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私が髪を紫色に染めていた理由…佐伯チズさんが遺した言葉 #2 今日の私がいちばんキレイ

昨年、惜しまれつつ他界した、美容家の佐伯チズさん。晩年の著書『今日の私がいちばんキレイ 佐伯流人生の終いじたく』には、チズさん流の生き方、老い方、そして死に方のヒントがつづられています。多くのファンから愛された、チズさんの「遺言」ともいえる本書。その中から、心に響く「最後のメッセージ」をお届けします。

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年齢によって似合うものは変わる

長年にわたり、美容業界でたくさんのお客様と接してきた経験から気がついたことがあります。三十代、四十代になっても、二十代の頃と同じメイクをしている女性がとても多いのです。

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女性は無意識のうちに、一番モテていたときの自分の姿を追っていて、「私に似合う色はこれ」と決め込んでしまいがちです。現に街を歩いていても、何十年も前に流行った口紅を平気で塗っている女性がいて、驚かされることがあります。

年齢とともに私たちの肌の色は変わるし、面立ちや全体の雰囲気も変わります。よくも悪くも“変化”するのですから、それに合わせて似合う色や形が変わるのもごく当然のことだと思います。

洋服でいえば、私の場合四十代は白いスーツも着たし、プリントのブラウスも買っていました。けれども五十代になるとそれらは似合わなくなり、紺色が一番しっくりとくるように感じました。そして六十代に入ると、黒を多く着るようになりました。

七十代に入った今も黒はよく着ますが、黒い服を選ぶ最大の理由は、お客様よりも目立たないようにするためです。しかし、黒というのは人混みの中ではかえって際立つ色でもあるのです。そして、喪服を着た女性が美しいのは、「黒一色」という色調が肌を白く際立たせるからで、肌を白く見せたければ、反対色である黒を選べばよいのです。

そうはいっても、ふだん黒一色だと、それこそ「お葬式ファッション」になってしまいます。だから、私の場合はちょこっと胸元にピンブローチをつけたり、フレアスカートにしてみたり、タックの入ったブラウスにしてみたりといった“ひと工夫”を加えています。

肌も髪も人と違って当たり前

そして色といえばよく人から聞かれるのが、私の紫色の髪です。「どうして紫なんですか?」「どこで染めていらっしゃるの?」など、皆さん興味をもってくださるのですが、この紫にいたるまでには紆余曲折があるのです

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二十代の頃から白髪が多かった私は、当初月に二回白髪を染めていたのですが、染めても染めてもハチマキを巻いたように生え際に白いものが現れ、まさにイタチごっこでした。

そんな折、夫の転勤でアメリカのカリフォルニア州に移り住んだのですが、向こうでは白髪を染めている人などいませんでした。肌の色も髪の色もさまざまです。

日本では頭をジロジロと見られたり、電車の中で「お母さん、外国人がいるよ」と子供に指を差されたこともあります。しかしアメリカでは、私の若白髪をしげしげと眺める人はいません。「そうか、肌も髪も人と違って当たり前なんだ」。そう気づいてから、白髪を黒く染めるのはやめました

ただ、白髪は放っておくと黄ばんでくるのです。だから、不潔っぽくならないよう、アメリカで“カラーリンス”を大量に買い込んで、いろいろなカラーを試してみました。グレーは老けて見えるし、濃色だと地肌の白さが目立ってしまう。結果、肌にも自然になじみ、一番しっくりきたのが紫色だったのです。

私は二十七、八歳でヘアダイはやめて、それ以来カラーリンス一筋です。今は月に一回、紫のカラーリンスで、バスタイムに自分で色を入れています

そして髪型は、かつてはシニヨンにしていた時期もありましたが、今それをやったら本当のおばあさんになってしまいます。老けて見られるからというよりも、不本意な髪型をしていると自分が気持ち悪いではないですか。

今は自分自身が納得した髪の色とカットだから、周りの方も「チズさんの髪、いいわね」と言ってくださるのだと思います。

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