新日本プロレス1.4東京ドーム大会を観ての所感
新日本プロレスの正月恒例行事である東京ドーム大会2連戦、その初日を観た。
まず結論から先に言うと、極めて濃度の高い”2種類”の新日本が観れた素晴らしい興業だった。”2種類”とはどう言うことか?
兄弟という関係性がもたらした男と男の闘い
セミファイナル、オカダ・カズチカ vs. ウィル・オスプレイ。この二人は元々同じユニットに所属していて、いわば兄弟のような関係だった。6年前、オカダがイギリス遠征の際オスプレイの試合を見て一目惚れし、自身の所属するユニットCHAOS(ケイオス)に勧誘。オスプレイも世界的に有名なオカダのことはもちろん知っていたし、そのことを光栄に思い、その誘いを快く受け入れた。そこから二人の兄弟関係が始まったのである。
月日を経て、オスプレイの実力は当時と比べ物にならないほどのものになり、オカダとのプロレスラーとしての実力的距離はグンと縮まる。そのことにより、それまで兄と慕っていたオカダの存在を、オスプレイは「目の上のタンコブ」と感じるようになった。そして去年、二人の関係は一変する。
昨年10月に行われたG1クライマックスのシングルマッチで、オスプレイはオカダと別れを告げる行動に出た。イギリスに海外遠征に行っていたグレート・O・カーンの乱入と、新ユニット『THE EMPIRE(ジ・エンパイア)』結成である。それはCHAOSの脱退を意味し、オスプレイはオカダと相対する関係となった。そして、昨日のシングルマッチへの繋がって行く。
二人の試合は、本当に無駄のない試合となった。アピールらしいアピールはほとんどなし。派手な攻防もオカダのトペ・コンヒーロとオスプレイの雪崩式スパニッシュフライぐらい。もちろんオカダのドロップキックや、オスプレイのアクロバティックな攻撃はあったものの、それはも余白の極めて少ない相手に“叩き込む”ことに重きをおいた攻撃だったという意味ではこれまでと違ったように見えた。
最後はオカダが1年間封印していたレインメーカーを叩き込み勝利。まだインタビューを観ていないので、これは主観になるが、それはまるでヘビー級に転向したオスプレイを一回叩きのめすために封印していたかのように思えた。
成熟したプロレス少年同士の闘い
メインイベントは、IWGPヘビー級とIWGPインターコンチネンタルのダブルタイトル防衛戦。チャンピオンはロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン(通称ロスインゴ)の内藤哲也。チャレンジャーは飯伏幸太。二人は共に1982年生まれの同学年で、内藤は新日本プロレス、飯伏はDDTからプロレスキャリアをスタートし、これまでお互い違う道のりを歩んできたが、お互いを意識しながらプロレスをしてきたのは間違いない。
二人の共通項は「圧倒的プロレスファンのプロレスラー」だ。どのジャンルもそうだけども、プロになると「ファンの心」のウェイトが小さくなりがちだ。それはプロフェッショナルに徹する意味で絶対的に間違っていないし、僕らファンもそれを大いに認めていることも間違いない。しかし、そこに楔を打ち込んだのが内藤と飯伏だった。
内藤は、それまで暗黙の了解で触れられなかった業界の幕(闇とまではいかない)の部分に触れ、ファンが薄ら思っていたことをズバズバ口にし、結果も残すことでファンの共感を得た。飯伏は、そのずば抜けたポテンシャルを発想力(妄想力)をベースにして、まるで漫画のような技を続々と披露披露していったり、人形を相手に戦ってみたり、海やキャンプ場で試合したりと、とにかく既存のプロレスの概念に囚われない「大きなプロレス」を自身が楽しむことで、ファンも巻き込んできた。
そんな二人の試合は「プロレスファン」がギュンギュンに詰まった試合になった。プロレスとはエンターテインメントであり闘いでもあるが、駆け引きも要素も色濃い。裏の裏を読むこともあるし、逆に先の先を読んで試合を展開していくことも多分にある。そういう意味では昨日の試合は「先読み」の試合だったように思う。
内藤が仕掛けた技に対して飯伏が対応するが、それを内藤も見越した上で次を仕掛ける─。それは飯伏もまた同じくだ。試合は最終的に飯伏が勝ったけれど、本当に紙一重で、内藤がもう一個先を読めていたら、内藤に軍配が上がっていた可能性は十分にあった。
試合後内藤は「お前がチャンピオンだ」と2本のベルトを飯伏に渡し、その手を上げた光景は本当に清々しいものがあった。プロレス少年同士がプロになって、そんな二人がやった最上級の試合だった。
ドラマの生まれる異なるプロセス
新日本のプロレスは「攻め」で試合のリズムを作っていく。その中に、人間関係が存在し、そこにドラマが生まれる。ただし、ドラマの生まれるプロセスはそれぞれだ。そういう意味で、昨日のメインとセミの2試合は「闘争としての新日本プロレス」と「競技としての新日本プロレス」が見事に表れていたように思う。そこには”現在”の新日本プロレスの最上級であり最高級が詰まっていた。