朝んぽの話
6時に目が覚める。平日のアラームが動作したためだ。前日の酔いがまだ残っている。
そのまま二度寝せずに着替え、ゴミを捨てに出る。財布と鍵も持って。前日の朝に予約した、お試し引換券とバターアイスを交換する最後のチャンスだからだ。期限のリミットが迫っている。昨日は見つからなかったが、今日は入荷しているかもしれない。アイスの溶ける時間を考えると、駅前のコンビニになければアウト。ニット帽をかぶり、玄関を出た。朝んぽである。
…
ワイフが昨晩、「通勤で、新興住宅地に出るあの坂をまっすぐ登り切るのが駅までの道へ出る最短ルートなのに、他の人はなぜかみんな手前の角で曲がり、隣の道を歩くのが不思議だ。どちらも同じ道に出るのに。」と言っていたため、そのルートを歩くことにした。
快晴、風もなし。空を撮ったけど青いだけだった。
ゆるやかな坂の途中、不自然な動きをするおばさんがいた。坂を下ってきて横の道へそれたのにすぐに戻ってきたし、なんだかおぼつかない足取り。どうも散歩している2匹の犬に行き先をまかせているらしい。
こんな散歩をしている犬は、基本的に自分本位だ。鬼が横を通ると、じっとこちらを見つめながら唸りだした。アホ犬。おばさんとアホ犬どもに挨拶をすると、おばさんも返してくれた。
坂を登り切る1つ手前の道を左へ入る。ワイフの言っていた道だ。ここは下り坂である。ナルホド。
…後ろからアホ犬の唸りが聞こえる。鬼が気に入らず、ついてきているらしい。クソボケ犬。途中で飽きたらしく、唸り声はすぐ消えた。おばさん、あなたの道を歩くのだ。
坂とは並行になる道へ出、駅まで続く道へ向かって歩く。坂の道よりも一段低いらしい。このあたりはかなり古い趣の家々が並んでいる。どの家もトタンで錆びており、庭の草ぼうぼう、窓が割れていたり何か木材が転がっていたりする。廃屋に近い姿だが「販売中」と札がある家もある。ナルホド。
廃屋の1つに違和感を覚え窓へ目をやると、部屋のまん中に、かなり巨大なてるてる坊主のようなものが見えた。バスケットボールくらいで黄ばんだ布の頭部分には「○藤 敏●」と名前らしきものが書いてある。ナルホド。
その先には、小さいタンスほどの小屋がある。中には鳩がかなりの数入っていた。鳩の上に鳩が折り重なっている。グルポグルポー。高床の小屋の下には、死んだ鳩が2羽落ちている。
この小屋の前を通り過ぎると、駅までの道に出る。最短で登りきったところより、道幅がやや広い。ナルホド。
・登り切る前に曲がると下りになるから
・廃屋を見たい好奇心
・鳩を見たいから(アトラクション)
・道が広くなるところへ出るから
このへんが、ワイフ以外の人が隣の道を歩く理由だと思う。後で教えてあげよう。鳩嫌いのワイフは通らないだろうけど。
…
日陰はさすがに寒い。駅まで続く道を歩きながら「アイドルのがんばりと鬼のがんばりの違い」を考える。応援してくれる人の有無が重要で、鬼にはそれがない。世の中は不公平である。まだ酒は抜けていないらしい。
程なく駅前のコンビニに到着。アイスのケースをゆっくり見るが、バターアイスはなかった。残念。ポイ活、勉強になります。
せっかくなので朝食用に自分とワイフのパン。水分不足を感じ、小さいアップルティーのペットボトルも求める。なぜか小銭貯金用の巾着を持っていたので、それに入れる。(数日前に全て口座に入れ、4000円弱になった。)まったく同じ顔の3人の店員が俯くレジの1つで会計をする。カードに3ポイントが貯まった。ポイ活は地道。
…
コンビニを出て、さっきと違うルートで帰る算段をたてた。アップルティーを飲みながら(あったけくてうめぇ)道筋を思案しつつ歩いていたら、以前買おうとしたが横取りされた土地がどうなったか見てこよう、と思いついた。
横取りと言っても、正規の手続きによる、鼻差で買われてしまった土地である。(先日noteに書いた家建築のダイジェストにもちょっと書いてあるので、よかったらどうぞ。)
https://note.com/gerohiko/n/n32efc541c046
ゆるやかな下り坂をゆっくりと歩く。道路沿いの梅の木には、すでにピンクの花が咲いている。もうすぐ春。
梅の木から少し行くと、ボサボサ頭のおばさんが、道にしゃがみこんで何かを食べている。朝から刺し身??を手で食うな。直接ビニール袋から出すな。鬼のパン入り巾着袋を持つ手に力が入る。
更に少し下れば魔リハビリテーション施設があるので、年代から見ても多分そこの人だと思う。手首に包帯を巻いていたから多分そうだろう。
魔リサイクル事業はコロナの影響も受けていないらしい。建物も新し目だし、魔で暴れる元気もなくなる(精神が剥がれる)ような世代相手だし、羨ましくもある。とはいえ、コロナで意図せず魔が入ってしまう若者もわずかに増えたとニュースになっていたし、それなりに大変ではあるんだろう。見えている部分だけでは理解したことにはならない。
施設を横目に通り過ぎると、またゆるやかな細い下り道。小さくて古めの家々。道の横の大きな公園の木が倒されている。古くて危ないからだろう。スズメのでかいやつがヂュンヂュンしている。
下り切ると、あの土地が見えてきた。大きな角地の、そのとなり。少し前までは何もなかったが、今は不定形かつ重厚な金属の塊が、うすら鈍く朝日を受けている。窓や玄関はあとから削る工法だろうか。それとも、そもそも家ではないのか。『鉄のダサい家?』とキャプションをつけて、ワイフへ画像を送信。未読。
…
少し戻り、歩道橋を渡る。小さな公園が多くある地区だ。ここから家までは、基本的に緩い上り坂だがほぼ一本道だ。日陰が多いけどアップルティーパワーが持続しているので大丈夫だろう。
3つ目の公園を横目に通り過ぎるとき、道に面する角部分(フェンスの外)に、穴が掘られていることに気付く。人ひとりが斜めに這って入れるくらいのサイズで、穴の入り口には靴が揃えられていた。
よく見るとこの公園だけ、そんな穴がまばらに4つほどあり、全ての穴の前には靴が揃えられている。全部の靴が線路の方に向いている。ゴミや産廃な針金が落ちている。遊具の土台だけが残っている。
深く考えないことにする。
…
ゆっくりゆっくり歩き、やがて床屋の前に出た。朝に見たあの坂の上だ。下っていけば、家の前の道。もうとっくに7時半を回っている。1時間以上の散歩となった。
たまにはこういうのもいい。
本当にたまにでいい。
(有料コーナーには何も書いていません。)
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