記念すべき第一作の幕開け…アウトロー映画の金字塔が一冊に! #1 シナリオ仁義なき戦い
巨匠・深作欣二によるヤクザ映画の金字塔『仁義なき戦い』。菅原文太をはじめ、松方弘樹、梅宮辰夫、渡瀬恒彦、田中邦衛など、戦後を代表する名優が一堂に会した本作は、今なお映画ファンを熱狂させています。『シナリオ仁義なき戦い』は、第一作目の『仁義なき戦い』から、続編の『仁義なき戦い 広島死闘篇』『仁義なき戦い 代理戦争』『仁義なき戦い 頂上作戦』まで、シナリオを完全収録した貴重な一冊。ファン垂涎の本書より、一部を抜粋してお届けします。
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1 広島上空で炸裂する原爆
巨大な火の玉。地軸を揺がす爆発音。
メイン・タイトル『仁義なき戦い』
無気味な鳴動と共に、ゆるやかに天空に拡大してゆくキノコ雲――にかぶせてクレジット・タイトルが始まる。
「リンゴの歌」、ラジオの「尋ね人」の放送が流れる。
2 ニュース・フィルム
復員列車、焼け跡の露店に群がる人々、浮浪児、マッカーサー元帥――など。
3 焼け跡(中国地方のある小都市)
数人の米兵が若い事務員風の女(山城佐和)を輪姦している。
無気力に遠くから眺めているだけの通行人。その中に、カッと凝視している海軍復員兵姿の若者、広能昌三と山方新一。
N「昭和二十年、日本は太平洋戦争に敗れた。戦争という大きな暴力は消え去ったが、秩序を失った国土には新しい暴力が吹き荒れ、戦場から帰った血気盛りの若者たちがそれらの無法に立ち向うのには、自らの暴力に頼る他はなかった」
(タイトル、終わる)
警官が一人駈けつけ、佐和を助け出そうと手真似で米兵を止めにかかる。
いきなり英語で罵りざま警官に殴りかかる米兵たち、丸腰の警官は無抵抗で逃げかける。
米兵たち、面白半分に袋叩きにして痛めつける。
広能、棒切れを掴んで突進、米兵たちの中に殴り込む。
怒り狂って広能に向う米兵。山方も飛び込んでゆき、加勢。
警官、慌てて広能たちの制止に回る。
警官A「オイ、止さんか、進駐軍じゃないか!!」
広能「バカたれ、早よ女逃がせえ!」
警官、佐和を助けて急ぎ現場から逃げ去る。
殴り合っていた米兵が急に手で広能たちを制止し、
米兵A「オーケー、テイクリージイ!」
とあっさり態度を変えて握手を求めてくる。
ぶっきら棒に握手する広能と山方。
米兵たち、口々に英語で二人を賞め讃えながら、煙草やチューインガムを差し出す。
貰い煙草をつけて、いい気分で米兵たちと別れてゆく広能と山方。
4 盆踊り大会の神社境内(N)
復員服やモンペ姿の男女のフォーク・ダンス。グレン隊上田組の組員、屋代たちが、氷水や西瓜の屋台を回ってショバ代を徴収している。
* * *
近くの樹立ちで一人で立ち小便している組長の上田透。
四人の男が背後から迫る。博徒土居組の組長土居清、若頭の若杉寛、組員の野方守、江波亮一。いずれも海育ちの屈強な青年たちである。上田、ハッと振り返る。
土居「上田、わりゃボンクラのグレン隊のくせして、ここらのカスリ取っとるげなのう。ここは前から土居のシマじゃ!」
逃げかける上田に野方等が組みつく。
土居「若杉、やれえ!」
若杉、提げていた日本刀を引き抜く。
暴れる上田を野方が羽交い締め、江波が左腕を逆手に取って引っ張る。同時に若杉が大上段から気合諸共叩き斬る。
吹き飛ぶ左腕と鮮血。絶叫を挙げて転げ回る上田。
屋代たちが駈けつけてきて、その光景に泡を喰って逃げる。
野方たちが屋代を掴まえて押さえつける。
若杉「こいつは右腕じゃ!」
上田同様に屋代の右腕を伸ばさせる。
屋代「(半狂乱で)堪えてつかいや、堪えて!」
若杉、構わず、据物斬りのように屋代の右腕に一度刀を当てておいてから、一撃で斬り落す。
5 闇市
ゴッタ返す人波の中で、復員兵姿の槇原政吉、矢野修司、大柿茂男たちが雑炊鍋や闇物資の露店を出して稼いでいる。
その近くに、材木を積んだトラックが来て停まる。
荷台の胴に「土木請負・山守組」「駐留軍専用」のペンキ書き。
坂井鉄也、神原精一、川西保が降りて、材木の蔭に積んでいたシートの包みを下ろす。槇原たちがそれを迎えて、一同で手伝ってシートを開ける。中は煙草や砂糖などの米軍の横流れ品。
槇原が数を当り、坂井に金を払う。
と、近くにジープが停まり、MPと前川巡査等警官の一隊が降りてきて、とり囲む。
坂井「逃げえ!!」
警官、MPたちをハネ飛ばし、蹴とばして四方へ逃げ散る坂井たち。
6 ハッピー食堂の店内(N)
米軍の残飯加工の唯一の食堂で、闇屋やパン助たちの溜りになって賑々しい。
その一隅で広能が泡盛を呷りながら、古い電蓄の広沢虎造の浪曲レコードに聞き入っている。不意にその音を打ち消すようなジャズの音響。表の方を見やる広能の目に、いつかの女、佐和が米兵と手を組んで、ポータブルラジオをこれ見よがしに提げて入ってくる姿が留まる。
カッと睨みつける広能。
佐和もフト目が合い、バツが悪そうに米兵を促して急いで表へ出てゆく。
鬱屈した感情で泡盛を飲み下し、レコードの浪曲に惹きつけられている広能。
と、其処へ、表から川西が片手を血だらけにした山方を支えて入ってくる。
川西「広能いうもんおるか!」
見て、駈け寄る広能。
広能「山方、どしたんない!?」
山方「き、斬られた……!」
川西「川筋の特飲街での、わしと女ハリ合おうた極道もんがおってよ、これが止めに入ってくれたんじゃが、いきなり日本刀持ち出して斬ってきたんじゃ。済まんがの、土建屋の山守組の事務所知っちょろうが。其処にわしの仲間がおるけん、道具持って来い云うてくれゃ!」
広能「おう、分った!」
と飛び出してゆく。
7 山守組事務所の表(N)
バラック建ての二階から外階段を駈け降りてくる坂井、神原、それに新開宗市、杉谷信彦等。それぞれ拳銃や日本刀などを持ち、待っていた広能に、
坂井「喧嘩ア何処ない!?」
広能「川筋の特飲街じゃ」
坂井「よし、みんな分れて行け!」
ばらばらに駈け出してゆく一同。
新開が日本刀を服の内側に隠して突っ込みながら、
新開「人間一匹ぶった斬るとこ見せちゃるが、一緒に来んか!」
ついてゆく広能。
新開は刀の先がズボンの膝まで通っているので、ギプスでもはめたように跛をひいてゆく。
手を貸してやる広能。
8 特飲街の通り(N)
ワッと通行人が逃げ散ってゆく。
その後から抜き身の日本刀を提げてブラブラ歩いている着流しのやくざ風の男。
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神原と杉谷が走ってゆく。
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坂井が懐の拳銃を握りしめながら探してゆく。
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広能と新開が探してくる。
川西が一方から駈けてくる。
川西「おいッ、精ちゃんとノブがやられとるど!」
走ってゆく広能たち。
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ドブ川に落ち込んで、足を取られている神原と杉谷を、坂井が引っ張って上げている。
広能たち駈けつける。
新開「やられたんか、おい!」
神原「大丈夫じゃ。ノブと二人で見つけてかかったんじゃがの、もの凄う強うて、それで逃げ場がのうて……!」
杉谷「ありゃ、金筋の旅人じゃ!」
新開「なんぼ金筋じゃ云うて、仰山げな」
坂井「じゃったらお前一人でやってみイ!」
新開「(ためらって)わしゃ顔知らんしょ……」
川西「闇市の連中も呼んで手伝って貰おうた方がえかろうか」
広能「なんよう、わしが行こうか、のう。斬られたんはわしの友達じゃし、やってもみんで人頼んだらあんた等恥かこうが」
坂井「こんな、道具持っとるんか?」
広能「持っとらんよ。なんか探してくるよ。相手は今何処におるんの?」
神原「組合の事務所で脅しちょるらしい!」
坂井「こんなァもし、やってくれるんなら、これ持ってけ!」
坂井、懐中の拳銃を出して渡す。
広能、無造作にポケットに突っ込んで駈け出してゆく。
後を追ってゆく坂井たち。
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特飲店組合事務所の表。
遠見の弥次馬の人垣を突きのけて広能が近づく。ポケットから拳銃を出し、ソッと表戸の隙間から中を窺う。
突然戸が開き、中から例の着流しの男が顔を出す。
男「また来やがったか!」
いきなり、日本刀で横殴り。
飛び退った広能、両手で拳銃を持って引金を引く、が、カチッと空撃ちの音。
男、大上段に振りかざして迫る。
金縛りになったように動けない広能、突進してくる男の真ッ向から夢中で二発目の引金を引く。
銃声と同時に男の体がはね飛び、路上に叩きつけられる。
仰向けの死体の眉間から血しぶきが噴き上げている。
広能と後から来た坂井たちは一瞬呆けたように死体を囲んで眺める。
広能「おい、やったぞ!」
坂井「逃げい! 逃げい!!」
一目散に駈け出す広能、坂井たち。
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