岡田光世新刊『ニューヨークが教えてくれた “私だけ”の英語 “あなたの英語"だから、価値がある』(6/21)より、冒頭を特別公開!
2022年6月21日(火)に岡田光世さんの新刊『ニューヨークが教えてくれた “私だけ”の英語 “あなたの英語"だから、価値がある』(CCCメディアハウス)が発売になりました!
発売を記念して、冒頭の“はじめに”部分をこちらのnoteでも公開させていただきます。
2大ロングセラーシリーズ、『ニューヨークの魔法』シリーズ(文春文庫)と『奥さまはニューヨーカー』シリーズ(幻冬舎文庫)を描いてきた著者が、どんなふうに英語を学び、挫折を乗り越え、モノにし、活かし、人と心を交わしてきたかを、初めて語るエッセイをぜひお楽しみください!
* * *
はじめに
アメリカ行きのスーツケースにいつも私は、中学英語の教科書を詰めた。誰もが慣れ親しんだ3冊の本が、ニューヨークでもこんな出会いをもたらしてくれるから。
Wait! Wait! Wait! 待った! 待った! 待った!
70代くらいのアフリカ系アメリカ人女性が、停留所に止まっているバスに向かって必死に叫ぶ。私もそのバスに乗り遅れまいと、大きな買い物袋を手に、ダッシュする。
ちっ、行っちまったよ、と女性がつぶやく。その人も同じバスに乗りたいのかと思ったら、どうやらバスを降りたばかりで、歩きやすいように荷物をまとめ始めた。
私のためにバスを呼び止めようとしてくれたの? と聞くと、そうだよ、と答える。
I know everyone is trying to get home. みんな、家に帰ろうとしてるんだからね。
そう言うと、女性は目の前の店に入っていく。入口近くの棚の上に手を伸ばし、何か取ろうとしているのが、ガラス越しに見える。背の低い彼女には、届かない。
私は、その店に用はなかったけれど、中に入り、女性に声をかけた。
Maybe I can help you with that, even though I'm about as short as you.
私が役に立てるかも。といっても、私、あなたと同じくらい背が低いんですけど。
女性が笑う。彼女がほしがっているコーヒーに、腕を伸ばす。でも、届かない。
I'm sorry. I couldn't help you. 役に立てなくて、ごめんなさい。
That's all right. Thank you. We have to help each other, you know.
その気持ちだけで、うれしいよ。お互いに助け合わなきゃ、そうだろ?
ああ、この人と私は、同じ地球の上で、“今”をともに生きている! 私は胸がいっぱいになった。難しい言葉はひとつもいらない。そこにあるのは、中学英語だけ。
初めて英語と出会った時、「英語って、なんてつまらないんだ」と思った。
そんな私が、英語に恋をした。「英語って、生きている」。そう実感した瞬間に。
「アメリカに行けないなら、死ぬ!」と家族の大反対を押し切り、ウィスコンシン州の高校へ。ところが、私が口にした「ストレート」さえ通じない。周りで何を言っているのかわからない。こんなはずじゃなかった、日本に帰りたい、と泣き暮らした。
その後、アメリカの大学、大学院で学び、ニューヨークで新聞記者をし、多くの人と出会い、そこでみつけたことは、いつも同じだった。人の心を打つのは、誰もが知っているシンプルな言葉。決まり文句ではない、あなた自身の言葉だということ。
相手が知りたいのは、あなたのこと。“完璧”でなくていい。あなたにしか話せない、あなただけの英語で、あなたの心を伝えたら、相手は耳を傾けてくれる。
長年、過ごしたニューヨークを舞台に、人の心と心が触れ合う瞬間を、『ニューヨークのとけない魔法』をはじめとする「ニューヨークの魔法」シリーズ(文春文庫、全9冊)に描いてきた。実際にやりとりした英語の言葉を、どの話にも織り交ぜている。
別のシリーズ『奥さまはニューヨーカー』(幻冬舎文庫、全5巻)は、日本人一家が英語の失敗を繰り返しながらも、明るくたくましく暮らす様子を描いた英語漫画だ。
「こんなに簡単な英語で、心を通わせることができるんですね」「英語は好きじゃなかったけれど、今から勉強したくなった」という声が、私の元に多く届いている。
私がこれまで英語とどう向き合い、習得し、活かしているか。どうしたら人は心を開くか。私が英語を学び直すとしたら何をするか。そして何より伝えたいことは──。
ページをめくってみて。きっと胸を張って、あなただけの英語を話したくなります。
岡田光世
◇ ◇ ◇