ビジネス法務・2024年11月号 「法務としてあるべきコミュニケーションとは?」
ビジネス法務の最新号(2024年11月号)が発刊されました。
今月号のコンテンツで最も興味深かったのは、特集2「他部門のホンネに迫る!法務部員の社内コミュニケーション術」です。
特集2「他部門のホンネに迫る!法務部員の社内コミュニケーション術」
私は法律事務所の弁護士を経て、企業内弁護士へキャリアチェンジしたのですが、法律事務所で働くのと比べて、企業内弁護士で働くうえで最も重要なスキルは、法分野の専門性ではなく(もちろん法律の基礎的な素養があることは前提としたうえで)、「コミュニケーション力」だと感じています。
法律事務所の弁護士として働くうえでも依頼者や同業との「コミュニケーション力」はもちろん重要ですが、企業内弁護士は、経営者から他部門の同僚、他社の関係者に至るまで、多様なステークホルダーと質の良いコミュニケーションをとって良好な関係を構築することが求められるからです。
この特集において、法務部員は法律の専門家というよりも、むしろ「法務に詳しいビジネス・パーソン」になることの重要性を解説した記事があり、私はそこでの論説にとても共感を覚えました。
組織内で働く以上、法務の専門家としてふるまうだけでなく、法律の専門知識を備えたビジネスパーソンとして組織に貢献すべきである、という主張に私も全面的に賛成します。
法務の仕事をする上で、私は次のようなポイントを意識して仕事をしています。
①法務の専門性を振りかざさない
法務はその専門性から、まわりから必然的に頼られることの多くなる部署です。
しかし、社内で働く全員が何かのスペシャリストとして働いている、という意識はコミュニケーションを円滑に進めるために、非常に重要です。
自分だけが特別な専門知識を持っているのではなく、他の社員と変わらない立場で謙虚かつリスペクトを持って社内でコミュニケーションをとることは、法務の仕事を円滑に進めるうえでの大前提になるからです。
そのためには、社内の他部門の人たちと話すときにはできるだけわかりやすい言葉選びを心掛けること、共通言語を用いたコミュニケーションをとることが大切です。
②組織人として働くことを意識する
法務部で働くということは、会社組織の一部門として働くということです。
これが外部の法律事務所でアドバイザリー(代理人)として働くこととの最も大きな違いで、そして、企業内弁護士のやりがいにもなるのです。
外部の法律事務所なら「法的な正解」を求められるだけですが、法務パーソンとしては、「法的な正解」を踏まえたうえで一歩進んだ「組織としての最適解」を求めていく点で違いが生じます。
つまり、企業法務では組織における自分の仕事の最終的な成果、つまり、会社の利益を最大化するという目的に沿った仕事をすることが求められるのです。
例えば、法的にリスクのある可能性があるサービスがあるとして、外部の法律事務所なら法的にリスクがあるからやめたほうが良い、というアドバイスで足りるでしょう。
しかし、企業法務の仕事においては、次で述べる「明確なポジションをとる」ことが重要で、かつ、会社から求められている姿勢だと思います。
③明確なポジションをとる
例えば新たな施策の適法性や従来にはない広告の相談があった場合に、法務部員としては、「○○という法律の違反の可能性があります。」という回答をしがちではないでしょうか?
私は、企業法務に携わる中で、「○○の可能性がある」と答える「だけの」アドバイスは、できるだけ控えるようにしています。
法令違反の可能性はあるとしても、そのリスクはどの程度か、今の施策のままだと難しいとしても、リスクを回避する方向性を提示できないか、何とかできる方法を考えたうえで、それでも無理な場合は無理とはっきり言いますし、リスクを踏んででも実施すべきだと考えた場合には、「○○のリスクはありますが、このリスクは現実化する可能性は低く、現実化してもリカバリ可能なので進めてOKです」、と、OKかNGかの判断を最後まで提示するように心がけています。
「○○の可能性がある」と伝えられるだけでは、質問者としてはどのようなポジションを取って進めればよいか迷ってしまうからです。
そこで、法務として進めてよいかどうかの判断まで伝えること、つまり、きちんと自分のポジションをとることは非常に重要であると考えます。
これによってビジネスがスピーディに進みますし、できない施策ならあきらめて別の施策考案に時間を使うことができるからです。
④アウトプット時には、「法務」の視点に基づくものか、「ビジネスマン」としての意見かの前提を明確にする
最初に述べた通り、外部の法律事務所のようなアドバイザリーの立場を超えて、組織の内部で法務に詳しいビジネスパーソンとして働く以上、私は、法務部員は法律という専門分野を超えた判断やアドバイスも積極的に行っていくべきだ、と考えています。
しかし同時に、法務部員として仕事をする以上、自分のアウトプットが「法務」の専門的立場からのものなのか、それとも、法務という専門領域を超えた総合的な視点に基づくものなのかの峻別はきちんとしなければなりません。
特に、前項で述べた明確なポジションをとる場合には、「法的な観点では○○のリスクがあります。ただ、総合的に考えた場合に、今回の施策は~という理由で進めるべきだと考えます」というように、法的な観点での検討と、ビジネスパーソンとしての自分の意見をきちんとわけて社内でコミュニケーションをとるように心がけています。なぜなら、法務部員として法的なリスク判断や検討をすることは一番に求められている仕事であり、ビジネスパーソンとして組織に貢献することは、法務部員としての基本的な仕事ができたその先にあるからです。
これによって、コミュニケーションの相手方に対して、法的な問題と、ビジネスパーソンとしての自分の意見をきちんと伝えられるようになると考えています。
法務部員がこのようなアウトプットを出すことで、施策の立案者も交えたチームとしてより質の高い結果を出すことができるのではないでしょうか。
ビジネス法務・2024年11月号 まとめ
2024年11月号のビジネス法務では、今回取り上げたコミュニケーションの特集に加えて、特集1「すぐに使えるコンプライアンス研修チェックリスト」というコンプライアンスに携わる法務部員にとって役立つ記事や、「ジョブ型雇用を見据えたルール作り―滋賀県社会福祉協議会事件最高裁判決」、「AI生成発明の発明者―東京地裁令和6年5月16日判決」といった最新判例の実務解説、「2024年6月総会振り返りと個人株主との対話」や「コーポレート領域における個人情報の保護」といったコーポレート法務まで、企業法務に関する最新のトピックが盛り込まれています。
日々の仕事をこなしながら法律知識をブラッシュアップする時間を取ることは難しいですが、ビジネス法務では最新判例からこの記事で取り上げたコミュニケーション術の特集まで、幅広いトピックがカバーされています。
忙しい法務パーソンこそ、毎月のビジネス法務で最新の法律論点をアップデート習慣化することをお勧めします。