どんなに忙しくても「疲れ」を感じたことがないのはなぜか? #5 人間の本性
伊藤忠商事社長・会長、日本郵政取締役、中国大使などを歴任し、稀代の読書家としても知られる丹羽宇一郎さん。その豊富な人生経験をもとに、「人間とは何者なのか?」という根源的な問いに迫ったのが、著書『人間の本性』です。仕事、人間関係、健康、幸福、生死まで、お手軽なハウツー本には載っていない「賢人の知恵」が詰まった本書から、一部を抜粋します。
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心持ちひとつで疲れは変わる
変化が激しく、複雑な環境に生きていることもあってか、「疲れる」という言葉を口にする人が職場でも家庭でも非常に増えているようです。
長時間労働がやり玉にあげられ、働き方改革なんてことが声高に叫ばれていますが、これはたんに労働時間が長いせいで疲れるわけではないと思います。仕事がもし楽しければ、長い時間働いていても、さほど疲れた気分にはならないはずです。
反対に労働時間が短くても、人間関係のストレスやら仕事に対する不満が大きければ、疲れに大きく影響するでしょう。
「疲れる」という状態になるには、さまざまな要因があると思います。どのような質の疲れであれ、疲れを覚えたらまず休息しなければと普通は思います。
ところが私は、休息するとかえって落ち着かなくなったりして、逆におかしな疲れを感じたりするのです。ですから、休むのが下手というより、休むこと自体が自分には合っていないんじゃないかと思っています。
こういうとやや自慢めいて嫌なのですが、実は私自身はどんなに忙しくても、疲れというものをあまり感じたことがありません。
なぜ忙しくても疲れることが少ないのか、自分なりに分析してみると、実際には体が疲れていても、疲れるという意識をあまり持たないからだと思います。
しょっちゅう「疲れた」といっている人を見ていると、実際はいうほど忙しくないのではと思ったりすることがあります。上司に苦手なのがいるとか職場の人間関係でストレスが多少あったりするかもしれませんが、そこまで「疲れ」を表現しなくてもいいんじゃないのかと感じることも多々あります。
つまり、体の疲れはそれほどでもないのに、仕事量よりも人間関係に「疲れた」という意識によって、疲れを必要以上に感じてしまうことが多いのではないでしょうか。つまり、意識のあり方が疲労感の原因の一つになるわけです。
仕事の切り替えを早くする
疲れるという意識をあまり持たないことの他にも、疲労感を減らすやり方はあります。
たとえば、ばりばり仕事をしているのにあまり疲れたように見えない人は、たいてい切り替えが早いものです。
仕事というものは雑用から始まって、いろいろな種類の内容や作業から成り立っています。切り替えが早い人は、一種類だけの仕事を半日や1日、ずっとやり続けるのではなく、多種類の仕事を1時間、2時間くらいの単位で、さっさっと切り替えながらやっている印象があります。
学校の授業でこんなことを想像してみてください。一日5コマの授業がすべて数学だとしたら、どうでしょうか? 数学が嫌いでない生徒でも緊張感がなくなり、疲れるのではないでしょうか。
それとは反対に5コマの授業が数学以外に外国語や社会学や生物学など1コマ、1コマ違えば、コマが変わるたびに新鮮な気持ちになるので、ダレたりせず、その分疲労感も少ないはずです。
つまり、切り替えをうまくやれば、疲労感は減るのです。
ですから、何かをしていて疲れてきたなと感じたら、切り替えて別のことを始めると、そのこと自体がちょっとした休息になるわけです。
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