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「言葉の力」を信じる爆笑問題・太田光、祈りのような書き下ろしエンターテインメント 『笑って人類!』 #3

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側近達は黙って大統領に注目する。

「いや、恥ずかしいんだが私も名前が出てこないんだ。マスターズに参加する10カ国、確かにあのレポーターが言う通りもう1カ国あったはずだが、さっきから考えてるが、どうしても思い出せない……」

言われてみればと、側近達も目配せをするが誰も思い当たらない。

「果たして、どこだったかな?」

「ピースランドです」後ろでアンが答える。

「ピースランド! そうだった! あの極東の小さな島国だ……いつも抜け落ちるんだ、あの存在感の薄い国が……」ホワイトは途中で言葉を飲み込んだ。

「すまない」

黒く輝く瞳がホワイトを見つめていた。アンの中にはピースランドの血が流れていた。祖父がかの国の政治学者だったという。彼女の幼く見える顔立ちは、フロンティア合衆国では高校生と言っても誰も驚かないだろう。黒い髪も、時々見せる弱さの奥に存在する芯の強さも、彼女に流れる血に起因するものだろうとホワイトは思っていた。

「君の祖父君の祖国だったな。忘れてたわけじゃないんだ。気を悪くしないでくれ」

そっとアンの手を取るホワイトに微笑み、首を横に振る。

「構いません」

「ありがとう。君がいなければロードマップはここまで到達出来なかった」

「いえ」

ホワイトはアンの右手をギュッと握りしめ、左手で彼女の肩を叩いた。彼の言う通り今回の交渉ではアンの功績が大きかった。ティグロの提示してくる身勝手な要求に反発する各国へ直接出向き、ギリギリの交渉をしてきたのはアンだった。外だけではない。チームホワイト内部にも強硬派はいた。ローレンス、アンドリュー、時にはホワイト大統領自身も限界を超え、テロリストになぜそこまで譲歩しなければならないのかと、マスターズ計画は暗礁に乗り上げそうになった。彼らを根気強く説得したのもまたアンだった。

「感謝してる」

アンは何かを思いついたような目をした。

「大統領」

「何だね?」

首をかしげるホワイトに背中を向け、後ろのキャビネットから何かを取り出し、元の位置に戻ると微笑んだ。

「これを……」

アンが差し出したのは一輪の白い花だった。

ホワイトは目を丸くする。

「……ささやかですが、私からのプレゼントです。大統領、マスターズ和平会議開催おめでとうございます」

「ありがとう……」

ホワイトは手にした花を見つめる。たった一輪だが、ラッピングして赤いリボンで巻いてある。

アンにはこういうところがある。聡明で冷静だが、時に何をするかわからない。ちょっとしたサプライズを仕掛けて人を楽しませる。

「この花の名前は?」

「カラーです。堂々としていて、私が一番好きな花です」

アンは少女のような瞳を輝かせた。

花は、流れるような美しいラインでクルッと巻いている。花と呼ぶにはシンプルで、名前の通り白い襟のようで、潔い。

部下達が拍手をする。

ホワイトはアンをハグし、不思議な子だ、と思う。

「今日のうちに渡せるチャンスがあってよかったです」とアン。

「ありがとう」

ホワイトは振り返り部下達を見つめた。

「さて諸君、明日は私が新たな世界の紙幣の、最初の肖像になれるかどうかの重要な日だ」

部下達に静かな笑いが起きる。

「その前に私は少し眠りたい。今夜はそろそろ解散にしよう。まだ飲みたい奴は自分の部屋で飲んでくれ」

部下達はどっと笑うとそれぞれが大統領とハグをし、部屋を出ていこうとする。テレビではまだレポーターの絶叫が続いていた。

「ダイアナ」ホワイトは振り向いたダイアナ国務長官を見てテレビを指さした。

「報道官に連絡させてあのレポーターに忘れてる国はピースランドだと伝えてやれ」

「かしこまりました」

ダイアナは軽く会釈すると部屋を出ていった。

◇  ◇  ◇

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