日本学生支援機構の奨学金返還免除を獲得するためのコツの解説
先日ツイッターでちょっと場ずった「大学院の奨学金を全額返還免除にするコツ」なる話題がある.
はじめに結論を述べておくと,この制度を利用するに当たっての「これは!」という共通のコツはない.理由は簡単で,各大学・専攻・あるいはもっと小さなユニットで評価のローカルルールが幅広いためである.
なのでこのエントリは獲得率を上げる類いのハックは特に出てこないのだけれども,制度を利用するためには制度のことを知るのが第一歩なので,利用に当たって知っておいた方が良い知識をいくつか紹介するものである.
なんの奨学金の話をしているか
日本学生支援機構(旧日本育英会)の大学院生向け第一種奨学金である.
日本学生支援機構の奨学金は,恐らく日本で最も利用者が多い奨学金制度だろう.
奨学金は二種類あって,第一種が無利子,第二種が有利子である(利子付けて貸与するやつが奨学金を名乗るな,学生ローンと言えと言われている).因みに給付型の奨学金もある(2020.4~)が大学院向けはない.
この「無利子で受けられる第一種奨学金」が今回の話題の対象である.
第一種奨学金は修士家庭向けで月8.8万or5万,博士課程向けで月12.2万or8万の枠が設定されており,これがワンチャン全額返還免除になる,というのがこの話のミソである.
「親の収入の関係で第一種奨学金は受けられないんだ~」という方がおられるかもしれない.それは時々ある勘違いである.
学部生向け奨学金の第一種受給資格には父母等の収入が勘案されるのだが,大学院生向けの第一種奨学金受給資格で見られる収入は本人(と配偶者,居れば)のものである(※仕送りは収入に含まれる).因みに修士課程年間299万,博士課程年間340万程度が基準のラインであるので,しっかり稼いでる配偶者が居るパターンでなければ受けられるんじゃなかろうか.
返還免除の制度について
この大学院生向けの第一種奨学金には「特に優れた業績による返還免除」という仕組みがある.下記に制度概要を抜粋するが,要は「あなたはしっかり学業を修めたので奨学金の返還を全額,または半額免除します」という仕組みだ.
大学院で第一種奨学金の貸与を受けた学生であって、貸与期間中に特に優れた業績を挙げた者として日本学生支援機構が認定した人を対象に、その奨学金の全額または半額を返還免除する制度です。
学問分野での顕著な成果や発明・発見のほか、専攻分野に関する文化・芸術・スポーツにおけるめざましい活躍、ボランティア等での顕著な社会貢献等も含めて評価し、学生の学修へのインセンティブ向上を目的としています。
貸与終了時に大学に申請し、大学長から推薦された人を対象として、本機構の業績優秀者奨学金返還免除認定委員会の審議を経て決定されます。
(上記ウェブサイトより引用:2022/2/23,太字は筆者による)
この「学問分野での顕著な成果や(以下略)」というのが評価の対象なので,書けるものを色々申請に盛り込めばワンチャンあるかもよ,というのでバズっていたのだが,現実はそんなことはない.
次の表を見てみよう.これは令和2年度 大学院第一種奨学金における特に優れた業績による返還免除の認定についてのページに掲載されている令和2年度修士課程の返還免除実績である.
注目したいのは,大学が返還免除対象として推薦した人が6122人,そのうち実際に返還免除されたのが6102人ということで,実に99.6%の被推薦者が返還免除を受けている.
つまり,大学から推薦してもらえるかがほぼ全てなのだ.
これが,各大学やより小さなユニットで評価基準がまちまちなので,コツなどないと言った理由の全てである.
ある場所では修士論文の出来を重視するし,ある場所では査読付き論文があるかどうかが重要視される.学会発表などとのウェイトも部局によってまちまちであろう.しかも競争相手は自分の同級生である.修論発表会で一同に会した時の出来とかで順位が決まる事もあるかもしれない.
ぶっちゃけたことを言ってしまうと,顔見知り同期の中で1番が全額免除,2番~4番が半額免除,みたいな話になる(全額免除が1人なのかもっと居るのかは部局の規模などによる).
なので,自分の所属部局では推薦順位何で決めてるのか,先生に聞くのが一番早い.先生が教えてくれなかったら,免除を貰った先輩を参考にするのがいい.
基本的には,日本学生支援機構から各大学に枠の割り振りがあり,それを研究科や専攻ごとに配分するとかしてるんじゃなかろうか(全学でせーので順位付けした推薦名簿を作るのは難しいと思うので).
参考:申請書の内容
申請書は
・学生が自分で書く「こういうことをしたゾ!!!」という部分
・指導教員所見
の2通からなっており,書く量はどちらもA4半分くらい(だいたい1000字かそこら)なので,そんなに重くはない.
基本的には学位論文としての研究成果と,それらを外部発表したのならそれを実績として書き添える.その他の評価項目(TARAやボランティアなど)があれば最後に添えるって感じになるのが普通だと思う.
教員所見書があるので,学生が申請をすることは教員の書類作成業務が増えることを意味する.なので私の出身教室では推薦順位決定後に,割当数に応じた免除候補者にだけ申請書類が配られてた(後輩の代になってノーチャンスの人も特攻可にルールが変わってたけど,ノーチャンスで特攻するのは指導教員の負担が増えるだけなのでよく相談した方が良いと思う).
結局コツと言えるようなことは……
コツがあるとすれば大学院生として学業・研究に励むことだと思う.なにせ「特に優れた業績による返還免除」なので,大学院生として全うに評価されやすい自身の研究と学位論文を頑張るのが近道である.良い論文書ける仕事したら学会発表も投稿論文も道がついてくるわけで.
私は修士課程在籍時には「月8.8万貰ってるつもり」で研究に打ち込んでいた.奨学金じゃなくて給料だという認識だった.幸い指導教員や他の教員からの支援にも恵まれ,結果は出た.
なので,この制度に関するエントリをまとめるに当たって強調しておくべきことは一つだろう.制度のことはきちんと知った上で,それでもあなたのやるべき事は一切変わらない.大学院は受動的に学ぶだけの場所では無く,一人の研究者のタマゴとして研究を行う場所である.
研究テーマの設定などによっては他人から評価を得づらいようなこともあるだろうが,あなたの研究をよく見てくれている人は,第一には指導教員であり,第二には近くの講座の先生である.その人達に自分のやっていることをきちんと理解して貰い,よりよい研究としていけるよう時には助言を貰い,良い学位論文を提出出来れば,自ずと結果はついてくるだろうと思われる.
「この学校では評価されない項目ですからね」なんて魔法科高校の劣等生みたいな事を言っても何も始まらないし,逆に返還免除制度に引っかからなかったことが成果評価の全てというわけでも勿論ない.
あなたの大学院ライフが良きものでありますよう.