Ф(¨ )創作にキク絵本( ..)φ③ウェン王子とトラ
こんにちは、鐘古こよみです。
学校や図書館で絵本の読み聞かせボランティアをしています。
また、趣味で小説を書いています。
創作をしている人にこそ読んでいただきたい!
そんな絵本のご紹介を、なるべく金曜日に1冊目指しています。
第三回目は、『ウェン王子とトラ』のご紹介。
※書影や内容紹介は、各出版社の利用ガイドに則って、使用可の場合のみ引用させていただいています。
<あらすじ>
昔、人間に子供を殺された母トラが、人間を憎んで襲うようになってしまいました。王は困り果て、占い師のおばあさんに助言を求めます。
占い師は、王子をトラに差し出すようにと答え、王様とお妃は泣く泣くその通りにすることに。
幼いウェン王子は勇敢です。森に置き去りにされると、さっそくトラを探します。そして出会ったトラは、ウェン王子を襲おうとするものの、幼い王子の姿に、死んでしまった我が子を思い出して……。
<感想>
最初に読み終えた時、まるで「ディズニー映画を一本観たみたい!」と感じたことを覚えています。
絵本なのでページ数は少ないです。でも、迫力のある水墨画の絵、漫画のコマ割りを思わせる臨場感のある構成、古代中国の歴史を背景とした骨太な世界観……と、1本の映画を作れてしまいそうなほど壮大な物語を、この短い絵本の中に感じたのでした。
トラは、人を襲って殺します。でもそれは、最初に人間がトラの子を殺したからなのです。
この、永遠普遍に人類が繰り返すであろう過ちをテーマに、人と動物を越えた愛の物語が広がっていきます。
最初に感心したのが、王様が占い師に助言を求めるシーン。
占い師は「トラを殺すべきでない、王子を差し出しなさい」とはっきり答え、なんと王様は驚きながらも、その通りにするのです。
占い師の答えは、相手の王様によっては、命が危ないものだったのではないでしょうか。
そして王様は、占い師の言うことなんか無視して、トラに兵を差し向けることだってできたはず。
でも、ちゃんと信頼関係が存在しているのです。
森へ置き去りにされたウェン王子も、とても勇敢です。トラを探し出し、襲われそうになりながらも、寄り添おうとすることをやめません。
いつしかトラも、王子に幼い我が子を見出したのでしょう。徐々に心を開き、距離を縮めていきます。
でも、我が子を奪われた心の痛みは、そう簡単に癒えるわけではない。
こういった厳しい描写もきちんとあるところが、骨太だと感じる所以です。
数年が経ち、とうとう我慢できずに、王様は森へ兵を差し向けます。
その時、対峙したのは、誰だったでしょう。
トラを庇う王子。その王子の姿を見て飛び出したのは、人間の母です。
人とトラと、種は違えど子を思う気持ちは同じ。
いったい本当に獣なのは誰なのか。
そんなことを思わせるシーンが訪れます。
やがて成長して、王となってからも、ウェンはトラを忘れませんでした。
その証に、どんなことをしたか……
それはぜひ、絵本を読んで確かめていただきたいと思います。
私が創作にキク!と思ったポイント。それは、短いお話の中に怒りや恐れ、信頼、本当の愛といった、複雑な人間の感情がギュッと詰まっていて、しかも感動的な曲線を描いて着地する、美しい構成が描かれているからです。
そんな難しいことをいちいち考えなくても、ただ感動する。それでヨシ!
本当にお勧めの一冊です。大人が読んでも十二分に楽しめること間違いなしなので、ぜひお手に取ってみてください!
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