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日本人が英語をしゃべれないのは「国語教育」に問題がある? #3 探究する精神

世界的に活躍する物理学者で、 カリフォルニア工科大学・理論物理学研究所所長の大栗博司さん。『探究する精神――職業としての基礎科学』は、少年時代の本との出会いから、武者修行の日々、若手研究者の育成にも尽力する現在まで、自身の半生を振り返りながら、研究の喜びや基礎科学の意義について論じた一冊。学問を志すあなたへ、そして生涯、学びつづけたいあなたへ、一部を抜粋してお贈りします。

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日本の英語教育は間違っているのか?

日本の英語教育は間違っているという声を聞きます。どこの国と比べての話なのでしょうか。ヨーロッパの人々は様々な言葉に日常的に触れる機会がありますし、ほとんどの国では英語と同じインド・ヨーロッパ語族の言語が使われているので、英語が上手なのは当たり前です。

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米国で子供を育てた経験では、米国の外国語教育が特に優れているとも思えません。中国や韓国出身者に英会話が上手な人を多く見かけるのは、高校や大学から米国で学ばせる親が多いのも理由のひとつだと思います。

私が英語を学んだのは、大学学部四年生の半年間ブリティッシュ・カウンシルの英会話教室に通った以外は、中学校と高校の授業だけでした。それで米国の大学教授が務まっているのですから、日本の英語教育もそれほど悪いものではなかったと思います。

私が大学四年生の時にアスペさんにうまく質問できなかったのも、中学高校の英語教育が間違っていたからだとは言えません。英会話は経験を積まないといけないので、学校の授業だけで役に立つ英会話力をつけるのは難しいと思います。

最近はインターネットで英語に触れることができるので耳を慣らす機会もたくさんあります。たとえばBBC(英国放送協会)やNPR(全米公共放送)のニュース番組を聴くのもよいと思います。耳が慣れてくると、それが自然に口から出てきます。

二六歳で初めて米国に渡り高等研究所の所員になった時、英語で困ったのはお昼ごはんの時間でした。黒板の前で一対一で議論をする時には、相手も私の顔を見て理解度を測りながら話してくれます。物理学や数学の話なら、どうしても伝わらない時には黒板に式を書けばよい。

しかし、お昼ごはんの席では数人のグループで話をしているので、私ひとりに向かって話してくれるわけではありません。遅れて着席して何の話で盛り上がっているのかさっぱりわからなかったこともあります。

それでも半年ぐらいで耳が慣れてくると何とかなります。話が追えない時には「ごめんなさい、何の話ですか」と聞けばよいのです。

言葉の力を徹底的に鍛える米国の教育

私はカリフォルニアで教鞭をとるようになって二五年以上になり、授業は日本語なまりの英語で行っています。しかし学期末の授業評価アンケートで「英語が下手だ」と書かれたことは一度もありません

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授業の内容や試験の難易度などについては遠慮なく批判が書いてあるので、私の英語が聞き取りにくかったらそう指摘するはずです。米国の大学教員は外国人が多いので、学生たちもなまりのある英語に慣れているのかもしれません。

英語で勉強が足りないと思ったのは、英会話よりも読み書きの能力です。本書第三部の「言葉の力を徹底的に鍛える米国の教育」に詳しく書くように、大学の運営に関わるようになってから同僚の作文能力に感心したことが何度もありました。

長い歴史の中で多様な文化と交流をしてきた欧米の教育では、言葉の力を発揮するあらゆる方法が教え込まれます。米国で育った私の娘も、小学校低学年から実践的な作文技術を学び、様々な場面での文章を書かされていました。

米国の同僚のコミュニケーション能力を見ていると、日本人の英語力不足は英語教育よりも国語教育の問題だと感じます。表現したいことが頭の中にまとまっていないと、筆も動かないし口からも出てこない。

小学校から英会話を教えるのはもちろんよいことです。しかし、日本人の英語力向上のためには、国語と英語教育を組み合わせた言語教育を総合的に考える必要があると思います。

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探究する精神 職業としての基礎科学

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