金曜日の居酒屋にて

 カウンター六席の小さな居酒屋
 店内には黄川田太郎(43歳)と相馬紬(25歳)がいる。二人は共に常連客。居酒屋の大将(67歳)は黙々と調理中。

黄川田「もう1日、休日が増えるとしたら何曜日がいい?」
相馬「水曜日ですかね。月・火曜日と木・金曜日の2日ずつなら頑張れそうな気がしますし」
黄川田「そのパターンあるよね、全ての日が休みの前か後かになるやつね、はいはい」
相馬「そういう黄川田さんは何曜日にするんですか?」
黄川田「まあまあそう焦りなさんな。大将は何曜日がいい?」
大将「私は全ての日が休みになる時が近いんで、それまで私は働き続けますよ」
黄川田「大将は働き者だ。」
相馬「で、黄川田さん。正解はなんですか?」
黄川田「聞きたいか?」
相馬「聞きたいです」
 相馬、呆れ顔。
 黄川田、ジョッキに半分残ったハイボールを一気に飲み干す。
黄川田「日曜だよ」
相馬「黄川田さんって平日休みの仕事でしたっけ?」
黄川田「いいや、土日休みだよ」
相馬「じゃあ日曜日は元から休みじゃないですか?」
黄川田「だからこそ日曜日を休みにして"完璧な日曜日"にするんですよ」
 黄川田のボルテージが上がってゆく。
 大将がおでんと飲み物を二人に提供する。
相馬「ありがとうございます」
黄川田「ありがとうございます。でっでっ、休日だけどメールとか電話とか見とかなきゃいけないって時ありますよね。あれ嫌ですよね。でも、『"完璧な日曜日"ですので』ってなれば、みんな休めるって話じゃないですか?他に何か質問あります?」
 黄川田は勝ち誇った顔で、おでんの卵を口一杯に頬張る
 相馬、恐る恐る口を開く
相馬「それってみんなに適用されるんですか?」
黄川田「当たり前です」
相馬「そうですよね。では、元が日曜日休みではない人の日曜日は"完璧な日曜日"ではないんじゃないですか?」
黄川田、急いで卵をハイボールで流し込む。
黄川田「何をあなたがおっしゃりたいのか私には全く分かりません。」
相馬「土日休みの人は土曜日と"完璧な日曜日"が休みになる訳じゃないですか?平日休みの人は平日二日間と"完璧な日曜日"が休みになる訳じゃないですか?それって変じゃないですか?」
 数十秒の静寂。
 黄川田はジョッキの水滴をおしぼりで拭き取る作業で考える間を作る。
 数十秒後、黄川田が立ち上がる。
黄川田「休みが多い方がいいなんて考えじゃダメだよ、相馬ちゃん。まだ若いんだから。大将を見習わないと。大将おあいそ。」
 黄川田、逃げるように帰る。
相馬「なんだったんでしょうかね?」
大将「休みが必要なんだろうね」

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