もしかしたら天才? アスペルガーが持つ「優れた特性」とは #5 アスペルガー症候群
近年、激増しているという発達障害。中でもアスペルガー症候群は、こだわりの強さや、対人関係の不器用さのため、「生きづらさ」に悩む人も多いそうです。そんなアスペルガー症候群の特徴や原因、改善策、活かし方まで、すべてを網羅したのが、精神科医・岡田尊司先生の著書『アスペルガー症候群』です。まさに決定版ともいえる本書の内容を、一部ご紹介しましょう。
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(1) 高い言語的能力がある
アスペルガー症候群の人では、言語(ことに文章言語)を扱う能力が優れている。ふだんの会話の稚拙さと、文章で書いたものを見比べて、驚かされることもしばしばである。
論理的に専門的な話をすることはできるが、日常会話になると、急にぎこちなくなり、精彩を欠くということもある。小さい頃から語彙が豊富で、大人びた喋り方をする傾向がある。
かといって、国語が得意とは限らない。漢字の書き取りでミスが多かったり、書字がひどく下手ということも普通である。国語がそこそこ得意な場合も、論理的な文章には強いが、詩のような文学的な文章は苦手という傾向がみられる。
感性や情趣よりも、ロジックや明晰さに関心をもつ。もっとも明晰な言語である数学やプログラミングに興味をもつ人も多い。
ロジックに強い傾向は、法律関係や行政関係の仕事に活かせるし、会計関係やIT関係の仕事に適性がある人も多い。
(2) 優れた記憶力と豊富な知識がある
アスペルガー症候群の人は、興味ある領域には専門家のような知識をもつことも珍しくない。知識全般が優れている傾向があり、子どもの頃から、事典的な知識に通じて、ちびっ子博士のような存在であることも多い。
経験した知識というよりも、本で読みかじった知識が多く、実際、このタイプの人は、子どもの頃、物語を読むよりも、事典を読むことを好んだりする。
こうした知識の豊富さは、このタイプのもつ高い集中力とともに、優れた記憶力によっている部分である。幼い子どもが、一度乗った路線の駅の名前を、すべて覚えてしまうということもある。
写真眼と呼ばれるように、目に触れたものをことごとく記憶してしまう、途方もない記憶力のもち主もいる。それは、あくまで少数だが、平均よりかなり優れた記憶力をもつことが多い。ごく些細なことも、よく覚えている。
すぐれた記憶力や知識力は、医師や薬剤師、法律家など、膨大な記憶を必要とする専門職、学者や研究者になるのに有利である。
(3) 視覚的処理能力が高い
アスペルガー症候群や高機能広汎性発達障害の人の中には、視・空間処理能力が、ずば抜けて高い人がいる。アスペルガー症候群の人は、全体としては、言語的能力が優位で、視・空間的能力が劣る傾向がみられるとされるが、視・空間処理能力に優れるケースも少なくない。
こうした能力は、日常生活では、パズルをしたり、地図を読んだりするくらいしか、使い道がないが、いくつかの職業的な分野、たとえば、建築の設計や造園、デザイン、アニメーションなどの映像作品の制作、数学や工学の分野においては、極めて必須の能力となる。
建築家アントニ・ガウディやアニメ作家ウォルト・ディズニー、映画監督のアルフレッド・ヒッチコックもこのタイプの人であった。
高機能自閉症の人では、言葉で考えるのではなく、映像思考と呼ばれる視覚的なヴィジョンで考える力が発達している。このタイプの人にとって、芸術的な取り組みや療法は、生き生きと自分を解放できる時間になる。
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホやモーリス・ユトリロ、アンリ・ルソーをはじめ、そうした才能を開花させた、自閉症やアスペルガー症候群をもった多くの画家が知られている。
ビジュアルが優勢のこの時代は、アスペルガー症候群の人にとっては、この領域にも活躍の場が広がっている。
(4) 物への純粋な関心がある
アスペルガー症候群の人は、好奇心が旺盛で、人が当たり前と思っていることにも疑問や関心をもち、それがなぜかにこだわり、その理由を探求しようとする。物の構造や中身を知ろうとし、物自体の形態や質感や多様性に魅了される。一つのものを収集したり、細部を観察したりすることに夢中になる。
人間に対する見方も、常識的な見方とは少し異なり、共感して相手を理解しようとするよりも、一つのシステムや装置として理解しようとする傾向がある。心というものを、直接的に共感するのは苦手なために、ある刺激に対して、ある反応が返ってくるということを経験的に学習することで、装置の特性やパターンを理解するのと同じように理解する。
しばしば将棋の駒のように人の動きを理解しようとし、感情とは無関係に、利害や都合だけで、人を動かそうとすることもある。
こうした特性は、科学者やエンジニアとして、客観的に現象を眺める上で有利であるし、指導者や経営者として部下を駒のように操る手腕を発揮する場合もある。ただ、あまりにも冷徹になりすぎると、部下からそっぽを向かれてしまうこともある。
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