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Creepy Nutsの「IPPONグランプリ」でスベった話 #5 HIPHOPとラジオ
ラッパー・R-指定と、ターンテーブリスト・DJ松永による人気ヒップホップユニット、Creepy Nuts。彼らがパーソナリティをつとめる『Creepy Nutsのオールナイトニッポン』が、多くのリスナーに惜しまれつつ、3月をもって終了することが発表されました。
『HIPHOPとラジオ Creepy Nutsのオールナイトニッポン読本』は、同番組のすべてを詰め込んだオフィシャルブック。リスナーなら絶対見逃せない本書から、内容の一部を公開します。
* * *
Rがダメな話
IPPONグランプリ
2020.06.02 #111
DJ松永(以下D) Creepy Nutsが「IPPONグランプリ」に出演します。
R-指定(以下R) これはすごいよ。
D 全員、超面白かったな。
R おもろかった。あの距離でプロの人たちに笑かしていただけるなんて、もう最高。
D 最高だったね。
R 並びのゲストの人もね、豪華だったしね。楽しかったなあ。
D 楽しかったですね。でも、あれだよね。Rさん、楽しかった?
R いや、当然楽しかったよ。面白かったよ。
D 本当に言ってんの?
R だってこの距離で、フリップ、ばって見せられたって感じだしね。だから……楽しないわ、全然(笑)。 楽しなかったわ。
D ちょっとちょっと、ごめん。
R 楽しかったよ、途中まで。
D 夢の舞台じゃん。
R ありがとうございます。
D 本当に俺、笑い疲れて、すっごい幸せな気持ちで眠れたよ。
R 俺も最高に楽しかった、あの瞬間までは。
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D Rさん、何があったのよ。
R もう思い出さすな。
D R、詳しく聞かせてよ。何があったの?
R 「IPPONグランプリ」見たことある人やったら分かると思いますけどね。Aブロック、Bブロックとか終わって、決勝行く前とかかな。そのタイミングで、観覧ゲストの人にも大喜利が振られるんですね。
D よく見てたわ、俺も。
R 俺も見てた。横並び、青山テルマさんとかおるんですよ。バラエティーに出まくってる。
D ねえ。本当ですよ。
R だから当然、この並びでいくと、そりゃやっぱバラエティー能力もあるテルマさんとかに振られんねやろなと思ってたら。
D まあ、そりゃそうだよね。
R あのいまいましい、アナウンサーの声、俺、忘れへんよ。
D 榎並大二郎さん?
R 榎並さんの。「Bブロックの熾烈な戦いが終わりました。ということで、ここで観覧ゲストの方にも言葉を巧みに操るプロとして、ラッパーのR―指定さん、ちょっと写真で一言をやってもらいましょう」。いや、おまえ、いい加減にしろよ、まじで(笑)。ふざけんなよ。
D 打ち合わせはあったけどね。
R なんで俺がこんなに腹立ってるかって、腹立ってるってのもおかしいけど、こんなに俺がやるせないのは、打ち合わせあったんですよ。で、打ち合わせで一応ね、スタッフさんが、ご覧になったことあると思うんですけど、観覧ゲストの方にもちょっと写真で一言振らしていただくかもしれません。
D かもしれません、ね。
R 誰に来るかも分かりません、みたいなこと言われた時に、松永さんが、めっちゃ嫌ですって言ったんですよね。
D ちょっと失礼だったなとか反省してる部分もあるんだけど。
R いやいや。
D 俺はもう、オフィシャルで無理です。
R でも確かにバラエティーのノリとかね、嫌なことはちゃんと嫌って言わなあかんから、松永さん、ちゃんとそれやんの偉いなと思うし、俺も嫌やったから。松永さんが代弁してくれてたんよ。なんで大喜利振られて答えるのが嫌なのかっていうのを、しっかりスタッフさんに。芸人さんたちが命削って本気で大喜利やって、プロの領域、いわば聖域ですよね。
D 本当よ。
R そこに僕らは見に来させていただいただけの、お笑いに関しては素人の俺たちが、そこで下手なことをしてしまうのは、命削っている人たちに対して失礼やと思うんですよって。
D 本当よ。
R 松永さんが言ってくれたから、もう、そのとおり。
D ありがとうございます。
R 逆の立場で考えたらね。
D 例えばUMBの決勝とかね。
R とか、DMCの決勝で、やったことない、そこに来てる別ジャンルの人が、ノリでやってみたみたいなのって、ちょっと気悪くするんじゃないかな、みたいに思って。俺も横で深くうなずいたんよ。まあそうですね、申し訳ないんですけど、ちょっとこれは失礼やからできないかもしれないですね、みたいな感じで。スタッフさんも、あ、分かりました、みたいな感じで打ち合わせ終わったから、まさか来えへんやろと思ってた。フリとして取ってたんやとしても、あんだけ断ってた松永じゃなくて、俺って。
D 俺、あの瞬間、すっごい、いろいろ申し訳ない気持ちになってしまった。
R 榎並が(笑)。
D 俺も自分に来る腹づもりでずっと考えてたから。Rが指名された時に、うわっと思って。完全に打ち合わせで、俺がごねまくったのと、やっぱりDJという業種のおかげで、また得をしてしまったと思って、本当に、R、あの時はすまんと思った。神に祈ったもん。
R でも、今このテンションで「榎並」とか言ってるけど、当然しっかり面白くなるように振ってくださったから、「榎並さん」とは思ったけど。一日明けた今でも「フジ、こら」と思ってんねん。
D もう自暴自棄になっちゃってるから。
R すんません。今ちょっと俺、まわり見えなくなってるから。
D いや、大丈夫。
R 当然呼ばれてありがたいことですよ。フジテレビさんにも榎並さんにも感謝しかないですけど。あの瞬間だけは、ぶち殺したろかなと(笑)。
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D 自分ではどうだったのよ。俺はすごいと思う。お手製のIPPONをあげようかなと。
R いやいやちょっと松永さん、今までの俺の話、聞いてた? おい榎並、おいフジテレビ。
D はいはい。
R ウケてりゃキレてないって(笑)。
D そうだな。
R ウケてたら、ちょっと恥ずかしそうに「振られちゃいましたよね。まあまあ、何とか答えましたけど」で終わってたけど。スベったんやから。
D それ。
R 皆さん、経験ありますか? ちゃんとしたお笑い番組でお笑いのプロの人たちが見つめる中、散々、高レベルなお笑いを食らってきたあとに、プロでもない自分が戦場に駆け出して行って、しっかりと骨の髄からスベるという経験。
D ちょっとね。
R いや、ちょっとじゃない。おまえ、やめろって。かばうな。
D R、R。面白かったよ。
R おまえ、殺すぞ(笑)。
D おもろかったってほんまに。
R うそ過ぎて方言使ってんのよ。心になさ過ぎて、下手な関西弁で言ってんのよ。
D おもろいおもろいと思って。なんかIPPON、IPPONと思って。
R 写真で一言やらされて、俺も最初は、一応断ろうとした。打ち合わせの時、松永さんが言ってた文言をあらためて言おうかなと思ったんやけど。あの場で断るほうが勇気いるというか。
D そうなのよ。
R あともう一個ね、たぶんあれなんですよ。最高のレベルに達したものを、観覧のゲストが写真で一言をやることで、一回、空気をリセットするというお芝居。
D ハードルを一回、リセットするという意味なんだな。
R そうそうそう。だから箸休め的な位置なんでっていうのを、自分の中で自問自答しながら写真で一言をやりましたよね。で、まあ、めっちゃくちゃスベってっていう。
D そのあと休憩時間なかなか喫煙室から出てこないなと思って。
R 俺、何が嫌やったかって、スベったあとに、不安やからぱって松永さんの方を見たんですよね。松永さんがすごい哀れむような目で俺を見てた。
D 俺だったら本当に超傷つくから。まじでゆっくり眠れないし、膝が震えて立てないから。ここで共感が大事だ、相方として、と思って。
R 俺だったらじゃなくて、俺も別に立てなかったしな、あの時。
D そうだよな。
R 俺がスベったあとの休憩、決勝戦の前の休憩やったんですけど、ずっと喫煙所におったのは、松永さんの、こいつかわいそうにって目を見ないため。
D あ、そうなの?
R うん。みんな知ってるかな。あんだけスベったらね、ライターつけられへんねん。
D 指先、力入んないの?
R ぷるぷる。全身の力抜けてるんですよ。
D まじで?
R だから、やっぱ俺は結局、有楽町歌おう会なんよ。笑おう会ではなかったな。
D Rが喫煙所から出てこれなかった時、俺とか森さんとかスタッフの人全員でRのこと心配してたからね。
R おまえ(笑)。心配すんな。
D 俺がDJだから得してしまって本当に申し訳ない気持ちがあるって言って。森さんも、でもラジオがあってよかったよね、みたいな。
R おまえさあ、優しさって人、傷つけるの知ってる?
D うそでしょ。
R だから、あん時、俺も悪かったなと。松永さんが「本当に業種で得してるとか思うわ」みたいな感じで俺に言ってくれてんのに、俺「ああまあ、そうっすね。はい」。
D キレてたもんね。
R キレてたよ。
D 俺、この場合は共感だと思って、「今夜、ぐっすり寝れそう?」って聞いて。
R 寝れないっす。
D 分かる、つって。
R 最悪(笑)。だから俺、めっちゃ楽しかったのに、決勝あんま覚えてないもんな。
D あんな面白かったのに?
R 帰り道、お台場からタクシーに乗りながら、自分を何とか納得させようとして、仕事としてはああやってスベるのが、一応役割やから。いや、でももっと行けたんちゃう?
D よくないね。
R 一応、即興でいろいろやってるから、もっとほかの答え方あったかもしれん。確かにあの状況やったら、あれ言えばよかった、これ言えばよかった。いや何をラッパーのくせに。素人のくせにウケようと思ってるやん。傲慢な。
D よくない、よくない。
R もう、ぐるぐる考えながら、家帰ってから体中かゆくなって、かきむしって。
D いやいや、そうなるよ。
R 食ったことない、コンビニで一番辛いカレー食べてた。
D やばいね。ストレスマックスの人って辛味感じないからね。
R 普段辛いの好きじゃないのに。
D 突発的に来てるじゃん、それ。いや、本当に分かる。「ああすればよかった、こうすればよかった」は、まじで体に負担くるよ。
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R で、やり方間違えてると思うけど、俺は帰りのフジテレビから家に帰る車中から、ずっと外を見渡しててん。
D なんで?
R サイファーやってないかなと思って。
D あ、よくないよ。おまえ。
R おい。どっかサイファーやってへんか、ここら辺。おい。めっちゃうまいラップやったろやんけ、ほんまに。
D どうすんの、そこで高校生がサイファーやってたら。
R ぼっこぼこやん。乗り込んでってプロを見せてあげますよ。頭押さえつけて、プロってこうやから。
D うわ。
R 倍速で、めっちゃ踏みまくって、意味かけて。「分かった? これがプロの技やから」って。二度と俺をなめんな。
D なめてない、なめてない。その子はなめてない。
R キレキレのラップかまして、高校生全員引いて何も言えなくなってるけど、俺、1時間ずっと一人でラップやりまくって。頭、地面に押さえつけて、二度と俺をなめんな、分かったか、フジテレビ、なめんな。
D もう最悪、本当に。フジテレビ、責任取れるかな、これ。まあ俺、タクシーで帰って、高校生のサイファーの中にRが入ってぼこぼこにしてるの見つけても止めない。
R (笑)。
D 俺は止めない。ビート流し始めるかもしれない。タクシー乗りながら、ビートボックス。
R ビートボックス?
D Rが一番ノれそうなBPM対応。
R 嬉しいんやけど、ちょっとそれもやめてほしい。
D なんで?
R そういう姿も見られたくないねん。さっき言ったやろ。
D なるほど。
R だから寄り添うな、俺に。
D え?
R 俺が傷ついてる時に寄り添うな。寄り添ったり、共感したり、手を差し伸べたりするな。松永さんもマネージャーも見てないところで、俺がさっきスベったことも知らない高校生たちを、完膚なきまでの力で地面にたたき付けたい。
D 最悪。
R 「榎並、おい」っつって。
D 違う違う違う。やめとけ。
R ごめんなさいね、榎並さんは優しかったのよ。俺がすごいスベってしまって「はあ」みたいな感じでも、お疲れさまでしたって帰る時に、榎並さん、来てくださって。
D そうだな。
R すいません、何も連絡行ってなかったみたいで、みたいな。振られるって知らずに、答えてスベったと思ってはったから。榎並さんも気い使ってくれてたんですけど、連絡、ちゃんと来てたし、俺がちゃんとまっすぐ、真正面から行ってスベっただけなんで。
D いや。なるほどね。
R だから榎並さんに、いやいや、そんなことないですっていうのは言いましたけどね。
D でも、Rがぽーんと答えたじゃないですか。あれ、リズム大事だったりするじゃん。間、空き過ぎたりとか、言いよどんだりとか、俺がやったら絶対するなと思ったよ。でもRはちゃんとリズムに乗ってぽーんって言えてたから。
R 評価するな。せめていいところ一個見つけんな。
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HIPHOPとラジオ Creepy Nutsのオールナイトニッポン読本 Creepy Nuts
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