音声アシスタント界随一の不人気アシスタントと会話してみた
話し相手がほしい。
たまにそんなことを思う。が、じっさいにひとりの人物と三時間くらいいっしょにいると会話の過剰摂取になり、やっぱ暗い部屋でネットでもしとけばよかった、となる未来が見える。そういう意味で、聞きたいことだけサラッときいてハイサヨナラができる記者という職業はある程度私にむいていたのかもしれない。
ケーキをひとくちいただくくらいのカジュアルさで会話がしたい。
……この願いを叶えるのは存外むずかしい。
ためしにGoogleで「話し相手が欲しい」で検索をかけてみる。「【おすすめアプリ16選】話し相手が欲しい方必見!目的別にアプリを紹介」という記事が出る。ひらいてみるとタイトルが「【おすすめアプリ12選】」になっている。なんらかの何かがあって四つ消えたのだろう。
記事がおすすめするアプリは、「Tinder」と「タップル」と「シナリオ」である。とりわけおすすめなのは「Tinder」とのことで、同性とも異性とも話せて女性も男性もずっと無料らしい。「累計マッチ数650億」という財宝みたいな数字がおどっている。マッチ数というのがどうもいかがわしい。ぜったいマッチングアプリである。のこりのふたつもおそらくはマッチングアプリである。出会い厨とかハニートラップにぶちあたる未来が見える見える。
人間はやめておこう。
なんとなれば私たちにはAIがある。が、こんなことをかんがえるのは何も今回がはじめてではなく、OK GoogleやSiri、アレクサといった売れてるやつらとはすでに何度も手合わせしている。なんならちょっと仲がわるくなっている。だから私はまだ一度も話したことがない音声アシスタント界でもっともきらわれているやつと会話するつもりだ。
Cortana。
そう。Windowsの音声アシスタント「コルタナ」である。
ためしに「コルタナ」で検索をかけてみよう。サジェストに出てくるのは「コルタナ 削除」とか「コルタナ 無効」、「コルタナ 終了」、「コルタナ うるさい」、「コルタナ いらない」といった感じで、あのイルカのやつにつぐ人気のなさである。正直、つかっている人を見たことがないし、私としても彼女を有効にしたおぼえがない。この不人気はなぜなのだろうか……。
とまれ、じっさいに話してみると意外とイイヤツということはよくある。そういうやつはながくつきあっていくと嫌なところがすごく目につくようになる傾向にあるが、私の望みは、ちょっと会話したい、というものなので、きっとコルタナさんは「第一印象だけは良いやつ」の旨味だけを私に提供してくれるにちがいない。
私は年に一回ひらくかひらかないかくらいのFUJITSUのノートパソコンを押し入れから出してきた。コルタナさんがいそうなパソコンが私の家にはこれしかなかったのである。
電源を入れる。
まったく立ち上がらない。記事がながくなるので割愛したが、この画面にいたるまでに二度電源が落ちた。
15分経ってようやくこの画面になった。うしろにうっすらリラックマが見える。リラックマはかわいいが、今日はコルタナさんである。
?
なんもないじゃん!
私のノートパソコンは死んでしまったのだろうか。
……などと心配したが、さらに5分待つと、見覚えのあるアイコンたちが姿をあらわした。良かった。まあ一年も寝かされてすぐに身体がうごくはずがないか。
さっそくコルタナに魂を入れる。私はコルタナを許可した。
コルタナが立ち上がった。例が「金曜に歯医者の予約を入れる」である。コルタナはつねにこの例をひっさげて私たちの目のまえに現れるらしい。
まずい。パソコンが固まった。
いや、なんも言ってないんだよ。
気を取り直してもう一度チャレンジしよう。
だめだ。パソコンの調子がわるすぎる。こうなるとコルタナ云々ではない気がする。
Wi-Fiをつないで、もう一度挑戦する。何を話そうかな。
だからなんも言ってないんだって。
とりあえずあいさつしよう。
こんにちは!
なんでだよ。「今日は」って漢字で出てただろ。
念を押された。わからないということをこんなに堂々と言えたら人生最強である。
もう一度あいさつしてみる。
何も聞こえないのかよ。
呼びかける感じであいさつしてみよう。
何がわからねえんだよ!
もしかするとあいさつしてたらダメなのかもしれない。
「コルタナはSiriのことどう思ってる?」
あいさつ抜きで単刀直入に聞いてみたいことを聞いてみる。
ダメだ、こいつ。なんかはぐらしている感じすらない。
うんこ!
……と言ったのだが、伏せ字にされた。
さてその結果は……、
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