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若社長の家庭訪問 777字 シロクマ文芸部

青写真が狂いっぱなしだ、私の社会人生活は。
ウチの会社は、普通じゃない。
「家庭訪問」のならわしがあるのだ。
入社して半年経つと、新入社員の実家に社長がやってくる。

デパートで仕立てたというワンピースをまとった母は、声を弾ませる。
「イケメンよねえ。よりちゃんとこの若社長~」
「…外面そとづらだけはいいんだ、あの人」
「どーするう?お嬢さんを僕にください!とか言われたら……きゃ」
韓国ドラマ脳な彼女は、妄想力がハンパない。
「それはナイ」
「もークールビューティーなんだからあ」
「親バカ?」

***

ところが、待てど暮らせど社長は来ない。
スマホに手を伸ばすと同時に、メッセージが届いた。
「捕まったって」
「え?」
インサイダー取引でしょっぴかれたらしい、と同期が知らせてきた。

私は、ひとつ息をつく。
「ほかにもボロボロ出てくるんじゃない?真っ黒のブラック企業だから」
子供のようすを知らせるそれっぽい形式の報告書が、毎月保護者に届く。
頼子よりこさんはがんばっています』
小学生の作文かと思うが、心配性の親たちはコロッとだまされるのだ。

***

「今どき珍しいていねいな会社だって、おかーさん安心してたのに…」
希望とやる気に満ちた新社会人を丸めこむ、数々の目くらまし。
「入社案内に、すぐ昇進できるって書いてあったよ?」と母。
「すぐ社員が逃げるから、繰り上げ当選」
「即戦力になれますって」
「人がいなさすぎて、新人が採用面接」
母は混乱し、理解に苦しんでいるようだ。

***

私はソファから立ち上がり、彼女に名刺を差し出した。
「本日は、社長就任のご挨拶にうかがいました」
バカ社長の無理難題をこなせてしまったばっかりに辞めどきを逸し、ふるいに残ってしまった同期の精鋭たち。

1カ月前、私は彼らと集団退職し新会社を作った。
「優秀なDNAくれて、さんきゅ」
母はまだ、ぽかんとしたままだ。

(おわり)


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藤家 秋
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