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世界的物理学者が考える、大学院で身につけるべき「3つの力」 #4 探究する精神

世界的に活躍する物理学者で、 カリフォルニア工科大学・理論物理学研究所所長の大栗博司さん。『探究する精神――職業としての基礎科学』は、少年時代の本との出会いから、武者修行の日々、若手研究者の育成にも尽力する現在まで、自身の半生を振り返りながら、研究の喜びや基礎科学の意義について論じた一冊。学問を志すあなたへ、そして生涯、学びつづけたいあなたへ、一部を抜粋してお贈りします。

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本書第一部の「大学までの勉強の三つの目標」の節で、大学までの勉強の目標は、

(1) 自分の頭で考える力を伸ばす

(2) 必要な知識や技術を身につける

(3) 言葉で伝える力を伸ばす

の三つであると書きました。大学院に進むと目標が変わります。私は、大学院は次の三つの力をつける場所であると考えています。

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(1) 問題を見つける力

大学までの教育では与えられた問題を解くことだけが期待されていたかもしれません。しかし大学院では自ら問題を見つける力を鍛えなければいけません。しかもその問題は新しければよいというわけではありません。

私が高校時代に読んだポアンカレの『科学と方法』には、科学の幅広い分野に影響を与える普遍的な成果を得ることが重要だと書かれていました。

その一方で、現在ある知識や技術で成果の得られる目標でなければなりません。大学院に在籍している数年の間に博士論文を書くのですから、その期間に解決可能な問題を見つける必要があります

そのような「よい問題」を見つけるためには、まずは研究分野を俯瞰してその最先端が何なのかを見極めなければいけません。将来性があり十分にチャレンジングな問題は、それよりも少し先にあるはずです。

それを踏まえた上で、努力すれば解決に手が届きそうな適度に難しい研究課題を見つけることができる。それが研究者に求められる問題発見の力です。

米国の大学院の博士候補審査で問われるのは、そのような「よい問題」を見つけたかどうか。それができたものだけが博士候補者になれます。

(2) 問題を解く力

これが必要なのは当然ですね。せっかくよい問題を見つけても、それが解けなければ何にもなりません。その反面、必要な知識や技術を全部身につけるまでは問題に取り組めない学生を見かけることがあります。

しかし、どのような知識や技術が必要になるのかわからないのが、最先端の研究というものです。これまで誰も行ったことのない場所に行き、誰も解いたことのない問題を解こうというのですから。

そこで、時には懐手をしていないで、思い切って問題に飛び込む勇気も必要です。具体的な問題に取り組むことで、どのような知識や技術が必要なのかがわかりますし、それを集中して効率的に習得しようという目的意識も生まれます。

新しい知識や技術が必要になった時に、それをすぐに学んで研究に役立てるのも「問題を解く力」の一部だと言えます。

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(3) 粘り強く考える力

価値のある発見をし、人類の知識を押し広げることは、簡単ではありません。答えにたどり着くには、あきらめずに時間をかけて粘り強く考え続ける力が必要です。私がそれを初めて実感したのは、二〇代半ばにプリンストンの高等研究所の研究員になった時のことでした。

それまで東京で研究していた私のところには、プリンストンから画期的な論文が次々と届いていました。そこで、赴任する時には「そこには、どんな天才、秀才が集まっているんだろう」とドキドキしていました。

ところが実際にそこの研究者に会って話をしてみると、彼らの日常的な議論がそれほど鋭いわけではありません。黒板に数式を書きながら「ああでもない、こうでもない」と悩んでいる姿を見ると、私の東京での日常と変わりませんでした。

しかしそれを考え続ける体力は全く違いました。次の日も、その次の日も、同じ黒板の前で「わからない、わからない」と頭をひねり、誰か通ると捕まえて「どう思う」などと聞いています。かと思うと研究室にこもって朝から晩まで長い計算をしています。

同じ問題をあきらめずに考え続け、最後には解いてしまう。そうやって物事を底の底まで深く理解するまでしぶとく考える耐久力の強さには感服しました

湯川秀樹が自伝『旅人』に「未知の世界を探求する人々は、地図を持たない旅人である」と書いたように、科学の研究はオアシスを求めて砂漠をさまようようなものです。

地図がないので、どちらに行けばオアシスにたどり着けるのかわかりません。そもそもオアシスがあるという保証もない。何年もかけて考えたことが実を結ばないのではないかと不安になることもあります。

それでも考え続けるには粘り強さが必要です。

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探究する精神 職業としての基礎科学

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