〈1-1〉 「決めた」瞬間
その日は確か、今くらい。
6月の半ばごろだっただろうか。
自分の高校生活は、致命的にひどいものではなかったものの、非常に褒められたものでもなかった。
新しい環境にも慣れ始め、部活もない楽な生活を味わっていた頃。
突然やってきた「先輩」によって、自分の高校生活は大きく変わった。
初めて会った時、その「先輩」は知らない人だった。
「先輩」は柴田(仮名)と名乗った。そして言った。
「文化祭の有志に、映像班として参加してほしい」
自分はあまりに突然の申し出に、いくつもの疑問をぶつけることになった。
「なぜ自分が?」
「なぜ突然?」
柴田先輩は、昼休みに自分を連れ出して話をしてくれた。
うちの高校の文化祭は、金曜日の午後に、全校生徒が体育館に集まって行われる「オープニング」、日曜日の夕方に同じく体育館で行われる「フィナーレ」というものがあるらしい。
その全てを任されるのが「有志」であり、その名の通り毎年の立候補者によって構成されるとのこと。
柴田先輩はパソコン部の部長として、有志チームの「映像班」を支えてきたが、本人がついに三年生ということで、後を託せる人を探していたらしい。しかし、パソコン部は部員がおらず壊滅寸前。
困った先輩はその人脈を活かし(当時からいろんな生徒、先生とつながりのある、「コミュ力の高い」先輩だった)、情報を集めていた。
そこで、非常勤の技術の先生に、以前自分が授業の後「動画編集とかやるんですよね〜」みたいな話をしていたことを聞きつけ、自分を当たってきたということらしい。
なんちゅう偶然・・・。
とは、思わなかった。
その時の感情は、はっきりとは思い出せない。
でもただ、目の前にある大きな「何か」を感じていたし、感じようとしていた。
考えてもみてほしい。
自分が一度も体験したことのない、高校の文化祭に、作り手側として、しかも全校生徒が見る映像を作ってくれと頼まれている。
大きな「何か」であることは分かるけれども、正確な大きさは想像できるはずもなかった。
最終的に自分は
「面白いじゃん」と思った。
不安は確かにあった。
けれど、エンタメ的な映像は中学生でも作っていたし、その楽しさも知っていた。素直に「作ってみたい」気持ちが勝ったのだと思う。
それに、自分は一人じゃない。
柴田先輩はその話ぶりからして、頼れる先輩だと感じた。
きっと当時は無意識だっただろうが、その日からすでに心を許していたと思う。
自分はその場で答えた。
「やります」
と。
先輩は、最後にジュースを奢ってくれた。
自分は拒否した。
それは当時の自分にとってそう不思議なことではなかった。
「自分のためと思ってもらってほしい」
そう頼まれて、仕方なくもらった。
大きな信頼と、期待を感じた。
二人で自販機近くのベンチに座って、自分はグレープジュースを飲む。
うつむきながら、「期待に応えたい」と思った。
先輩と一緒に頑張ろう、と「決めた」。
それだけは、今でもはっきりと覚えている。
基本的に投げ銭待ちスタイルです。 よろしくお願いしたりしなかったりしています。