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【映画日記】『アダミアニ 祈りの谷』『ヤジと民主主義』『PERFECT DAYS』

2023年12月4日(月)
立川キノシネマ 『アダミアニ 祈りの谷』
ジョージアのドキュメンタリー映画。少し日が経ってしまい,正確なところは覚えていないが,主人公が住む町,表題にある谷であるパンキシ渓谷は,チェチェン紛争から逃れてきたキストと呼ばれる人たちが住み着いた過去がある。単なる戦争避難民だけでなく,戦闘員も多く身を潜めていたという。イスラーム教徒であるかれらたちは,シリアにあるイスラーム過激派組織との関りを持ち,この渓谷はチェチェンを抑圧していたロシアから「テロリストの巣窟」と名指して非難されたことから,国際的にも負のイメージが付きまとい,現在この地に住むキストの人たちの暮らしにも影響が大きい。そんななか,女性たちが立ち上がり,この地を目的地とした観光産業を活性化しようと祭りを企画・運営する。また,個人としてもポーランド人女性が,かつて戦士であったこの地の男性と組んでヨーロッパからの団体客を呼び寄せる。この地の女性たちはそうした客をホームステイで迎え入れる。
なんとこの作品,監督は1984年生まれの日本人で,竹岡寛俊という。オーストリアやフランス,オランダのスタッフとの共同で作り上げた作品だという。若い人たちによるこうした映画制作に大きな希望を感じる。

 
2023年12月17日(日)
東中野ポレポレ 『ヤジと民主主義』
またまた息子とともに訪れたポレポレ東中野。この問題は大きな話題にもなったが,2019年7月の選挙の際,札幌に応援演説に来た安倍元首相に対して,ヤジを飛ばした男性と女性が瞬間的に北海道警察によって排除された。本作はそのことを追ったドキュメンタリーで,テレビ番組から今回劇場版へと発展した。この二人は無関係ではなく,はじめに「安倍やめろ」と声を上げた大杉さんの姿を録画していた女性の知人は,それに続いて「増税反対」と訴えた桃井さんと知り合いだったという。また,桃井さんも大杉さんの行動を踏まえての行動であった(連帯を示すという意味)という。また,大杉さんも,過去の秋葉原での安倍政権反対を訴えていた人たちに連帯するつもりで,この場に向かったが,ことのほか誰も声を上げないので,自分が第一声になっただけという。しかし,多くの記録映像を見ても札幌という土地では,自民党政権への反対の意思を持ってかれらに連帯する人の姿は周囲に見受けられない。しかし,実はそうではなかった。実際には密かにプラカードを掲げようとしていた年配の女性たちがいて,彼女たちのことを本作の取材チームはしっかりと捉えている。なかにはかつて市議会議員をしていたような女性もいた。
この件は裁判で争われていて,映画のなかでは高裁までしかいっていない。観る者に今後のゆくえも中止してほしいと訴えている。

 
2023年12月24日(日)
府中TOHOシネマズ 『PERFECT DAYS』
ヴィム・ヴェンダース監督による日本を舞台にした映画ということで,観に行った。クリスマス・イヴではあったが,年配のお客さんを中心にほぼ満席だった。皆さん役所広司がお好きなのだろうか。私個人としては嫌いではないが,出すぎだと思ってしまう。同じ年代の俳優はもっといるので,本作は外国の監督なので,外国でもよく知られている役所さんを使うというのは理解できるが(なお,役所さんは本作の共同プロデューサーでもあるようだ)。東京都渋谷区の公衆トイレの清掃を請け負う会社の社員として,慎ましいが規則正しい生活を送る一人の高齢男性を捉えた作品。朝,近所の掃除をする箒の音で目覚め,朝食は取らずに缶コーヒーを飲みながら車でトイレに直行する。お昼は決まった神社でコンビニのサンドイッチにパック牛乳。決まって木々の写真をフィルムで撮り,時折苗木を見つけては自宅に持ち帰り育てる。仕事が終わると開いたばかりの銭湯に入り,浅草駅地下の飲み屋で一杯。就寝前に読書を限界までして寝る。その繰り返し。休日の過ごし方もルーティーンがあるが,そこまで書くとネタバレっぽいのでやめておく(ここまででも十分ネタバレか)。
この映画には冒頭から驚かされる。主人公が住むかなり古いアパートはスカイツリーが見え,主人公が乗る車のナンバーに「足立」にあり,頻繁に浅草駅が登場するように,いわゆる下町である。しかし,主人公が車で向かう職場である公衆トイレは渋谷区のトイレなのだ。その奇抜というかデザイン性のあるトイレに驚くのだ。柄本時生演じる仕事仲間が「朝一のシフトは必ずゲロ吐かれているのでやなんっすよね」というセリフを吐くがそうした汚れたトイレは登場しない。外観のキレイさだけでなく,トイレそのものがキレイなのだ。あらかじめ掃除されたトイレを撮影用に掃除している,そんな感じ。確かに映画ということであれば,あらかじめきれいにしたトイレをわざと汚して撮影用にキレイにする,という手法も考えられるが,せっかく掃除するのであれば,実際に使われて汚いトイレを,渋谷区以外のよくある,多くの人が使いたがらない公衆トイレにしてほしい。ヴィム・ヴェンダース作品ということで外国の鑑賞者も多いと思うが,東京のトイレはこんなにきれいなんですよという渋谷区宣伝用映画になってしまってはたまらない。特に,近年の渋谷区は公立公園のジェントリフィケーションを進めていて,野宿者を排除して「儲かる公園」にしようとしている。この映画に登場するデザイン化されたトイレはその一環だと思う。世界の大監督が描くべきはここではない。


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