昭和のサーフィン物語 9
月1回の日立サーフィン連盟会議が迫ったある日、「今度の会議にはスーツ着用で来い!!」というお触れが回った。
なんでも 近々行われる県議会議員選挙の応援のために 選挙事務所に挨拶に行くらしい・・・
『日立サーフィン連盟』を設立した以上、「政治的活動をして 名前を売りたい!」というホーガンさんの考えだった。
しかし 当時(昭和50年代)の選挙とは 飲ませ食わせ 現金バラ撒きなどは当り前・・・
集団で事務所に行けば なにかと『嬉しいこと』が待っているのは常識だった。
当日は会議も早々に済ませ ホーガンさんを先頭に 着慣れないスーツを着たサーファー達が 近くの事務所に向かったのであった。
ホーガン 「お前ら 今日は腹を空かして来たんだろうな!?」
子分A 「ハイ 夕飯どころか朝から何も食べてませんよ!! デヘヘヘヘヘ・・・」
ホーガン 「よしよし メシだけじゃ無く 酒もたくさん有るらしいから遠慮しないで飲めよ!!」
子分B 「もちろん そのつもりです。ぶひょ!」
現在では 食べ物は勿論 缶コーヒー1本でさえ 配ればアウト!!であるが 当時の地方選挙は何でも有りだった。
(この話は昭和50年代の話です)
当時のアル中オヤジなどは 毎日違う選挙事務所を渡り歩いて飲んだくれていたと言う・・・
その選挙事務所は 候補者の自宅の庭に建てられていた。
大きな邸宅の広い庭に建てられたプレハブの事務所・・・
さすが大会社の社長である。
そのプレハブの前には大きなテントが張られ テーブルと椅子が置かれていた。
10人程のオヤジ達が バカ笑いをしながら酒を飲んでいる。
その周りを忙しく お手伝いのオバちゃん達が動き回っていた。
早い時間だったが 結構 盛り上がっていた。
そこに突如現れた20名ほどのスーツが似合わない連中・・・
(しかも全員人相が悪い!?)
ブヒョ!
当然のように その場の視線がこちらに注がれた。
するとホーガンさんが その中のハゲオヤジに近付いて行った。
ホーガン 「中嶋さん どーも! 先日電話をした日立サーフィン連盟です!! 約束通りに 幹部を連れて来ました。ドヒャ!!」
このハゲオヤジは ここの責任者らしい・・・
中嶋 「あっ 日立サーフィン連盟のホーガンさんでしたか・・・ 私はてっきり・・(チンピラが来たのかと思いましたよ!!) デヘヘヘヘヘヘ・・・」
(いや あんたの判断は正しい・・・)
ホーガンさんは俺達の方を振り返り・・・
「適当な席に着いて 早速 御馳走になれ!!」と声をかけた。
目の前のテーブルには 寿司や煮物やお赤飯が 所狭しと並べられていたのである。
そして ところどころには缶ビールとつまみも置かれていた。
全員 「分っかりやした~~!!」
返事もそこそこに 「シュポ シュポ シュポ!!」と あちこちで缶ビールの栓が抜かれたのであった。
ボスから腹ペコサーファー20名に タダ酒 タダ飯のお許しが出たのである。
当然のように テント内は騒然となった。
「すみませ~~ん!! 寿司 もう無いです!!」
「缶ビール 10本お願いします!!」
「あっ こっちは20本!! デヒョヒョヒョヒョ・・・」
手伝いのオバちゃん達が 急に忙しくなったのは言うまでも無い。
20分が経ち、40分を過ぎても 飲むペースは落ちない!?
鉄の胃袋を持つサーファーは 底なしである。
いつの間にか 最初に飲んでいたオヤジ達の姿は見えなくなった。
ブヒョ!
そして1時間が過ぎると やっといい感じで酔いが回って来た。
しかし まだまだペースは落ちない・・・
鬼のように飲み続けている。
ふと隣を見ると さっきのハゲオヤジと顔を赤くしたホーガンさんが 何やらヒソヒソ話をしていた。
ホーガン 「ここに居る20名は サーフチームの責任者で 各々10名ほどのチーム員を抱えています。ですから200票はまとめられますよ!! ブヒョヒョ・・・」
ハゲ 「えっ!? 200票??? そんなに居るんですか???」
ホーガン 「それに その周りの家族や友人などにも声をかければ さらに上乗せが期待出来ます!! (エッヘン!!)」
ハゲ 「は~~っ!? プラス100票ぐらいは行けますかね!?」
当時の県議会選挙の当選ラインは1万票であった。
そのうちの300票ぐらいを上乗せ出来るというのは その責任者にしてみれば かなり美味しい話のはずである。
『君等は 悪代官と越後屋か!?』
さらにヒソヒソ話は続き どういう訳か 話声は小さくなって行った。
(悪い話をしているに違いない!?)
その10分後・・・
「さあ 帰るぞ!!」というホーガンさんの声が響いた。
すると一緒に居たハゲオヤジが 「ちょっと待って下さいね!!」と言って その場を離れた。
その後 建物内に入ったハゲは すぐに戻って来た。
ホーガン 「それじゃ 頑張って下さい!! 日立サーフィン連盟は 先生(候補者)を応援しますので・・・」
そう言って 握手を求める彼・・・
ハゲ 「ありがとうございます!! 皆さんもサーフィン 頑張って下さい!!」
握手をしながら ポケットから出した茶封筒を目立たないようにホーガンさんに渡す・・・
秘密の茶封筒・・・、その中身は未だに謎である。
帰り道・・・
みんなのスーツのポケットでは 無理やり積め込んだ缶ビールが「ガチャ ガチャ」と音を立てていたのであった。
昭和の地方選挙・・・
今では絶対にあり得ないことだらけだった。
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