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サッカー日本代表が世界と戦うために取り組んだ「体幹トレーニング」 #3 小さくても、勝てる。

身長という壁、2度のリーグ降格、原因不明の病。170センチの小さなストライカーは、挫折のたびに「考え続ける」ことで得点王に上りつめた……。サンフレッチェ広島などで活躍し、昨年、惜しまれつつ引退したプロサッカー選手、佐藤寿人。初の著書『小さくても、勝てる。』は、今まで明かさなかったこだわりのゴール理論や、秘められたエピソードを忌憚なく語った一冊だ。サッカーファンお待ちかねの本作の、ためし読みをお届けします。

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岡田監督から渡されたもの

さらにフィジカルを強化しようというきっかけを与えてくれたのが、岡田(武史)さんの言葉だった。急性脳梗塞で倒れたイビチャ・オシムさんの後を継いで日本代表監督に就任した岡田さんは、ワールドカップのベスト4を目指していく中で、僕ら選手に向かって、こう言葉を投げかけた。

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「日本代表として活動できる時間は限られている。選手各々が技術を上げることはもちろんだが、それ以外の部分でも各々がクラブにいる時間でトライしてほしい」

そして、選手たちに1本のトレーニングDVDが配られた。

2006年に初めて日本代表に招集され、ジーコさん、オシムさんの下でプレーする機会に恵まれたが、日本代表で技術面ではなく、フィジカル面でアプローチをされたのは初めてのことだった

おそらく、あのフィジカルトレーニングに励んだ当時の日本代表選手はみな、その後のキャリアに大きな影響を及ぼしているはずだ。

結果的に僕は2010年南アフリカ・ワールドカップのメンバーに入ることはできなかったけれど、DVDを渡されたその日からフィジカルの強化に力を入れてきた。だからこそ、2012年にJリーグの得点王になることができたし、9年連続での二桁得点を記録できていると思う。

当時の日本代表が参考にしていたのは、ドイツ代表が取り入れ、結果を残していた「アスリートパフォーマンス」のトレーニングだった。

当時、ドイツ代表の監督を務めていたユルゲン・クリンスマンがアメリカでそのトレーニングに出会い、ドイツ代表に持ち込んだものだ。そして、自国開催だった2006年のドイツ・ワールドカップで3位の好成績を収めたことで、そのトレーニング方法は一気に注目を集めていた。

細かく話すと長くなるが、いわゆる「体幹」を鍛えるのがその主旨になる

「ドローイン」と呼ばれているのだが、普段からもお腹を凹ますことで、背筋が伸び、正しい姿勢を維持できる。最初は慣れるまで大変だったけれど、続けていけば自然とできるようにもなる。

正しい姿勢を保つことは、試合中のあらゆるプレーを正確にし、より選択肢の幅を広げてくれる。また、ダンベルを持たずに、自分の体重だけでできるメニューが多いのも、このトレーニングの魅力だ。

「ぶれない力」を身につける

「アスリートパフォーマンス」には、ドイツ代表も担当した日本人の咲花正弥さんがいるということもあり、僕は2008年のシーズンが終わると、高柳一誠(現・ヴィッセル神戸)とサンフレッチェ広島のトレーナーと一緒に、施設があるロサンゼルスへと飛んだ。

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短期間ではあったが、そこで学んだ日々は、その後の自分に大きな変化をもたらした。1日や2日、それこそ1カ月やそこらで効果の表れるトレーニングではないが、半年くらい経つと試合や練習で簡単に転ばなくなった

例えば、一番分かりやすいのは、シュートを打つときに身体のバランスを崩して枠を逸れてしまうことがある。だが、体幹を鍛え、正しい姿勢が保てるようになってからは、シュートを打つときに身体の軸や芯がぶれることなく、ボールを捉えることができるようになった。

2011年6月11日、J1第14節のアルビレックス新潟戦で決めたシュートは、まさに体幹トレーニングの効果を実感した得点だった。

中盤で(髙萩)洋次郎が相手からボールを奪取し、ノリ(石川大徳)に渡すと、僕はDFと駆け引きしながら、ピッチ中央からやや左サイドにポジションを移した。ゴール前に走り込みながら、ノリからのパスを受けると、ファーストタッチでシュートを放った。

左サイドから左足でシュートを放つには、身体を少しひねるように蹴らなければならない。時間は試合終了間際の後半44分。疲れていて、体力もほとんど残っていない。だが、その状況の中、インパクトする瞬間はしっかり身体の軸が残っていたため、確実にゴール右スミを狙って蹴ることができた

シュートした後はさすがに倒れたけど、体幹を鍛える前だったら、まずボールが枠に飛んでいなかっただろう。

最近はみんなから身体が大きくなったと言われるけど、それも体幹トレーニングの効果だろう。特にケツが大きくなったと言われるが、そういえば「アスリートパフォーマンス」で「ケツはケガしない」と、言われたことを思い出す。身体の軸を強くするため臀部を強化してきたこともあるかもしれない。

世界との差を縮めるために、日本代表で配られた体幹トレーニングの映像は、今はiPhoneに移し替え、いつでも見られるようにしている。

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