ラグビー元日本代表・福岡堅樹選手のこと
RWC2019開幕から1年。その時にTwitterに投稿した長文をnoteにも上げます:
彼の存在を初めて知ったのは、前回RWC2015のとき。あの「ブライトンの奇跡」でニワカラグビーファンになった私は、その直後のスコットランド戦をテレビで見た。
ラグビーについてまだ何も分かってなかった私には、日本のボールをインターセプトしたスコットランドの選手を、俊足で追いかけていく日本の選手の走りだけが、強烈に印象に残った。
そして、その俊足の持主が福岡堅樹であること、自分の母校・筑波大学の現役学生であるという事実を知っただけでその時は終わった。
筑波大学というのは、不思議な大学で、学部学科でなく学群学類という括り方もそうだが、同じ大学出身の人の間で、あまり一体感や連帯感がない。
体育専門学群(略して「体専(たいせん)」)という体育会系には、柔道やバレーボール、サッカーなどで、世界に通用するアスリートがわんさといる。しかし、情報学群(当時は第三学群情報学類)にいた私には、全く別世界の人たちであり、同学年の現役生が五輪でメダルを獲ったと聞いても、「すごいね」とは言うけど、どこか他人事であり、同じ大学として誇りに思うとかそういう感情は全くの皆無だった。
そんな調子だから、福岡堅樹という俊足の選手が、母校の現役大学生だと知ったときも「ああ体専ね」と思って、やはり他人事で終わっていた。
ところが、ある記事を読んで、彼が実は情報学群の学生であること、しかも、いずれは医者を目指しているという事実を知るに及んで大いに驚き、ついに他人事ではなくなったのである。
彼の第一志望は医学群だった。難関中の難関である。そして彼は併願していた情報学群に入る。こういう言い方は不適切かもしれないが、彼にとって情報学群は「すべりどめ」だった。
私の場合は、第一志望が情報学群でいっぱいいっぱいだった。しかも、入試問題も白紙回答の箇所が多かったので、「ああもうダメだ筑波落ちた」と落ち込んでたら合格したので、私はギリギリ合格ラインに引っかかった程度の学力だと思っている。なので、私にとって、彼の学力は十分に敬服に値する。
更に、情報学群は入学してからがまた大変である。休講がほとんどなく、単位を取るためには落とせない講義や演習、実習が、毎週必ず10コマくらいはある。ひとコマでも落とせば、ほぼ挽回は不可能である。年間15単位未満しか取れない学生には「除籍」というキツい処分が待っている。
そんな学業も成り立たせつつ、ラグビー部に入って日本代表に選ばれ、何週間も海外遠征に行ってて、それでいてしっかり4年で卒業できるというのは、優秀・優等・秀才といったどの言葉も陳腐になってしまうほど、彼はすごいのである。
その上、日本代表引退後は、また医学系の大学に入り直し、医者を目指すというのだから、もはや私のような凡愚凡下が彼について何をか言わんや、である。
彼なら、きっと医師への道も実現させてくれることと信じる。彼の決めた人生、大いに応援したい。
と思っていたが、RWC2019の準々決勝で日本代表が敗退した後、彼がはっきりと15人制代表引退を宣言したときには、やはり寂しさが残った。
もうあのタッチライン際を鋭い加速で駆け抜けていくランが見られない。彼の走りを見た人なら誰でも感じると思う、彼がボールを持って走り出したときの期待感と、「行けー!」という絶叫必至の高揚感はもう戻ってこない。
そんな寂しさが心を深く覆ったが、いややはり彼の人生は彼自身の人生なのだ。いちファンとして、彼が最も輝いたこの4年間をリアルタイムで過ごせたことに感謝したいし、今後の彼の進む道に幸あれと願うばかりである。