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すべてのシュートには必ず理由がある…佐藤寿人の「サッカー哲学」 #1 小さくても、勝てる。

身長という壁、2度のリーグ降格、原因不明の病。170センチの小さなストライカーは、挫折のたびに「考え続ける」ことで得点王に上りつめた……。サンフレッチェ広島などで活躍し、昨年、惜しまれつつ引退したプロサッカー選手、佐藤寿人。初の著書『小さくても、勝てる。』は、今まで明かさなかったこだわりのゴール理論や、秘められたエピソードを忌憚なく語った一冊だ。サッカーファンお待ちかねの本作の、ためし読みをお届けします。

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これがストライカーの条件だ

僕はすべてのゴールを言葉にして説明することができる。それは、すべてのゴールに、そこに至るまでの明確な過程と理由があるからだ。

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もし、仮にシュートを打つときに何も考えずに打っている選手がいるとすれば、その選手はいずれプロでは通用しなくなるだろう。そのときはゴールを奪えているかもしれないが、いずれ行き詰まるはずだ。

どんなストライカーであっても、1点を奪うために、ときには2本、3本、ときには5本以上のシュートを打つ。一つのシュートに対してどれだけ修正できるかで、次のシュートを結果に結びつけられるかどうかが決まる。

だからこそ、シュートには1本、1本、理由があり、ストライカーはそれを説明できなければいけない。これは僕のストライカーにおける最大の定義である。

一般的に「ごっつぁんゴール」と呼ばれる得点ですら、説明は可能だ。

こぼれ球を押し込んだだけに見えるかもしれないが、ボールが転がってくる場所を予測して、動いていなければ、そこにいることはできない。

チームメイトがシュートを打った瞬間、もしくはシュートを打つ前から、「ここにこぼれてくるかもしれない」と考え、動く。準備しているからこそ、詰めることができる。

だから、こぼれ球に詰めてゴールを決めた試合後に「ラッキーでしたね」と言われても、完全には同意できない。僕には明確なイメージを持ち、準備をしていたという自負があるからだ。

「考える」からゴールが決まる

そういう意味では、「ゴールへの嗅覚」という表現は間違っているのかもしれない。それは「感覚」ではなく、「思考」のなせる業なのだ。

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2012年シーズンは34試合に出場して22得点を決め、初めてJ1得点王になることができた。その22得点すべてが偶然生まれたものではなく、考え、準備し、そして動いたからこそ生まれたゴールである。

自分は決して体格に恵まれているわけではない。その身体的ハンデを克服するために、幼いころから自分の武器を身につけ、磨いてきた。また、自分の武器を生かすためにチームメイトに要求し、特長を理解してもらってきた。考えに考え、そしてここまで自分を磨くことができた。そのすべてはゴールを決めるためにあり、チームが勝利するためにある。

それができるのも、すべてはチームメイトのおかげだ。Jリーグアウォーズで得点王を受賞したときに話したスピーチは、その感謝の気持ちを示したものである。だから、ここでもう一度、その言葉を記して、この章を締めたいと思う。

「僕自身、今シーズン22ゴールを決めることができました。しかし、自分自身の力だけで取ったゴールはほとんどありません。僕がゴールを決めるときにはGKとDFの選手が相手からボールを奪い、MFの選手がそのボールを前に運んでくれています。

僕はストライカーとしてゴールネットを揺らすという最後の仕事を担っているだけで、得点王を取ることができたのは、すべてチームメイトの皆さんのおかげです。僕自身、こうやってゴールデンブーツをいただいていますが、これはチームメイトみんなで取った賞だと思っています。

素晴らしいチームメイトと素晴らしいシーズンを送れたことを感謝しています。みんな、ありがとう」

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