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SF的小噺「二話 サイロン」

 今回の仕事の依頼は、地球の公転軌道上にある工業国家「サイロン」からのものだ。サイロンは、人類がレーザー通信に使う素材・デバイスを一手に引き受ける重要な宇宙都市国家だ。毎年定期的に行われるデバイス供給量についての交渉のようだ。

 ちなみにサイロンには人間はいない。戦前に作られた資源・デバイス管理システムAIが世界大戦中に独立を宣言して建国された変わった国だ。数千機に及ぶ高加速航宙艦艇を有し、人類が争いを始めると仲裁に入ってくる。今では国際警察のような役割を果たしている。

 私の仕事は、サイロンの交渉相手となる「人間」の感情を読み取り、彼らに伝えてあげることだ。機械である彼らは、人間の感情を読み取ることが苦手だ。もちろん、語調や表情から一般の人間よりはよほど正確に感情を読み取れるのではあるが・・・。

(閑話休題)

 サイロンと交渉相手である「南中原国」との交渉は無事に終わった。南中原国は21世紀にユーラーシア大陸にあった大国の一部が数度の世界大戦を経て分離独立した国家である。趣旨は、これまでの数倍にもなるデバイス提供の依頼だった。かつて海南島と呼ばれたクレーター地帯の除染が完了したため、宇宙船の射出システムとレーザー通信の一大基地を作るそうだ。大戦中に破壊されたスペースコロニー「天宮五」を再建し、再び宇宙を目指すようだ。目標に向けた熱意と意思をサイロンにフィードバックしておいた。


トランスレーター


 遺伝子操作とサイボーグ技術により人の感情や意志を読み取るトランスレーター。戦時中に諜報用につくられた人造人間である。敵国の首脳や指揮官の意志や感情を読み取るために創造された。戦後は断種などの憂き目にあったが、一部は私のように生き残った。


つづく

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