ワークライフバランスを考える前に、まずは「1万時間」全力で取り組みなさい #5 35歳の教科書
自分にしかできない仕事をやっているか。組織に埋没していないか。定年後に自分の居場所はあるか……。残業をしても給料は上がらず、ポジティブシンキングだけでも乗り切れない時代に、どう働き、生きるべきか。リクルートフェロー、杉並区立和田中学校校長などを歴任した藤原和博さんの『35歳の教科書 今から始める戦略的人生計画』より、そのヒントをいくつかご紹介しましょう。
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才能を開花させるのは「練習量」
成長社会におけるひとつの宗教とは「がんばれば報われる」という教えでした。
学校でも家でも「がんばれ」と言われ、塾ではその10倍も「がんばれ」と言われる。そんな努力が報われる社会だったのです。
現在は、ただ猪突猛進型の努力を繰り返すだけでは有効でなくなってきている。成熟社会が到来したからです。
ただし、だったらがんばらなくてもいいのか、と言えば、それは違う。量をこなさなければ身につかないことはたくさんあります。
前述した『天才! 成功する人々の法則』には「天才と呼ばれる人々がどれほどの時間をかけて練習しているのか」ということが詳細に書かれています。著者によると、天才の練習時間はおよそ1万時間に及ぶそうです。
人気が出る以前、ビートルズはハンブルグの「朝から晩まで演奏できるバンドをよこせ」という依頼を受け、リヴァプールから送り込まれました。その頃の演奏時間は1日10時間が当たり前だったそうです。もちろん彼らの生まれ持った才能もあったのでしょうが、このような経験を経たからこそセンスが磨かれ、大スターとなれたのだと思います。
マルコム・グラッドウェルはこう言っています。
「成功した人は『才能とは資質』と答える。もちろんそうかもしれないが、その才能を開花させるのは練習量だ」
もちろん「おもしろい」と思わなければ1万時間も練習することはできないでしょう。逆に言えば、1万時間もひとつの物事を練習できることこそが才能なのです。
ハードワークを一度は経験すべき
これは営業の仕事にも言えると思います。確かに営業マンはセンスがあってこそかもしれませんが、それよりもまずは「練習量」が問われます。初めはうまく話せなくても回数を積み重ねていくうちにスムーズに話が通るようになる。これは日々営業まわりをし続けた成果が生み出すものです。
リクルートに勤めていた頃は、朝と夜にミーティングを行っていました。課長がお客になって営業マンを鍛えるロールプレイです。何百回と繰り返すうちに、新人もどんどん上達していきます。私はこの時、
「やっぱり場数を踏むことが何より重要なんだ」
と確信しました。とくに25歳から35歳の10年間は、どのフィールドでどれだけの練習を重ねるかが未来を左右します。
私は決して会社に滅私奉公しろと言っているのではありません。自分のために、会社という組織を利用して、固有の技術を磨いてほしい。そのためには、やはり厳しく、長時間にわたる「練習」が欠かせないことを理解してほしいのです。のです。
20代から30代前半で「ワークライフバランスが大切」と言われても、首をかしげざるを得ない。やはり、社会人になってから5年、10年は圧倒的なハードワークを経験すべきでしょう。
私のように病気になるまでやり抜くのは行き過ぎかもしれませんが、でも、だからこそ得たものは大きい。少なくとも若い頃にのんびりしていたら、今のような仕事や生活は実現しなかったと断言できます。
40代、50代になって、本当に豊かな仕事と生活を手に入れるためにも、若いうちに武器を手に入れておくことです。
あなたは何に対して、1万時間を投入しますか?
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