【BCG】役所の委託調査報告書で読む戦略ファームのお仕事(3)
はじめに
今回は、BCGが経産省の教育産業室向けに受託した、「EdTechを活用した学校現場の業務改善等検討事業」を題材にしたものです。経産省の中でも大玉のプロジェクトである「未来の教室」の一環ですね。経産省が教育行政に首を突っ込むのは如何なものかというご意見はあるかと存じますが、(略) 個人的には、文科省と連携の下で進める限りにおいては素晴らしいことだと思っています。
本PJのテーマは、ざっくり言えば「学校の先生方は何故ご多忙なのか、それはどうやったら変えられるのか」という問です。個別の中身への当否は知識不足ゆえ判断つきませんが、戦略コンサルの手法/役所の頭の使い方を知る資料としては好事例だと思いましたのでご紹介します。(※なお、弊家族には教師が多いのですが、彼らの働き方を横で見ていた肌感と沿う中身になっていると思います)
1. まず背景と目的を明確にする
報告書は、「背景とゴール」から始まっています。これは民間向けのプロジェクトを走らせる場合でも本当に重要なことで、「なぜクライアントがその課題意識を持つに至ったのか」「本PJを通じて何を解き明かしたい/実現したいのか」がズレていると、論点設定/仮説の定立が不可能になり、その後の作業の多くが無駄になってしまうからです。
メンバーとしてプロジェクトに参加する場合でも、タスクを振られた場合はこの「背景と目的」、加えてそこから導かれる「論点と仮説」を常に意識し、それらの理解がふわっとしている場合は必ずマネージャーとすり合わせるべきだと思います。むしろ、メンバーにこれらを丁寧に説明していないマネージャーはかなり微妙だと思います。私が戦略ファームで学んだことの最たるものです。
なお、この点、役所や事業会社のマネジメント層はもう少し意識しても良いのかなと思います(できているひとも大勢居ますが)。忙しい中でもそこを丁寧にやっておくと、下も動きやすくなりますし全体の業務効率は上がると思います。
ちなみに、背景/目的/論点/仮説については、以下の2分で書いた手書きクソスライドもご参照ください。いろんな流派があると思うので私見です。
2. 現場に張り付き、フラットな視点で定量化する
さて、本PJでは複数の教育機関に協力を仰ぎ、実際の教育現場に張り付きながら、何に業務負荷がかかっているのかを定量化しています。
業務改善系のPJではよくやるのですが、これを役所案件×教育現場で実施したのは珍しいですね。
現地調査では、素人であることを恐れずに、健全な問題意識をもって生声を集めることが重要だと思います。現場の方のほうが詳しいのは当たり前である一方、現場だからこそ見えていない非合理や非効率もあります。そこを解き明かすのが外部者としてのコンサルの役割だと思います。
その際、現場の声に引っ張られ過ぎることもなく、かといって外のやり方を押し付けるわけでもなく、「なぜそのような業務が必要とされているのか」の背景をしっかりと理解するべきかと思います。そのためには、事前に論点を明確化した上で仮説を持って現地調査に臨むことが肝要です。
ちなみに、以下の部分みたいに、報告書の全体像を矢羽で示して、当該ページが属するパートをハイライトするのも良いことですね。分量が大きくなると「今何の話してましたっけ」となることがよくあるので、それを回避するのに効果的です。
3. 表層的課題ー真因分析
上記のような現地調査を経て課題の抽出→打ち手の構築へと進むわけですが、素晴らしいなと思ったのが、表層的課題から真因(課題の根っこにあるもの)を導いたうえで議論していることです。
表層的課題に対して直接アドレスしてしまうと、本質的な課題解決にならないためモグラ叩きになってしまいます。役所であれ事業会社であれ、真因を深堀りすることは本当に重要だと思います。まあ、真因が特定できたところで解決できないこともままあるのですが…
ちなみに、戦略では、表層課題と真因を、「氷山の見えているところ」と「海面下にあるところ」のアナロジーで示すことがよくあります。イメージとしては、私の手書きクソスライドを以下ご参照ください。直感的にわかりやすいため、戦略辞めたあともよくこの手法を使っています。(さすがに投資先に見せる際にはパワポに起こしています)
4. 打ち手を、動き方の改善イメージで示す
本報告書では具体の打ち手イメージについても触れていますが、打ち手導入によって現場の動きがどう変わるのかをフローで示しています。例えば以下のスライドは良く書けていると思います。
なお、全体として報告書がきっちり作り込まれており、このプロジェクトのマネージャーとメンバーは相当仕事が丁寧だなと思っています。大変だっただろうな…
おわりに
本報告書、前半の学校BPR以外にも、海外のEdTech事業の事例調査や日本の塾業界の市場調査(!)など、読み応えがあります。教育産業に関わる方は、目を通しておいても損はないかもしれません。