食べログ判決・控訴審でカカクコムが逆転勝訴
2024年1月19日、東京高等裁判所は飲食チェーンの韓流村が、食べログの運営会社であるカカクコムに対し、韓流村に不利な「アルゴリズム変更」が優越的地位の濫用にあたると主張していた損害賠償請求訴訟において、韓流村が(一部)勝訴した東京地方裁判所の一審判決を破棄し、韓流村の請求を全面的に棄却する判決を言い渡しました。
裁判の背景と第一審判決
裁判の背景
この裁判は、原告である飲食チェーンの韓流村が、2019年5月に食べログを運営するカカクコムによりチェーン店の評価を一律に下げる不当なアルゴリズム変更が行われたことにより不利益を受けたと主張し、独禁法24条に基づく差止めと不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。
第一審判決
東京地裁の第一審判決は、このアルゴリズム変更は、独占禁止法の禁止する「優越的地位の濫用」に該当するとして、カカクコムに韓流村への3840万円の支払いを命じました。
優越的地位の濫用とは、①優越的地位にある者が、②正常な商慣習に照らして不当に、③取引の相手方に不利益となるように取引を実施することをいいます(独禁法2条9号5号)。
東京地裁は、食べログが韓流村をはじめとする飲食店に対して①優越的地位にあることを認め、アルゴリズムの変更が事前に通知されていなかった事実や韓流村が被った不利益の大きさから、②正常な商慣習に照らして不当に③取引の相手方に対して不利益となるように取引を実施したと判断しました。
この論点に関して東京地裁は、独禁法の適用そのほか必要な事項について公正取引委員会に求意見を行い、公正取引委員会が意見書を提出した点でも特殊な経過をたどりました(公取委の意見書はこちらで公開されています)。
第一審判決の評価
第一審判決は、プラットフォーマーによる特定の顧客に一律に悪影響を与えるアルゴリズムの変更が独禁法の優越的地位の濫用に該当し得ることを認めた初の判決であり、実務上重要な意義を有すると評価されました。
一方で、独禁法の専門家からは、「優越的地位の濫用の要件の検討について、取引依存度や取引先変更可能性の認定について、より綿密に認定すべき」といった点等で、「優越的地位の濫用に係る分析や認定において不十分にと思われる内容を含んでおり、控訴審でのさらなる検討・判断が期待される。」と言われていました(ビジネス法務・2023年7月号86頁~89頁)。
控訴審でカカクコムが逆転勝訴
控訴審判決
そんな中で出された今回の高裁判決ですが、カカクコムの逆転勝訴、という形となりました。
高裁判決はまだ公開されていないため、判決を詳細に分析することはできませんが、報道によれば、以下のような判断がなされたようです。
つまり、①「優越的な地位」を利用した③不利益な取引であることは肯定しつつ、アルゴリズム変更の目的等に照らし、②「正常な商慣習に照らして不当」とまではいえない、と判断されたのです。
高裁判決への私見
まだ高裁判決は公開されておらず、あくまで結論と報道による内容を見る限りという前提付きですが、私個人の高裁判決の印象としては、「まあそうなるよね(=妥当)」という印象です。
なぜなら、アルゴリズムはあくまでプラットフォーマーがユーザーの利便性も考慮の上で構築する自由があり、食べログといった多種多様な飲食店が掲載されているプラットフォーマーである以上、「誰かが得をすれば誰かが損をする」仕組みは制度悪として一定程度は飲食店側も受け入れなければならない、と感じるからです。
他方で、食べログを運営するカカクコムの立場に立てば、こうやって裁判になること自体を避ける方法はなかったか、とも感じます。
飲食店は言うまでもなく食べログのマネタイズポイントであり、敵にして得るものは多いとは思われないからです。
判決の余波と今後
判決を受け、カカクコムの株価は一時6%も上昇したようです。
ビジネスモデルの法的リスクが軽減されたことを受けての好感でしょうか。
プラットフォームビジネスを行うIT企業から見ても、特定の顧客に不利益をもたらすアルゴリズム変更が「優越的地位の濫用」にあたらない、という事例判断なので、好意的にとらえるべき判決といえるでしょう。ただし、以下述べる通り自由なアルゴリズム変更が認められるわけではないので運用には注意が必要です。
一方で、原告となった韓流村は直ちに最高裁への上告を宣言しており、この裁判の決着はまだ先になりそうです。
もっとも民事訴訟法上、最高裁の上告理由は極めて限られています(民事訴訟法312条、318条)。
詳細は高裁判決の公開を待って明らかになるものの、あくまで暫定的な私見にはなりますが、高裁判決が著しく不当という印象はないので、高裁判決が覆る可能性は低いのではないでしょうか。
アルゴリズムを利用するIT企業が注意すべきこと
とはいえ現時点で、アルゴリズムを運営するIT企業として、一審判決も含めたこの訴訟から得られる教訓は以下の3点だと考えています。
特定の顧客群が一律に不利になるアルゴリズム変更の実施にあたっては、⑴変更の目的が客観的に正当か否かを慎重に検討すること、⑵サービス運営者としては事前に顧客側に通知して丁寧な説明を行うこと、⑶アルゴリズムのロジックを可能な範囲で公開し、透明性のある運営を心がけること。
そして、プラットフォーマー運営者の立場に立った場合に、クライアントと訴訟沙汰になったとして、法的論点のクリアランスができるとはいえ、ビジネス観点から得るものはあまりないようにも感じます。
そのためにも、プラットフォームの運営者としては、顧客企業との間で健全な関係を保つことを心がけ(上記⑴~⑶)、万が一トラブルが生じた場合には訴訟は最後の選択肢と位置づけ、対話によってより良い解決策を模索することも大切だと感じます(明らかにはなっていませんが、もちろん本件訴訟の過程においてもそのような和解交渉があったかもしれません)。
なお、この裁判に先立つ2020年3月18日、公正取引委員会から「飲食店ポータルサイトに関する取引実態調査報告書」が公表されており、最高裁の判断に加えや今後の法改正の動向が注目されます。
この記事が皆様の参考になれば幸いです。