ビジネス法務・最新号(2023年9月号)
ビジネス法務最新刊(9月号)が発刊されたので、IT企業法務の観点から、注目記事の紹介をしたいと思います。
注目記事①「特集1 アプリ開発・運用を成功させるためのリーガルガイド」
9月号のビジネス法務では、アプリ開発・運用に関する法律問題、というIT法務部員にとっては重要なトピックが特集として組まれています。
この特集では、以下のようなトピックがとりあげられており、具体的には、消費者契約法、特商法といったアプリの利用者を保護する消費者保護法制という典型的論点から、電通法の外部送信規律規制や景表法のステマ規制といった昨今の法改正、さらに、生成AIの法律問題といった最新の論点まで、アプリを取り巻く法律問題について幅広くカバーされています。
アプリサービスを展開するIT企業の法務においては必読の特集といえるでしょう。
注目記事②「Introduction 宇宙ビジネス『第1回 宇宙ビジネスと宇宙法の現在地』」
個人的に一番面白いと思った記事は、「Introduction 宇宙ビジネス」という新連載です。
「月の土地は買えるのだろうか?」
という、私自身これまでの企業内弁護士のキャリアでまじめに考えたこともなかった問いからこの連載はスタートします。
宇宙開発の発展によって、宇宙ビジネスはかつてない成長を続けています。
この記事によれば、宇宙ビジネスの市場規模は2040年には1兆米ドル(2023年7月のレートで141兆円)に達すると見込まれているとのことです。
宇宙ビジネスの成長に伴い、さまざまな法的問題が生じてきますが、「宇宙」は文字通りどこか特定の国家権力が支配する領域ではありません。
「国境を超える法律問題を生み出す」という点で、宇宙法は、インターネットにおける法律問題と共通する要素があります。
しかし、インターネット法と大きく異なるのは、宇宙法はインターネット法に比べ、「物質的問題と特定の国家法を離れた論点」がより交錯する、という点です。
「月の土地を買えるか」、というのはこのことをよく表しています。
少なくとも、仮想空間であるインターネットの世界においては「所有権」は問題となりません。
宇宙法はいくつかのカテゴリーに分類されますが、この記事によれば、宇宙法で検討しなければならない基本的な法的視点は以下の4点となります。
これらは、インターネットビジネスにおいても問題となる法律分野です。
一方、宇宙という公的利害関係の強さが、公法(国際公法や国内規制)の役割をより際立たせているのが特徴です。
今後も連載が続いていくので、「IT企業法務との比較」という観点で、ITビジネスの法律問題との相違点を考えながら宇宙法を学んでみようと思います。
注目記事➂「DX時代における雇用政策はどうあるべきか ーGoogleの人員整理が問いかけるもの」
Googleをはじめとした米国を中心とした巨大テック企業での雇用調整が話題となっています。
日本では、解雇権濫用法理(労働契約法16条)のもと、労働者を解雇することは法的に極めて難しいのが実状です。
このような日本型の雇用法制と海外(特に米国)の雇用システムの比較を通じて、雇用維持型から雇用流動型へ移行している現在の雇用システムのあるべき姿が取り上げられています。
私自身、IT企業に法務部員として勤めている身としても、解雇権濫用法理が、変化の激しい現代ビジネスにおいて企業だけでなく労働者にとっても果たして有効に機能しているのか、根本的な問いを抱いています。
この記事を読んで、雇用システムは(正直言って時代遅れの)解雇権濫用法理に縛られたままでいるよりも、時代に合わせて政策的に国家が主体的に形成していくべきものである、と感じました。
まとめ「ビジネス法務 2023年9月号」
以上、2023年9月号のビジネス法務の注目記事を私の感想とともに簡単に紹介しました。
アプリビジネスに携わるIT法務部員にとっては、「アプリ開発・運用を成功させるためのリーガルガイド」は必読の特集ではないでしょうか。
個人的には、宇宙法の概略を解説した「Introduction 宇宙ビジネス」を興味深く読むことができました。
さらに、注目記事➂で取り上げた「DX時代における雇用政策はどうあるべきか」を読んで、(解雇対象とならないために)自分自身のリスキリング・スキルアップの必要性を強く感じたところです。
これに関連して、新連載「キャリアアップのための法務リスキリング!」もお勧めします。
このように、日々の業務に忙しい法務パーソンにとって、スキマ時間に最新の法律知識・法改正情報をアップデートできるビジネス法務、興味を持っていただける方がいれば幸いです。