法務と営業部門のコミュニケーションのコツ
企業の法務部で働いていると、他部門とのコミュニケーションは日常的に発生します。
今日は、営業部門とのコミュニケーションについて、これまでのキャリアにおいて上司やコミュニケーション上手の同僚から学んできたことを踏まえ、私が企業内弁護士として心掛けていることを記します。
①法務の専門性をふりかざさない
法務の仕事において、「自部門から他部門へ仕事を依頼する」、というよりも、「様々な部門から法律事項の依頼を受ける側」であることが必然的に多くなります。
そして、法務部は「法律」という誰にとってもわかりやすい専門知識を備えた組織でもあるので、「頼られる」部門でもあります。
必然的に、法務は「上の立場」として他部門とのコミュニケーションをしてしまいがちになります。
日常の仕事において、ときに、大したことでもないのに急かされる依頼や、法律を知らない担当者とのコミュニケーションにイライラしてしまうこともあるかもしれません(私はあります)。
しかし、私は日々の仕事にあたる中で、法務は法律に詳しいだけの存在であることを念頭に、謙虚さを忘れないように心掛けています。
下に見ている態度は簡単に相手に伝わりますし、法務担当者だって、逆にビジネスのことを知らないことだって多くあることを肝に銘じなければなりません。
企業組織は、様々な専門性を持った個人・部門が協力して成り立っています。
法務は偉いわけでは決してなく、あくまで企業の一部門である法務として役割を果たしている、という意識が大切だと思います。
法務の専門性をふりかざさず、できるだけわかりやすい言葉(共通言語)を使いながら、謙虚に仕事をすることによって、周りから信頼を得ることができるのです。
②簡潔に、わかりやすく
一般論として「話すこと」よりも「聞くこと」の重要性は、ここで語るまでもありません。
しかし、法務パーソンは法律という専門性があるからこそ、知識を披露するかのように(あるいはきちんと検討したことを伝えるために)、他部門とのコミュニケーションにおいてついつい長く説明しがいがちです。
私も企業内弁護士の仕事を始めたときは、つい全部説明しようとしてしまい、上司から「説明が長いので端的に」、という指摘をよく受けました。
組織長として部下を受け持つようになってからも、話が冗長な法務メンバーの言動は気になったものです。
依頼側の営業部門としては、法律に興味があるのではなく、端的に結論を教えてほしい、という場合がほとんどです。
長々と説明していると、結局どこが重要なのか、自部門としてはどのように進めてよいのか、ポイントがぼやけてしまいかねません。
法務としては、知っていることやいかに自分が法的に深く検討したかをついつい話したくなりがちですが、「相手の立場に立って」、依頼部門の知りたいことを簡潔に、わかりやすく説明することを心掛けることが重要です。
③一件の受注に懸ける営業の努力に思いを馳せる
「この案件を受注するために、営業先企業から当社雛形の契約条項の修正を依頼されていますが、受けられるでしょうか?できるだけ早く回答が欲しいです!」
企業法務において、よく受ける相談だと思います。
私は、このような時、1件の成約に懸ける営業担当者がどれだけ努力したかについて思いを寄せるようにしています。
企業内弁護士として働きだした最初は、正直に言って「せっかちだな」、「この1件のために修正する必要はあるのだろうか」、と感じていました。
しかし、1件を受注するために、インサイドセールス部が見込み案件を獲得し、営業部門が顧客へ営業をかけた結果として、受注見込みが得られ、最終的な契約申込段階となって法務部のチェックを経た中で、このような依頼がなされている。そして、営業担当者は自分の営業目標を達成するために必死で交渉し、法務部門への依頼に至っている。
企業内弁護士のキャリアを積んでいくにつれて全体が見えるようになり、こういった背景までわかるようになると、1件1件の相談の重みが違ってくるようになりました。
もちろん、法務部として自社の利益を守るために応じることのできない依頼もあると思います。
しかし、1件の受注にかける営業の努力に思いを馳せるようにすれば、断らざるを得ない依頼であっても、一言、ねぎらいの言葉をかけるようになるなど、依頼部門の気持ちを考えた対応ができるようになります。
このような心掛けが、ひいては、法務部門への信頼につながっていきます。
④中長期的な事業成長の観点を忘れない
1件1件の受注に思いを馳せる、といっても、決して営業部門に迎合すべき、という意味ではなく、もちろん法務部門は法務としての役割を果たさなければなりません。
そのため、法務は中長期的な事業成長の視点を持つ、ということはいつも心にとどめています。
つまり、法務部は、法律の専門性を活かして事業成長に貢献すること、換言すれば、中長期的な視点に立って組織全体の利益を確保するための役割が求められるのです。1件1件、目の前の利益を追いかける営業部門とは異なります。
そのため、先ほどの例(営業先顧客から自社契約雛形の条項修正を求められている事案)で言えば、これを受け入れることで自社の利益を著しく害する恐れがある場合や、ほかの顧客との公平性を損なう場合には、失注リスクをとったとしても、契約雛形の修正を断るという選択も取らなければならない場面があります。
しかし、依頼部門の意に沿えない状況であっても、理由をきちんと添えるようにすれば、理解をしてくれるケースがほとんどです。
営業部門と法務部門は立場は違うため、個別案件においては依頼部門の望む答えを提供することはできない場合であっても、事業成長という同じ目的をもって業務にあたっている、この姿勢を営業部門に伝えることが重要です。
まとめ
偉そうなことを書いてきましたが、私も常にここで書いたことを実践できているわけではありません。
忙しいときにはコミュニケーションが雑だったな、と反省することもありますし、もう少し上手にコミュニケーションを取るにはどうしたらよいだろうか、と悩むことも多々あります。
しかし、法務部門は営業部門からプロダクト開発部門、セキュリティ部門から財務部門といったバックオフィスまで、様々な部門と関わることになります。
コミュニケーション力は一朝一夕で向上するものではありませんが、できる範囲で気持ちの良いコミュニケーションを実践し、より良い法務の仕事に取り組んでいきたいと思います。