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【孤読、すなわち孤高の読書】我が孤読編愛録

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孤島に持っていく本を問われた時、 自分の余命が分かった時、 人はどんな本を選び読むのだろう? 本棚はその人の思考の露呈である。 となると、私の本棚は偏屈な愛情に満ちている。 つ…
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2024年11月の記事一覧

【孤読、すなわち孤高の読書】セネカ「人生の短さについて」

【孤読、すなわち孤高の読書】セネカ「人生の短さについて」

人生の短さを自覚し、無駄にせず自分の時間を生きることを挑発する書。

[読後の印象]
古代の西洋哲学を読み進めるうえで、必ずと言って良いほど対峙すべき書籍がある。
その中でもセネカの「人生の短さについて」がある。

本書は、時間という普遍的かつ根源的なテーマに正面から向き合った哲学的エッセイである。
この書物は、我々が日常の中で無意識に浪費している「時間」という財産の貴重さを厳しく指摘し、有限の人

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【孤読、すなわち孤高の読書】“三島由紀夫自決”における独私論

【孤読、すなわち孤高の読書】“三島由紀夫自決”における独私論

『金閣寺』への違和感

1970年11月25日、三島由紀夫が自決した日である。
その日を私は知らない。
当時幼かった私は、この衝撃的な事件を知るすべもなく、三島の名に触れるのはずっと後年のことであった。

2024年11月、私は京都の金閣寺、そして奈良の圓照寺を巡った。
その旅路は、私の内に巣くう三島由紀夫という名の妄執、あるいは日本文学の鬼才にして狂気の人への探求の旅であった。
そしてまた、あの

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【孤読、すなわち孤高の読書】大江健三郎「死者の奢り」

【孤読、すなわち孤高の読書】大江健三郎「死者の奢り」

戦後日本の不条理と存在の虚無を鋭く描き出した作品。

[あらすじ]
主人公である「私」は、病院の死体安置所で働く若い男である。
彼の日常は、死者たちを運ぶ単調な労働によって成り立っている。
しかし、その単調さの中に、死の冷たさや生きることへの不可解さが浮かび上がる。
ある日、「私」は職場の女性である「彼女」と関係を持ち、次第に心のバランスを崩していく。
その結果、「私」は生と死、欲望と虚無の狭間で

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【孤読、すなわち孤高の読書】ライナー・マリア・リルケ「ドゥイノの悲歌」

【孤読、すなわち孤高の読書】ライナー・マリア・リルケ「ドゥイノの悲歌」

人間存在の苦悩と美しさ、そして有限性の中に希望を見出す詩的試み。

[読後の印象]
とまれかくまれ、リルケの詩は甘美な旋律が美しい。

その芸術性と叙情性は、おそらくあの大彫刻家オーギュスト・ロダンやフランスを代表する詩人ポール・ヴァレリーとの親交とともに深まっていった。

晩年の代表作「デュイノの悲歌」は20世紀文学の頂点に位置する詩集であり、その文体と思想は、読む者をして存在そのものの崇高さと

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【孤読、すなわち孤高の読書】プラトン「ソクラテスの弁明」

【孤読、すなわち孤高の読書】プラトン「ソクラテスの弁明」

ソクラテスが真実を探求し、命をかける覚悟を描いた一冊。

[あらすじ]

「ソクラテスの弁明」は、プラトンがアテナイの賢者ソクラテスの最期の姿を描いた壮絶な記録である。
この書は、ある意味で崇高な運命の前にひとりの人間がいかに毅然として立ち向かうか、真の知性とは何かを鋭く問いかける。
物語は、ソクラテスが告発された法廷での自己弁護から始まる。
彼は「神々を信じない者」「若者を堕落させる者」として訴

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【孤読、すなわち孤高の読書】アンドレ・ジッド「田園交響楽」

【孤読、すなわち孤高の読書】アンドレ・ジッド「田園交響楽」

善意と自己欺瞞、愛とエゴが交錯した人間の心を鋭くえぐる悲劇。

[あらすじ]
アンドレ・ジッドの『田園交響楽』は、スイスの牧歌的な自然に抱かれた小さな村を舞台に、盲目の孤児ジェルトリュードを保護した一人の牧師の内なる葛藤を描き出す。
神の使徒としての信仰心に燃える彼は、天の慈悲と導きに従い、ジェルトリュードを魂の闇から救い出そうとする。
しかし、やがて彼女の純粋さと無垢なる存在は牧師の心にある種の

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【孤読、すなわち孤高の読書】萩原朔太郎「萩原朔太郎詩集」

【孤読、すなわち孤高の読書】萩原朔太郎「萩原朔太郎詩集」

孤独を纏い、言葉をつむぐ詩の革命者の静かな叫び。

[読後の印象]
私が萩原朔太郎の詩は、私にとってある意味で罪である。
私の心の奥底で詩への憧憬を宿らせ、現実の世界から剥がしたのは、紛れもなく萩原朔太郎の詩そのものでもあるのだ。

萩原朔太郎の詩集は、日本近代詩に革命的変容をもたらした。
その詩の底には、「感覚の孤独」「抒情の哀愁」「都会の喧騒と沈黙」といった複雑にして繊細な要素が織り込まれ、あ

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【孤読、すなわち孤高の読書】マックス・ヴェーバー「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」

【孤読、すなわち孤高の読書】マックス・ヴェーバー「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」

キリスト教信仰と資本主義の繁栄との関係を説いた、社会学の巨人の書。

[読後の印象]
当時の私は金が欠乏していた。
しかし、アルバイトなどという俗世の拘束に身を置く気もさらさらなく、ただ時間だけは不気味なほど有していた大学一年の夏、私は灼熱の陽光に狂わんばかりに焼かれながら、新宿駅東口の紀伊國屋書店に足を運び、小銭を握りしめてこの書を手に入れたのである。

何故に、長く重苦しいタイトルの書を求めた

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【孤読、すなわち孤高の読書】高村光太郎「高村光太郎詩集」

【孤読、すなわち孤高の読書】高村光太郎「高村光太郎詩集」

自然、愛、そして人の魂が響きあう、温かく力強い生の賛歌。

[読後の印象]
私の記憶を辿ると、いわゆる近代詩という形式を意識的に読んだ初めての詩は、おそらく高村光太郎だろう。
高村光太郎の詩集、とりわけ『智恵子抄』や詩「道程」に表されたその詩情は、日本近代詩における不朽の金字塔であり、今日に至るまで読み手の心に深い感銘を与え続けている。

光太郎は明治から昭和にかけて芸術家として活躍し、その詩集の

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【孤読、すなわち孤高の読書】アルベール・カミュ「異邦人」

【孤読、すなわち孤高の読書】アルベール・カミュ「異邦人」

人生の不条理を問い、意味を超越した孤独と自由を描いた傑作。

[あらすじ]
この一冊が纏う冷厳にして澄みわたる透明な空気には、まるで人間存在の深淵が反射されているかのごとき重みがある。
物語の主人公ムルソーは母の死に直面しても涙一滴も流さず、その無感動さを自然体として携える稀有な人物である。
彼は世間の常識に従って「在るべき姿」を求める者たちとは異なり、眼前の出来事に冷徹なまでの無関心を示し、己の

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