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カッとなったら「ちょっと間を置く」…マイナスの感情を飼いならすコツ #5 人間の器

伊藤忠商事社長・会長、日本郵政取締役、中国大使など、数々の要職を歴任し、稀代の読書家としても知られる丹羽宇一郎さん。著書『人間の器』は、その豊富な人生経験をもとに、人として成長するにはどんなことを心がけて生きればよいか、自分の器を大きくするには何をすればよいか、時に優しく、時に厳しく教えてくれる作品です。賢人の知恵がたっぷり詰まった本書、その一部を抜粋します。

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私も昔は血気盛んだった

入社して間もない頃、私は義憤にかられて、思わず上司に大声で反抗してしまったことが何度かありました。

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最初にやったのは若くて血気盛んな、会社に入りたての頃でしたが、30年以上たって役員になったときも、この血はあまり変わらなかったようです。

社長を含め、何人かの役員たちと料亭で会食をしていたときのことです。私の上にいる専務が社長に対して終始、おべんちゃらばかりいっているのが我慢ならなくなりました。

その専務が「社長のお話は本当に素晴らしいです」と何度目かのお世辞をいったときに、「貴様、いい加減にしろ! 社長が今いったことは全然いいことなんかじゃない! お世辞にも程がある!」と酒の上とはいえ、机をたたいて怒鳴ってしまった。

相手は当然びっくりです。傍らにいた女将が「まあまあ、そんな大声を出してはダメですよ」と私の肩をたたきながら、たしなめてくれました。

帰りの車の中で、しまったな、いいすぎたなと思いましたが、やってしまったものは仕方ありません。翌日、その上司のところに行って、「昨日はすみませんでした」と頭を下げましたが、相手はおそらくずっとこのことを覚えていたと思います。

このように上司に歯向かって怒りをぶつけることは、下手すれば左遷やクビになりかねないものですが、心のどこかで「これでクビならしょうがない」という覚悟のような気持ちもありました。

真剣に怒っているときには気持ちの余裕がありませんから、冷静に自分を見つめることなどできなくなります。

ただやはり振り返ってみると、自分はまだ修行が足りないなと思うのです。

人間の中には、本能で動く動物の血が流れています。この動物の血をいかに少なくして、理性で動く人間の血を増やすかが大切なわけですが、私は動物の血のままに動いてしまう愚かさが、まだまだあるんだと感じます。

「感情の飼い主」になろう

怒りの感情は、それが真剣なものであれば、ときには出すほうがいいと思いますが、そういう怒りほど自分を正当化してしまう面もあります。

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自戒を込めていえば、怒りの感情にかられたときは、いったん「間を置く」ということが大事だと思います。高ぶった感情と距離をとることで、動物の血はいくらか鎮まるからです。

怒りもそうですが、恨みや嫉妬といった負のほうへ自分を引っ張っていく感情に対しては、奴隷になってしまってはいけません。感情をうまくコントロールし、「感情の飼い主」になることを心がけるべきです。

感情の飼い主になるには、感情の性質を利用して、巧みに飼いならす工夫をすることも必要です。

たとえば嫉妬は向上心や競争心から生まれるものですから、うまく使えば自分を向上させる原動力になります。相手からバカにされたり、予想外に低い評価をくだされたときは、「今に見てろ」というハングリー精神に火がつき、それまで以上に努力をするかもしれません。

そうやって感情をうまく手なずけることができれば、負の感情に持っていかれることは少なくなるでしょう。

笑いたいときは笑い、泣きたいときは泣く。そうやって感情を思いっきり出すことも人間としては大事なことですが、悪いほうへ持っていかれそうになるときは、意識して感情の飼い主になる。このことは頭の中に常に入れておくといいと思います。

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人間の器 丹羽宇一郎

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