藤原和博さんが問う「あなたはどこから来て、どこへ行こうとしていますか?」 #1 35歳の教科書
自分にしかできない仕事をやっているか。組織に埋没していないか。定年後に自分の居場所はあるか……。残業をしても給料は上がらず、ポジティブシンキングだけでも乗り切れない時代に、どう働き、生きるべきか。リクルートフェロー、杉並区立和田中学校校長などを歴任した藤原和博さんの『35歳の教科書 今から始める戦略的人生計画』より、そのヒントをいくつかご紹介しましょう。
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「人生の背景」を共有する
「あなたはどこから来て、どこへ行こうとしていますか?」
私は一緒にプロジェクトに取り組む人に、決まってこう質問します。初対面の相手ですから、何か共通項を探したい。その人のこれまでの人生や、描いている夢について聞けば、必ずどこかに「ビンゴ!」という部分があるのです。逆に言えば、相手の人生の背景を知らないままで、一緒に仕事はできません。
ところが、人から同じような質問をされた経験は、残念ながらほとんどありません。とくに学校の関係者は100%と言っていいくらい尋ねてこない。職業上、自分が教える役なので、相手に質問するのが苦手なのかもしれません。
ビジネスマンもそうです。名刺を交換して会社名を確認し合って安心してしまう。でも、社名だけでは、相手の性格、能力、趣味、嗜好などはほとんどわかりません。
プロジェクトを始める前に
「その人はどんな気持ちで取り組もうとしているのか」
「これからどのように成長していきたいのか」
を理解できれば、互いの仕事のクオリティが上がることは間違いありません。それなのに、多くの人たちは肩書きだけで相手を知ったような気になってしまうのです。
30分ほど話を聞いていると、どこかに自分との接点が見えてきます。35年も生きていれば、誰でも本1冊分くらいのライフストーリーは持っているし、40代、50代ともなれば、話し切れないほどのエピソードを抱えているはずでしょう。
私の経験上、相手のライフストーリーを聞いて、接点がひとつもなかったことはありません。
「妻の故郷が同じだった」
「息子の趣味が同じだった」
「企業人として同じ悩みで苦しんだ時期があった」
といったように、どこかしら共感できる部分が見つかるものです。
「自分の言葉」で語ろう
この共感こそが、現場を動かしていくエンジンになります。決裁権を持っているのは部長かもしれませんが、味方につけるべきは現場の担当者。その人といかに人間的な関係を結ぶかが、実はプレゼンテーションのカギなのです。
仕事の現場でプライベートな話なんてできない、と思っているのなら、今すぐその常識を捨ててください。
「仕事の話をする前に、まずはライフストーリーを交換し合うのが新しい常識」
というくらいに考えてほしいと思います。
この場合でも、女性は比較的柔軟です。「あなたのライフストーリーを聞かせてください」と言うと一瞬とまどいますが、多くの人がすぐに打ち解けた雰囲気になり、子供の頃の話から現在に至るまでを楽しそうに語ってくれます。
男性は同じように質問しても、どうしても仕事の話が中心になる。あまりにも偏っていると、
「そんなことを聞いているのではなく、少年時代、結婚した頃のことや、これから個人的にどんなことをやってみたいかを尋ねているんですが……」
と軌道修正しようとするのですが、すぐに仕事の話に戻ってしまう。これでは会話自体がおもしろくありませんし、ともに仕事をやっていこうという気が起こらない。
小学校、中学校、高校の朝礼を思い出してください。ステージの上で校長先生が話をしますが、それが「おもしろかった」という記憶がありますか? 全然つまらなくて、「早く終わらないかな」と思っていたのではないですか? 今現在、たったひとつのエピソードさえ思い出せないことが、その証拠です。
理由は、多くの校長が自分の言葉で語っていないからです。「訓話マニュアル」といった本に頼ったり、先輩校長が、自分の訓話を印刷して後輩の校長に渡すこともあるんです。
そんな“あんちょこ”からネタを引っ張り出して話すのですから、気持ちがこもるはずがありません。当然ながら生徒はそっぽを向きますよね。
しかしこれが、先生が実際に体験した話であったり、世の中で起こっている時事ネタを先生独自の視点で分析したものであれば、生徒たちはぐっと興味を持つはずです。
個人のプレゼンテーションもまったく同じです。自分のことを、自分の言葉で喋ること。同時に相手を組織の一員としてではなく、独立した個人と捉え、そのプライベートストーリーに耳を傾けること。そのことなしに円滑なコミュニケーションは生まれませんし、互いに学びもなければ、仕事の成果もあがらないでしょう。
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