ITベンチャーの経営者は弁護士を雇うべきか?【パート1】
今日はIT企業、特にITベンチャーの経営者が社内弁護士を雇うべきかどうかについて(この記事)、そして、雇うとすればどんな弁護士を雇うべきか、そして実際に雇うとなった場合の想定年収について(次の記事)、「雇われる側の立場」から、さらに、IT企業内弁護士として実際に働いてきた僕の考えを述べていきます。
まず結論
結論から言います、雇われる立場なので当然かもしれませんが(笑)、僕はITベンチャーの経営者はビジネスが軌道に乗り出したら良い弁護士を雇ったほうが良いと思います。
はい、「良い」弁護士というのがミソです(笑)
ただ、「良い」弁護士とはどういう要素を備えた弁護士か、そして、良い弁護士を雇うには「いくら」必要かについては別の記事で書くとして、今日はITベンチャーの経営者が弁護士を雇うべき理由について、以下、書いていきたいと思います。
弁護士を雇うべき理由①:ビジネスと法律は表裏一体
ビジネスと法律は表裏一体です。
ビジネスにおける活動の全てにおいて法律が関わってきます。
営業担当者が「成約1件取ってきました!」というのは、法律上は契約が成立したということになります。
そのため、自社のビジネスを守るために、有効かつ適切な契約書類が準備されているか、適切な契約プロセスを用意できていることはビジネスを安全に運営していく上で不可欠です。
また、ITサービスにおいて「21世紀の石油」と呼ばれる個人データを取得して利用する場合、個人情報保護法やGDPRに注意しなければなりません。
一歩間違えると「リクナビ事件」や「ヤフースコア炎上事件」のようなインシデントを招きかねず、株価にも影響を与えかねません。
このような事態を防ぐために、上場前から適切なコンプライアンス体制を構築することは、結果的に自社を守ることに繋がります。
さらに、自社のブランド名や開発したプロダクトは「商標」や「特許」の活用で初めて主体的かつ積極的に守ることができます。
このように、ビジネスと法律は密接に関わっています。
自社を経営する中で、法的な事柄で迷うときはいつもあるはずです。
そんなときに、まさに「法律のプロ」である弁護士を雇用していれば、法的に万全な形で自社の事業が成長するように機能してくれるはずです。
一つ経営者がおざなりにしがちだと感じることは、法務部門や法律の専門家がなくても有能なビジネス部門さえあれば会社は成長していくということです。
つまり、会社がイケイケで成長中のITベンチャー経営者なら、コストになる弁護士など積極的に雇いたいとは思わないでしょう。
ただ、そんな時だからこそ、ビジネスと法律は表裏一体、ビジネスを成長させるために弁護士を雇う可能性も検討してほしいと思っています。
良い弁護士が一人いるだけで、法的に万全なビジネススキームを構築し、データ利用に関してコンプライアンスを遵守し、事前に特許や商標によって自社のビジネスを守り、さらに株主総会や取締役会といった面倒な手続事務も任せることができるのです。
よほど資金繰りに窮していない限り、弁護士を雇わない理由はないと思います。
あ、どんな社内弁護士が「良い」のかという点はパート2で考えたいと思います。使えない弁護士を高いお金を払うと悲劇なので、そこは気を付けていただきたいところです。
弁護士を雇うべき理由②:弁護士と無資格の法務部員の違い
「それなら、法律に詳しい法学部出身の若手でいいのでは?高いお金を払って弁護士雇う意味ある?」
コスト意識の高い経営者なら当然、感じるところだと思います。
はい、全然違います。ただ、ここではある程度、企業法務や訴訟経験のある弁護士を前提とします。
なぜなら、法務は「法律」という明らかに専門的な分野の業務であって、その中において「弁護士」は国が認めた専門資格だからです。
ただ、僕は、ただ「弁護士」という資格があるだけでなく、「訴訟経験」や「企業法務」の経験をした弁護士を雇うことをお勧めします。
その理由は、弁護士という専門職は実務によって磨かれる側面があるからです。
新人を雇うなら、いくら弁護士資格があるといっても、あまり意味がないように思えます(もちろん例外はいます)。
それなら、企業法務や訴訟といったハードな経験を既に持っている弁護士を雇ったほうが、多少年収は高いとしても、何倍もコスパが良いように感じられるのです。
弁護士を雇うべき理由③:結局雇うことになる
3つ目の理由、経営を続けていると、いずれ弁護士を雇うことになるでしょう。
いま、社内弁護士は急速に数を増やしています。
日本組織内弁護士協会(JILA)の統計によれば、2001年9月には全国でたった66人しか組織内弁護士は存在しませんでした。しかし、2014年には1,000人を超え、2017年6月現在で1,931人を数えます。日本国内にいる弁護士の人数は38,930人、それは20人に1人が組織内弁護士という計算になることを示します。
いま、上場企業だけでなくベンチャー企業でも多くの割合で社内弁護士がいます。
特に、IT企業では、契約、会社法や労働法といった企業運営に必ず関わる法律だけでなく、サービスに関わる個人情報保護法、景表法、特定商取引法、消費者契約法、特許法や知的財産法といった知的財産法、アプリストアのデベロッパー向け規約まで、ケアすべき法律・ルールは多岐にわたります。
私が弁護士駆け出しのころに言われた言葉ですが、究極のところ「法律は、弱い者を守るのではなく、法律を熟知した者を守る」のです。
身も蓋もない言い方ですが、これが真実です。
法律というビジネスのルールを理解したうえで適切にビジネス運営を行っていけば、より健全に自社を成長させることができます。
だからこそ、上場企業や成長しているIT企業の多くが社内弁護士を雇っているのです。
どうせ社内弁護士を雇うなら、そして、法務を強くするなら、それは早ければ早いほど良いのではないでしょうか。
なぜなら、一度できたビジネスを知的財産権で守るならなるべく早く商標・特許の取得を検討すべきだからです。
また、SaaSをはじめとしたクラウドサービスの場合、利用規約で契約を構築していることが多いと思います。
利用規約は民法では定型約款に該当するため、一度かちっと定めてしまうと、後になって自社に有利に変更することは難しくなるからです。
おわりに
以上がITベンチャーの経営者が弁護士を雇うべきかについて、IT企業で働いてきた経験をもとに書いてみました。
ビジネスと法律は表裏一体、法律を武器にして自社をより強くしていくために「有能な」弁護士を雇う可能性を検討いただけると幸いです。
ITベンチャーにとって「良い弁護士」とはどういったファクターで判断すべきか、そして、「いくら」を払うべきかという点について、次の記事で書いていきたいと思います。