9HOLES スーパースター列伝 松坂大輔『球舐めの最期』
昭和は江川、令和は佐々木。では平成は?答えは松坂。野球好きにはすぐ分かる、簡単な怪物なぞなぞである。
速球派のピッチャーを怪物と呼ぶきっかけとなったのは、「江川卓」だが、その系譜を作ったのは間違いなく松坂大輔だろう。2021年は奇しくも怪物の終わりと始まりが重なる年だった。
千葉ロッテ所属の佐々木朗希がプロ二年目にして、初勝利をあげ、ブレイクの兆しを見せた。今年の最高球速は157㎞/h。怪物の名にふさわしいピッチングである。
一方、西武ライオンズ所属の松坂大輔は今年21年のプロ生活に幕を閉じた。引退試合の最高球速は118㎞/h。
怪物と呼ばれた男の悲しすぎる姿がそこにはあった。引退後彼をねぎらう声が様々なところで聞こえるようになった。故障を抱えたまま、練習もままなら状態でプレイを続けていたこと。周囲の期待に何とか応えようとメンタルを限界まですり減らしていたこと。現役時には真逆の状況だったように思う。ソフトバンク時代には全くプレーせず、高額の年俸をもらうことから「給料泥棒」。練習に姿を見せず、常にヘラヘラしていることから「球舐め」。彼を中傷する言葉は枚挙に暇がない。
なぜだろうか。引退した今はそれが分かるような気がする。我々は彼に「怪物」でいて欲しかったのだろう。
では、我々が期待する「怪物」像とは一体なんなのだろうか。野球選手としての価値は年俸に反映される。選手が残した実績はもちろんのこと、そこ
にはファンからの期待も含まれている。
上のグラフを見ていただきたい。彼の球速と年俸が相関関係にあることが分かるだろう。つまり、我々が松坂大輔に期待していたものは「球速」だったのだ。年俸が彼の球速を上回ったタイミングで彼は「期待外れ」となり、蔑称で呼ばれることとなる。
球速が下がってしまった原因は数多く論じられている。しかし、最も大きな原因は松坂の体重にあるのではないだろうか。彼は自らを「水を飲んでも太る体質笑」と称している。
下のグラフを見ると松坂の体重と球速は正の相関にある。一見すると体重が原因ではないようにも読み取れるが、実は逆なのである。メジャーリーグに入る直前、アメリカ仕様にビルドアップした肉体は彼を蝕んでいく。
自重に耐え切れなかったのだ。それでも彼がMLBの舞台で何とか結果を残すことができたのは「バンテリン」のおかげだといわれている。
松坂とバンテリンの出会いは2009年。イメージキャラクターに起用され、CMに出演した時だった。当時の松坂はメジャー3年目。第二回WBCへの
参加で体のあちこちが悲鳴を上げていた。CMの撮影でバンテリンを肩に塗り込む松坂。その時のことをこう語っている。
「シーズン中にずぅーっと感じていた痛みがスゥーっと引いていきました笑」
CMで彼は「俺のバンテリン」というセリフを放つのだが、文字通り彼とバンテリンは切っても切れない関係になっていく。
試合終わりにバンテリンを塗ることはもちろん、練習終わりにもバンテリン。引退間近の頃には1時間に1回バンテリンを塗らなければ、日常生活もままならないほどだったという。
引退した今、ようやく「バンテリンを塗らなくても体を動かせるようになった笑」と松坂は語る。しかし、おもむろにポケットからバンテリンを取り出し、肩に塗り始めた。「今でも大事な時にはバンテリンを塗るんです。痛みもですけど、緊張もとってくれるんです笑」
これから第二の人生、どこで何をしようとも彼は笑ってこう言うだろう。
「俺のバンテリン笑」
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