッスン時間になっていつもと違う様子にとわついている園児たちの姿が見える。
何が起こるのか想像が出来ていない様子だ。
そこで、マイクのつまみだけ上げて、声を出してみる。
「Hello~everyone」
すると園児たちは、
「なんかゲーシーの声がする~!」
とキャーキャー盛り上がっている。
いい感じのムードである。
そしてついにこの時が来た。
ビデオをオン!
その瞬間に僕の姿が園児側のモニターの中に映し出された。
すると、
「ゲーシーだ~!!!」
園児たちは何が起こっているのかまだわかっていない様子だがとてもテンションが上がって騒ぎ出した。
そして、数名の園児たちが、モニターの中に僕がいることに理解が追いついておらず、
モニターの後ろに回って僕を探し出したりしているようだ。
なんて純粋なんだ。。
グリーンスクリーンを使って僕の背景は宇宙になっている。
「ゲーシー宇宙にいる~!!」
「行きたーい行きたいー!!」
めちゃくちゃ盛り上がっているではないか!
レッスンの流れはもう対面レッスンでお決まりになっていたので、
ここでいつものコールアンドレスポンス、
ゲーシー「Ok, everyone. せ~の!」
園児「Music please!!!」
オープニングソングをスタート!
Clap your hands! Clap your hands!
みんながモニターの僕に動きを合わせて手拍子をする。
よし、音や動きに遅延はない。
そして、
「Hello, hello, hello. What a beautiful day~」
オープニングソングを対面レッスンと全く変わらない状態で皆一斉に歌いだしたのだ。
そして、続いてWarm upソング、からの日替わりアクティビティ。
そして、最後にエンディングソングを歌って、ここまでで約20分間
全く対面レッスンと変わらない集中力とクオリティでレッスンが終了した。
できた!!!!
対面レッスンのクオリティを落とさずにリモートで行うことが出来たのだ。
むしろ、子供たちはテレビの中の人と対話が出来る状態をとても楽しんでくれていて、
対面レッスン以上の手ごたえを感じることが出来たのだ!
すると一尾始終を見てくれていた昭彦先生がスタジオ部屋に駆けつけて、
「ゲーシー、すごいですよこれ!」
「やばいですよこれ!」
とテンションバク上がりで褒めてくれた。
これは本当に全国中探しても、今日どこの幼稚園でも行われていないアクティビティだ!
唯一無二の、異文化交流リモートレッスンがこの日、誕生したのである。
感激した。
一年前にアイデアが浮かんでから紆余曲折あり、とうとうこの日を迎えることが出来た。
まだまだ改善点は多くあるものの、ベースは出来上がった。
ここからはアンドレイ、ミアにもこのレッスンに慣れてもらい、メインの講師となってもらう。
そして、そこが固まってきたら、とうとう他園にも営業を仕掛けることになる。
僕のプロジェクトを広めていく。
異文化交流を子供たちの日常に。
その視野を世界に。
日本に生まれたけど、日本は世界の中にある。
皆、日本国民である前に、
世界市民なのだという認識で育っていってほしい。
自分の居場所は自分で決められると知ってほしい。
僕はその懸け橋になることが出来れば、
とても幸せである。