心理学が教えてくれた「レジリアンス(逆境力)」を高める11の知恵 #5 悲しむ力
不登校生・中退生のための私塾、「リバースアカデミー師友塾」を主宰する大越俊夫さん。著書『悲しむ力 深く悲しまない人間は幸せになれない』は、現代人に欠けている「悲しむ力」と「レジリアンス(逆境力)」の重要性について論じた一冊です。子育てはもちろん、仕事や人間関係に悩む大人たちにも役立つであろう本書から、読みどころを抜粋します。
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逆境に負けない心をつくる
この章の最後に、悲嘆の克服やレジリアンスに関して、さらにいくつかの具体的な提案をしておきたいと思います。
コロンビア大学の臨床心理学教授・ジョージ・A・ボナーノ博士(「悲嘆に関する研究」の大家です)が書いた『リジリエンス――喪失と悲嘆についての新たな視点』(高橋祥友監訳、金剛出版)という本に、とても参考になることが書いてあったのです。
この訳書では、本の題名や本文で「リジリエンス」と表記していますが、いままで書いてきた「レジリアンス」と同じ言葉です。
三百ページに及ぶ大著ですが、その中の随所に、悲しみや逆境の克服に役立ちそうないくつもの指摘があったのです。いずれも悲しい状況や逆境の中で、そこから逃げずにレジリアンスを高められる対処のしかたです。
これをヒントに、私なりの理解・言葉で、箇条書きにまとめてみます。
さっそく実践してみよう!
一、笑いの効用
喪失の悲しみを胸に秘めながらも、ときに笑えたり笑顔が浮かべられたりできる人のほうが、立ち直りへの適応度は高い。悲しい思いをしている人の傍にいると、他の人も悲しくなるので、笑いによって悲しみの伝染を防げる。
二、直視の効用
レジリアンスの高い人は、苦痛を他に向けることをしない。
三、思い出の効用
肯定的な記憶や感情は脳を柔軟にし、心の平穏を促す。
四、時間の効用
前述したように「時の薬」、時間が過ぎると悲嘆も和らぐ。
五、楽天性の効用
物事はそのうちうまくいくようになると考えられる。
六、自信の効用
いまは落ち込んでいても、そのうち立ち直れると自分を信じられる。
七、適応力の効用
与えられた境遇を受け入れるのが早い人ほど、苦痛も早く消える。
八、感情表出・抑制の効用
激しい感情も、表出と抑制のバランスを取れる人のほうが、苦しみから抜け出しやすい。
九、自己奉仕の効用
「見苦しくても勝ちにいく」(Winning Ugly)、つまり、どんな手を使ってでもやり抜くこと。心理学者は、このことを「自己奉仕バイアス」と呼んでいる。自分の利益になることは何でもやる心理。
(例えば、自分に関係ない人やものをおおげさにもち上げたり、関係のある人やものを、これまた大げさに否定したり、悪口を言ったり、責任を回避したりなど。
つまり、飲み屋で、会社帰りに上司の悪口を言ったりして気晴らしをすることなど、これも「自己奉仕バイアス」として許されるということ。これも、一種の心の柔軟さなのです。
自慢話など大いに結構で、私なんぞ、必ず毎日一回は、自分で自分を、しかも人前でセミナー中などで大いにほめまくります。周りの人は“病気”といいますが、見事な「自己奉仕バイアス」で理にかなっているらしいのです)
十、自己救済の効用
自分を許すこと、自己救済感。愛する人が亡くなって遺された人が、救済感を覚えることがある。愛する親が亡くなり、介護が必要でなくなりホッとして救済感を覚えるかもしれない(この本の著者ボナーノは、父が亡くなったとき、救済感を覚えたと告白しています)。
十一、グループの効用
同じ価値観を有するグループに所属し、協力し、互いに助け合うことでレジリアンスが強化される。
以上、この章では逆境や困難に対処する「レジリアンス」の方法が、硬軟いろいろ雑多な提案になってしまいましたが、人それぞれ自分に合った方法、これなら自分にもできそうというものが、必ずあるはずです。
私の母の四つの「おまじない」ではありませんが、まずは「とにかくやってみて」、それがしんどかったら「ちょっとがまん」しながら、「そのうちなんとかなるじゃろう」と頑張ってみてください。
そして、それでもだめなら、「しかたねえ」と一度さっぱり諦めて、また出直しましょう。あなたの中の苦しみ悲しみを跳ね返す「悲しむ力」や「レジリアンス能力」は、いろいろな形で表れてくるはずです。
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