気象予報士試験 学科 一般知識 大気の安定度
よく天気予報を聞いていると特に梅雨期や夏季に「上空に寒気が入って大気が不安定になり・・・・」というフレーズを耳にすることが多いと思います。
大気が不安定になると天気が荒れます。荒天になるとはどういうことでしょうか?「荒天」と同じ読み方で「好天」があります。全く正反対です。
荒天(severe weather)。確定した定義はありません。しかし、好天と正反対で雨や風がつよく、雷が鳴ったり落雷があったりと嵐が来た時の天気の状態をいいます。冬季なら雨の代わりに雪となり強い風で吹雪になることもあります(暴風雪警報が出ることもありますね)。
陸上で生活しているとあまり気が付きませんが、特に船舶や航空関係の方々は大変です。海は荒れて(時化るともいいます)波が高くなります。
飛行機は運航ができなくなったりもします。冬季に青森まで空路でいったことがあります。滑走路の除雪が完了していないということで40分くらい青森空港の周辺をぐるぐると旋回していました。出発空港に戻ると1日無駄になるから着陸できたらいいなと思いながら除雪を待っていました。実際は搭乗中はどこを旋回していたのかわかりませんでしたが、地上に降りてフライトレーダーというアプリで確認しました。
お風呂のお湯は、しばらく放っておくと上の方が暖かいままですが、湯船に浸かってみると底の方が冷たかったという経験はおありでしょうか。水も空気も暖かければ密度が小さく、冷たくなると密度が大きくなります。
密度が大きいということは重いということですから、冷えてきた水はお風呂の底の方に移動していきます。水も空気も上方が暖かく、下方が冷たい状態で安定します。
逆に上方が冷たく下方が暖かい状態は不安定ということです。
地球の大気は、太陽からの熱を受けて温まりますが、熱圏や成層圏のように直接太陽放射で温められる場合を除き、特に対流圏ではまず地表が太陽放射で温められ、その熱が大気下層に伝わり、大気は下から温められることになります。
昨日のエマグラムで確認したとおり、温位・相当温位は上空に向かって高くなりますが、気温は逆転層がない限り、対流圏界面までは高度とともに気温は下がります。
お風呂の例とちょうど逆になり、大気の底が暖かく、上の方が冷たいということになります。地表面から熱を受け取った下層の空気は温度が上がり、密度が小さくなるために浮力を得て下層の空気は上昇します。
それ以外にも、風が山などにぶつかることによって空気塊が山筋に沿って上昇したり、風の収束により上昇する場合などがあります。上昇した空気塊の温度が上昇した先の周辺の空気の温度よりも高い場合には浮力を得てさらに上昇を続けます。
空気塊が上昇しなくなるには、周りの空気と同じ温度になることですが、上空に寒気が入っている場合には空気塊の上昇は続き、雲頂高度の高い雲になるまで発達します。
典型的なのは積乱雲です。英語でcumuloninbusといい、略語はCbです。
航空関係の人が話をしているのを聞いていると「シービーが・・・・」というのが耳に残っていました。当時は何のことをいっているのか見当がつきませんでしたが、積乱雲のことと分かり会話の意味が理解できる様になりました。
積乱雲は短時間強雨や突風、竜巻、雹、落雷など災害をもたらすことが多い雲です。線状降水帯や台風が最盛期の時の中心付近などに積乱雲が発生しています。
このような雲が接近してくると当然天気は悪くなります。
大気の状態が不安定とは地表と上空の気温差が大きくなった状態をいいます。
地表付近は暖かく軽い空気が、そして上空は冷たくて重い空気がある状態です。
下が軽くて上が重い状態は不安定ですよね。
🟣乾燥空気の場合の空気安定度
空気塊の温度が上空に向かって乾燥断熱減率よりも気温減率が小さい場合は安定です。
乾燥断熱減率よりも気温減率が小さい場合は、エマグラムでは乾燥断熱線を横切りながら高温位側に移動することになります。
逆に、乾燥断熱減率よりも気温減率が大きい場合は不安定と言えます。エマグラムでは乾燥断熱減率線を低温位側に横切っていきます。
🟢湿潤空気の場合の空気安定度
気温減率が湿潤断熱減率よりも小さく湿潤断熱線を高温位側に横切って移動している場合は「絶対安定」といいます。
また、逆に気温減率が乾燥断熱減率よりも大きい場合で、乾燥断熱線を低温位側に横切って行く場合は「絶対不安定」といいます。
気温減率が乾燥断熱減率よりも大きく、湿潤断熱減率よりも小さい場合は「条件付き不安定」といいます。
🔴潜在不安定
昨日のエマグラムでCAPEというのがありました。CAPEが正の場合、潜在不安定と言います。CAPEは気温の状態曲線が持ち上げ凝結高度を通る湿潤断熱線よりも下方にある場合をいいます。
ショワルター安定指数(Showalter Stability Index)SSI
高度850hPa面(上空約1500m)の空気を上空500hPa面(上空約5000m)に上昇させた時の850hPa面での空気塊の気温と周りの空気の温度差により空気の安定度を示す指標です。実技試験ではSSIを求める作図が出題されます。また、梅雨期などの安定度や冬季の東シナ海での気団変質に関する問題で、925hPa面の空気塊を700hPa面に上昇させた場合の安定度を問うこともあります。
🔴対流不安定
ある層の空気を上昇させた時に不安定となる場合に対流不安定と言います。
具体的にはある高度で一定の層を持った空気層の気温減率が乾燥断熱減率よりも大きい場合には、安定した気層ということになります(この空気層では空気層の上端の方が下端よりも温位が高いので安定しています。)。
この安定した気層をある一定の高度に上昇させた時のこの気層内の気温減率の傾きが湿潤断熱減率よりも大きい状態になった場合、この層については対流不安定と言います。
この上昇した空気層の上端と下端の相当温位を見た時に、空気層の上端の相当温位は下端の相当温位よりも低くなっています。
相当温位は一般的には上空に向かって高くなっていると安定しているのですが、このように逆転してしまうと対流活動が促されます。
このような状態を対流不安定と言います。学科試験での出題も稀にありますが、実技試験では結構頻繁に「対流不安定」であるか否かの判定について出題されています。
逆転層 inversion layer
対流圏では上空に向かって気温が低下しますが、空気の状態によっては上空に向かって気温が高くなる層が出現することがあります。
このような層を逆転層と言います。
🟢接地逆転層
地表付近に出現する逆転層です。冬場の放射冷却の時に発生します。また、暖かい空気が冷たい海面上を移動した時にも霧とともに逆転層が発生します。この霧は「移流霧」と呼ばれ、夏場の北海道東方海上や三陸沖で発生するのが有名です。学科・実技ともに出題されます。
🟢移流型逆転層(前線性逆転層)
冷たい空気と暖かい空気がぶつかる前線面で生じる逆転層です。暖気が寒気を滑昇する時に発生します。エマグラムを使用して移流型逆転層の高度を解答させる問題が実技試験で出題されています。
🟢沈降性逆転層
上空の空気塊が下降気流で沈降した時、断熱圧縮で昇温するために発生する逆転層です。高気圧付近で発生します。沈降性逆転層では逆転層の下端から露点温度が急速に低くなるため、エマグラム上では気温の折線と露点温度の折線が急速に離れていることで判定することができます。
本日はここまで。最後までお読みいただきありがとうございました。