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時空を超える護民官 ~AIと共に築く未来を変える透明な力
⇧この小説のスピンオフ作品です
まだ書きかけです^^が、よろしくお願いします
主な登場人物
田中大紀(首相官邸の政策調整担当官デジタル政策担当職員)
若干30代後半の中堅職員で、官僚時代に数多くの省庁との折衝を経験した実力者。実務的な調整能力に長けており、政治的な駆け引きにも強いが、理想主義者でもある。翔太と美咲の新しいシステムに興味を持ち、その実現に向けて支援を惜しまない。時に政治的な圧力や官僚機構内での対立に直面しながらも、改革を前進させるために奔走する。鈴木翔太(AI技術者・倫理学者)
30代後半の男性。大学でAI技術を学び、民間企業に勤めていたが、社会に貢献するために倫理学を学び直し、政治の世界にも足を踏み入れるようになった。高度なAIシステムの設計を行う傍ら、その倫理的な問題についても深く考えており、公平性の担保に強い関心を抱いている。田中美咲(政治家)
30代前半の女性。若干の年齢差を超えて、翔太とは大学時代の友人であり、政治の世界で互いに刺激し合ってきた。社会制度の改革を目指し、特に行政のデジタル化や透明性の向上に力を入れている。過去に改革を成功させた経験があり、その実績を持って「護民官」の国家資格化に挑む。モコまる(性別不明)
ペチャまる(オス)
翔太と美咲は大学時代からの親友であり、今やそれぞれの分野で重要な立場にいる。完全ポイント制の導入に伴い、社会は大きな変革の渦中にある。翔太はAI技術を駆使し、公正なシステムを設計していく役割を担い、美咲はその政治的な側面を取り仕切り、**「護民官資格」**を法制化しようと奮闘する。
物語の概要
物語は、翔太と美咲が「完全ポイント制」下で、AIを駆使して公平性を担保する新たな役職「護民官」の国家資格化を目指して奔走する様子を描きます。2025年、社会は急速にデジタル化され、既存の経済システムが崩れつつあります。国民一人ひとりの活動や取引がポイント化され、全てが透明化されることにより、不正や不公平をなくすことが理想とされています。
しかし、システムが完全に透明化されることで生じる新たな問題や、AIに依存する社会のリスクが浮き彫りになります。二人はその危険を回避しながら、改革を進め、最終的に新しい国家資格制度を作り上げるべく奔走するが。
<プロローグ>
「コンコン」
外から響くノックの音。首相官邸の職員、田中は腕時計に目をやりながら、「時間通りか…」と呟いた。彼はカチリとキーを解除した。その解除音を聞いたのか即座にドアを開け中に入ってきたのは若手女性政治家として売り出し中の田中美咲とAI技術者・倫理学者、鈴木翔太の2人だった。
「お疲れ様です、田中さん!」と、にっこりと笑う美咲。
「こんばんは、田中さん。」と、控えめに挨拶する翔太。
その入り口は首相官邸職員の通用口というワケではなく、いわゆる勝手口のようなものであった。
しかし、どう見ても、二人は自分の仕事仲間というだけではない。いまや、この時間帯に官邸の「裏口」を使う仲だったのだ。
この日、首相は国際会議で外遊中で留守であり、官邸職員の大半も、その対応のため外務省に出向し今夜だけはいつになく人気もなく官邸内はひっそりと静まり返っていた。
この日のスケジュールを3日前に知った田中は、今日をその決行日に決め、その旨美咲と翔太にあらかじめ連絡してあったのだ。
その今晩決行することとは――
そう、彼ら3人は日本の今の状況を打破するのに必要とすべき、異世界にいるスペシャリストについての情報を天空にいる女神さまから霊的シグナルで受け取り、その対象者を召喚できる――チート能力者たちだったのだ。
今回、来るべきシンギュラリティ=大失業者時代における「生存権」を守るべく、彼らは熟考・会議の末、ある役職につくスペシャリストたちを召喚することに決めたのであった。
今回の「召喚対象は...…」と、田中と美咲に「女神シグナル」が伝えてきたのが歴史教科書でも登場する古代ローマ時代の「護民官」たちだったのだ。
「The Big Wave計画」決行の時が迫る—新たなる管理者の正体の謎に迫る…
2025年7月X日――。
「The Wave計画」の決行日が、ついに確定した。
「The Wave計画」が進行する中、JK与党連立政権は最近勢力を伸ばし始めたKM党を取り込み、政権与党の安定化を図り、来年7月の参議院選のタイミングで衆参同時選挙という一発逆転の計画を着々と進めていたが、それは単なる前振りに過ぎない。
そして、その背後で進んでいるのが「The Wave計画」だ。この計画は、社会システムを根底から変えるもの――
やがて新たなる管理者として君臨することになるこの勢力は「The Wave計画」の決行日を2025年7月X日に定めたのだった。この決定がもはや覆ることは余程のことがない限りはない。
すなわち衆参ダブル選挙の投開票日直前の週末に「完全ポイント制」導入開始の第一のゴングが鳴る手はずだ。すべての人を対象とした預貯金などのすべての財産を「0」にする計画を遂行する新たなる管理者たちは、その準備に余念がなかったのだ。
この「The Wave計画」の決行により衆参ダブル選挙を中止に追い込むのが、彼らの狙いの1つでもあった。
首相官邸の職員、田中、若手女性政治家の田中美咲、AI技術者・倫理学者の鈴木翔太も、実は新たなる管理者勢力が放ったエージェントだったのである。なぜ、この3人が選ばれたのか。
なぜなら、彼らには一般常識からは考えられないが~アニメの世界ではお馴染みの~異世界からある目的に特化した能力を持つ逸材を召喚するチート能力者だったのだ
3か月前につながった「糸」
この3人に異世界からの召喚のチート能力があるという話しにはウラがあった。実はチート能力を持っているのは田中と美咲の2人だけで、翔太は召喚儀式の介添え役だったのです。
この3人は私生活でも仲が良く、2人がチート能力に目覚める前も3人でつるみ、一緒によく飲みに行ったりもしていたのだ。
そんな3か月前のある日のこと、待合場所に急ぐ翔太の目の前に、田中と美咲がなにやら談笑している姿が視界に入った。2人が自分に気づいていないことを確認すると、「ちょっと後ろから脅かしてやろう」と内心で思いながら、彼は静かに息を潜めて、二人の背後に近づいていった。足音を立てず、まるで忍者のように、そろり、そろりと進む。翔太。
そろ~り、そろ~りと。
そして、二人がまさに手に届く距離まで近づいた瞬間、翔太は思いっきり大きな声で叫びながら、二人の肩を軽く手を置いた。
「わ~!...… お待たせ!ご両人!」
驚きのあまり、美咲と田中は同時に10センチほど飛び上がったのではないか。
期待した通りの2人のリアクションに大満足した翔太は腹を抱えて笑い出す。
突然のショック療法!?を受けた2人も、最初は驚きで目を見開き、口を開けてしばらく固まっていたが、翔太の姿を見てホッとしたのか、やがてその顔に安心したような笑みが浮かび、同時に声を上げて笑い始めた。
「もう翔太ったら、何するのよ。びっくりするじゃない!」美咲は手を振りながら、何度も笑い声を上げた。
「そうだ、びっくりしたよ!」田中も口元を緩ませながら、翔太に向かって軽くツッコミを入れた。その笑顔に、どこか温かな友情の光が感じられた。
だが、ことはそれだけでは済まなかったのだ。
なんと......そこに何とも愛らしい、ネコのようだが、ネコではない。
「え?なに?なに?」美咲が驚きの声を上げ、田中も目を見開いてその姿を見つめた。目の前には、「地球に暮らす動物図鑑」にも載っていない、異世界から来たような小さな生物が、にこやかに姿を現していた。
それは、まるでアニメのキャラクターから飛び出したような、愛らしい姿をしていた。猫のようで猫でない、手のひらに乗るほど小さなその生き物は、キュートな瞳で三人を見上げていた。
「これ、どういうこと?」翔太は信じられないというように呟いた。
3人の表情には一瞬の戸惑いと驚きがあったが、あまりに可愛いその召喚獣にすっかり癒され、心を奪われてしまったのだ。
(かわいい)心の声がダダもれしていないかと、田中は慌てて自分の口に手を当てた
「ねぇキミ、どこから来たの?」
「さっきまでは、いなかったよね」
美咲はその場にしゃがみ込み、すっかりその子の額を夢中でナデナデしていた。
(よかった、この様子なら美咲に心の声は聞こえていないはずだ)と、田中はホッと胸をなでおろした。
そんな田中の心の機微をよそに
「おいおい、こんな人込みで人目に付いたら大騒ぎになるんじゃないか」
(かわいい!)と声に出さないよう注意しつつ田中が手を伸ばすと、その小さな生物は軽やかに田中の手に飛び乗り、ぴょんぴょん跳ねた。
(かわいい!)心の叫びはフルボリュームで脳内感情を埋め尽くした。
「もう、今日は飲み会中止だね!」美咲が笑いながら言った。
3人のリーダー格である田中も即決した。
「よし!今日の飲み会は中止だ!」
(うん!こんなところで目立ったら、この子の身が危ないもの。)
この心の声だけは口にしないよう田中は自重しつつ言った。
こういう時の田中の決断力に、美咲と翔太は絶大な信頼を寄せていたのである。
「うん!こんなところで目立ったら、この子の身が危ないもの。」田中の心の叫びに呼応するように、翔太も頷く。
(こんなかわいい子を他人の手に渡してたまるもんか...…)
(自分たちの正体(本業)がバレてマスコミにかぎつけられてもこまるし…)
(というか… わたしたちって、ひょっとしてテイマー・スキルがあるの?)
3人に共通する心の声を総括すると、だいたいこんな感じだったのだが…
この3通りの心の声の主が誰のものなのかは...… 読者の想像に委ねることにしよう。
1人2役かもしれないし、1人3役かもしれないし、
3人全員一致の声だったのかもしれない。。
「よし、それなら美咲の家にこの子を連れて行こう。」翔太は、普段の軽い調子を取り戻して言った。
(翔太のヤツ、わたしに押し付けようとしている!?...…本心としては政治家を辞めてでもこの子と、ず~っと遊んでいたいというのに!)と内心思いつつも、美咲はしばらく考え込んだフリをしつつ、冷静さを演じるべくため息をついて言った。
「え?ウチ?無理よ!仕事が忙しくて面倒なんて見る暇なんてないわ」
(ホントは、ず~っと一緒にいたいのに...…シクシク...…)
「そうだよ、翔太!」田中も続けて言った。「お前が変なことをしたから、こんなことになったんだぞ。」
「え? オレのせい?...…。う~ん...…、言われてみればそれもそうなのかな。2人に近づいたときには確かにいなかったしな… 」翔太は苦笑いしながら肩をすくめた。「うん… しかたがない。よし、わかった! というかオレもこの召喚獣と、この現象には興味がわいてきたし、何が起こったのかも分析してみることにするよ。」
(いいなぁ翔太ぁ...…)という田中と美咲の心の叫びをよそに、三人はそれぞれの思いを胸に、この奇妙な事態に対処する決心を固めた。その小さな召喚獣は、無邪気に三人の間を跳ね回り、その愛らしい姿に心が温かくなる瞬間だった。
パッと見、オスとメスの区別がつかなかったので、この愛らしい小さな召喚獣の名前付けは、いったん保留とすることで3人の意見は一致した。
そして、この出来事が、今後の大きな変化への第一歩であることを、まだ誰も知る由もなかった…。
この日起きた待ち合わせイベントをきっかけとし、田中と美咲の二人には異世界から召喚するチート能力が開花し、その召喚発動のレベルを高めるために、ことあるごとに3人は集まって、翔太の助言~プロデュース力により二人は召喚鍛錬を続け、召喚チートの精度と確実性を高めてきたのである。
それは、まさに今晩のために!来るべきシンギュラリティ~大失業時代に「生存権」を守るべく、その対策として!この思いだけは絶対にぶれることなく3人に共通するものだった。
とあるバーで
田中と美咲、そして翔太が集まるのは、いつものようにお気に入りのバーだった。店内は、少し暗めの照明と、静かな音楽が流れる心地よい空間。週末の夜、彼らは気楽に飲みながらも、仕事の話や未来のことについて意見を交わしていた。
その夜、田中と美咲は何かを思いついたように、顔を見合わせていた。その瞬間、翔太が気づいた。二人の様子が、いつもとは少し違う。それまでの和やかな雰囲気から、一転、どこか重要な話を始める予感が漂っていた。
「どうしたんだ?二人とも、そんな顔して」と翔太は言いながら、手元のグラスを軽く持ち上げた。そんな彼に、美咲が少し照れくさそうに言った。
「翔太、実はね、ちょっと面白いことを思いついたの。」
「おいおい、また常識を超えた発想か?」翔太は半分冗談のつもりで言ったが、すぐに二人の表情が真剣になったのに気づく。
「いや、今回は違うんだ。私たち、ちょっとだけ…特別な力を使えるんじゃないかと思ってさ。」田中が静かに言ったその言葉に、翔太は思わずグラスを置いた。
「え?特別な力?それ、どういう意味だ?」
田中は目を輝かせ、まるでこれから大きな秘密を打ち明けるかのような表情で答えた。「実は、美咲と僕、ちょっとした能力を手に入れたんだ。」
翔太はその言葉に目を細め、何か冗談だろうと笑いながら言った。「それ、どうせお前らがまた何か変なことを始めただけだろ。」
だが、美咲は真剣にうなずくと、「本当に、私たちはある力に目覚めたの。」と、さらに強調した。
翔太はその言葉に一瞬沈黙した。そして、しばらく考えた後、ようやく口を開く。「わかった、信じるよ。でも、その力って一体何だ?」
田中は少し間を置いてから、静かに答えた。「それは、異世界から人を召喚できる力だ。」
その言葉に、翔太は思わず肩をすくめた。「異世界?それ、どういうことだ?お前ら、本気で言ってるのか?」
田中と美咲は互いに視線を交わし、微笑んだ。
「本当に、私たちには異世界から誰かを召喚する力があるんだ。」美咲が言うと、田中は少しもったいぶった様子で続けた。「そして、その力で、今の日本が抱える問題を解決するために必要な“人物”を召喚しようと思っている。」
翔太はその話を聞きながらも、半信半疑だった。だが、二人の真剣な眼差しを見て、次第にその言葉が冗談ではないことに気づき始めた。
「じゃあ、どうするんだ?召喚するって言うけど、どうやって?」翔太は少し不安げに問いかけた。
田中は満面の笑みで答えた。「今夜、この場所で試してみようと思ってる。」
「今夜?ここで?」翔太は思わず驚き、目を見開いた。「お前、まさか本当にやる気か?」
「そうだ。今夜、やってみよう。」田中の言葉に、翔太はさらに驚きながらも、なぜかその決意に引き込まれるような感覚を覚えた。
翔太による検証作業
その夜、翔太は一人、自宅の書斎で考え込んでいた。手元には大量のノートとペン、そして何度も読み返した研究資料が散らばっている。田中と美咲が異世界から召喚の能力を得た理由、そしてその謎を解明する手掛かりを求めて、彼は日々模索していた。
そのとき、翔太の脳裏にふと閃きが走った。
「もしかしたら、あれだ…」
古代インドの性愛主義じゃないが男女2人が同時に、ある種オーガズムに似た感覚を2人が共有したことにより、この奇跡が起きたのではないか?
彼の目が輝き、瞬時に机の上にあったノートを掴んだ。あの奇跡的な現象、田中と美咲が初めて異世界からの召喚能力に目覚めた瞬間に何が起きたのか?その謎を解く鍵が、どうやらある特殊な体験にあるのではないかという直感が彼を捉えていた。
翔太は、その瞬間を思い出す。
あの日、田中と美咲が共に体験した出来事。それは、あまりにも奇跡的で予想外の瞬間だった。二人の心が、まるで重なり合うように同期し、共鳴したその時。翔太が、異世界から何かを引き寄せたような感覚を覚えたのだ。
「まさか…あれが、原因だったのか?」
翔太は、古代インドの性愛哲学における「一体感」や、二人が共有する「共鳴」といった概念を思い浮かべた。それらはオーガズムのように強烈な感覚が二人の間で一体化し、肉体的・精神的に完全に重なる瞬間だ。もしかしたら、あの瞬間、田中と美咲の心が完全に一致し、奇跡的な力を呼び起こしたのではないか?
翔太の脳内で仮説が組み立てられる。それが確信に変わり、思わず微笑みがこぼれた。彼は目を輝かせ、即座に行動に移す決意を固めた。
「よし、さっそく試してみるべきだ。二人に連絡して、もう一度やってみるんだ。」
翔太は電話を手に取り、田中と美咲に連絡をすることを決めた。彼の中で、新たな興奮と期待が渦巻き始めた。
田中と美咲の関係と2人に隠された秘密の謎解き
翔太が仮説に確信を持ったその理由は、田中と美咲の関係に深い理解があったからだ。二人が「田中」という同じ姓を持っていることが、いわば一つの伏線だった。
田中が5歳の時、父親の再婚相手に連れられて美咲が家にやってきた。それまで一度も顔を合わせたことがなかった二人は、最初から驚くほど意気投合した。趣味や興味がぴったり合い、まるで双子のように同じ感性を持っていた。
子供の頃、二人はよく一緒にお風呂に入ったり、お互いの秘密を話したりして過ごしていたが、そこには男女としての関係はなかった。血の繋がりはないが、兄妹のような絆で結ばれていたのだ。
翔太はふと思った。これって、ウパニシャッドにあった「魂の最初は一つの生命体だった」ものが、男女2つの人格に分かれ、これが再び結ばれることにより1人の子が生まれた...…というヴェーダの創造神話に似てなくね? と。
日本でいう「桃太郎が桃を真っ二つに割り生まれてきた話しにも相通じる!?...…。」
いずれにせよ、今の段階で翔太にわかっていることは、2人の関係が特別だったということだ。二人が心を通わせる瞬間、何かしらの力が宿っていた。そして、それが今回の「異世界召喚能力」に繋がったのでは?ということだ。
そして、あの晩、二人が過去に大好きだったアニメのキャラクターが、まるで現実のものとなって目の前に現れた。召喚された小さな生き物、それはまるでアニメに登場する獣キャラクターのような姿をしていた。
田中と美咲はその召喚獣を見て、驚きとともに強い興奮を感じていた。まさか自分たちの好きだったアニメキャラが実際に現れるなんて、夢のような出来事だったとでも言いたげなように。
「これ、まさか…本当に召喚獣?」美咲は目を見開き、息を呑んていた。
田中も、その小さな動物を見つめながら驚きの声を漏らした。「信じられない…。でも、あのアニメに出てきたキャラにそっくりだ」。小さな声ではあったが、田中が発したこのつぶやきを翔太は聞き逃さなかったのだ。
翔太はその様子を思い返しながら、確信に近い思いを抱いていた。これこそが、二人の心が完全に重なり合った瞬間の結果だと思ったのだ。
「やっぱり、二人の間で何か特別なことが起きたんだ。これこそがキュートな生き物~召喚獣を呼び起こした原動力だったんだ。」翔太は心の中で思った。
そして、彼の頭には次の実験計画が浮かんできた。それは、この召喚獣を起点に、田中と美咲の力をさらに引き出す方法だった。彼はそのために、二人に新たな実験を提案し、より強力な召喚を目指そうと決意した。
鈴木翔太のこの見立ては当たっていた。やはり、古代インドの性愛哲学における「一体感」や、二人が共有する「何か」が「共鳴」し、オーガズムのように強烈な感覚が二人の間で一体化し、肉体的・精神的に完全に重なる瞬間にそれが起きるのだ。
いうなれば肉体の結合を伴わない、中空空間を介して霊的に結ばれた「和合」(harmony)ときに起きる~オーガズムのような感覚を共鳴・共有する「エアー・セックス」のようなものなのではないか。
この諸条件が整いさえすれば、いつ、どこででも召喚儀式が可能になる。
この話しを聞かせた田中と美咲は、翔太が多くを説明するまでもなく感覚的に、その状態のことを理解したようだった。
ただ、この実験的アプローチをしたときに気づいた点があった。これを完璧にマスターする初期段階のころは、このキュートな召喚獣が田中と美咲のそばにいないと、女神さまからの霊的なシグナルは受け取れなかった!?もしくは受信電波が弱い!?
そうした状況があったのだ。
ただ、その感覚をすっかりマスターした田中と美咲の二人は、自転車でいう補助輪がとれたのと同じく、このキュートな召喚獣がそばにいなくとも、女神さまからの霊的なシグナルを受信することが出来るようになったのだった。
なので、この召喚儀式も、とくにトレーニングを積まずとも、いとも簡単にマスターしてしまったのだ。
「まるでヴェーダでいう『金剛』みたいな話しだな」
「子供の頃は同じ屋根の下で仲良く暮らしていた2人も、いまでは別々の居を構え1人暮らしをしている。そうした『Alone』な時間・空間が持てていることも、このチートな能力、霊的なシグナルを受け取るのにも最適な環境であるはずだ」
翔太は、2人のこの常識はずれで、あまりに優秀すぎるチート能力に多少の嫉妬心を覚えたが、そんな2人と共に行動できる自分が誇らしくもあり~この2人となら、このプロジェクトも必ずや成功する。いな、今思っている-今見えていること以上の、想像もつかない形で大成功を収めるのではないか!? といった期待感に胸が宇宙大に広がるような憧れに近い感覚を覚え、その心も軽く、この確信はより強固なものとなったのだった。
この霊的な技法を会得習得した瞬間の後、それがどのタイミングで完璧に会得したかについては翔太は知らなかったが、あの日の待ち合わせ場所で起きたサプライズ・イベントをきっかけに、2人は女神さまのような存在から霊的なシグナルを受け取ることが出来るようになったことだけは確かのようだ。
これが、いわゆる仏教の十界でいう「声聞」という現象なのだろうか。
翔太、チート能力について語る
翔太はじっと目の前の2人、田中と美咲の顔を見つめていた。少しの間、何も言わずにいると、田中が静かに言った。
「翔太、どうしたんだ?何か気になることでも?」
翔太の眉が少しだけひそめられる。「いや、実はちょっと気づいたことがあるんだ」
「気づいた?」美咲も興味を持ったように顔を覗き込む。翔太は頷きながら、ゆっくりと説明を始めた。
「そう。異世界から召喚したいと思った理由、そしてそのために必要な条件を考えていたんだ。で、気づいたんだよ。」翔太は自信に満ちた目を田中と美咲に向けて見せる。「おそらく、君たちがチート能力を持つに至ったのは、ただの偶然じゃない。あの時、君たちの心が一瞬、完全に同期したんじゃないかな」
田中と美咲は一瞬、驚きの表情を浮かべた。その言葉が持つ意味を理解するまでに少し時間がかかった。
「それって、まさか…」美咲が声をひそめた。
「うん、まさにそうだ。」翔太の目が輝く。「古代インドの性愛主義みたいなものだよ。男女が、ある種のオーガズムに似た感覚を共有することで、奇跡的な力が生まれるって考えているんだ。君たちの心が一つに重なった瞬間、その力が目覚めたんだ」
田中と美咲は言葉を失った。二人は過去に何度も心を通わせてきたが、そのような力を発揮するとは考えもしなかった。
「まさか…あの時のことが、こう繋がるとは思わなかったな。」田中が静かに呟いた。
翔太は満足げに微笑んだ。「だろう?だから、今度は実験だ。君たちの心をもう一度、完全に同期させることができれば、召喚レベルがさらに上がるはずだ。」
美咲は考え込むような表情を浮かべた。「でも、こんなこと…本当に可能なの?」
「可能だよ。あの時のように心が一致すれば、きっともっと強力な召喚ができる。」翔太は確信を持って言った。その目は、完全に実験の成功を信じている。
その瞬間、二人の間にあの時のような静かな緊張感が流れた。過去に心が重なったことで生まれた力。それが、今回の実験でどこまで進化するのか、翔太にはどうしても確認したかった。
そして、その夜――
田中と美咲は、翔太の提案を受け入れることにした。部屋の照明を暗くし、静かな空気が三人を包み込んだ。お互いに目を合わせることなく、だが同時に意識を集中させた。翔太はその様子を見守りながら、心の中で確信を深めていた。
その時、奇跡が起きた。
目の前に現れたのは、どこかアニメで見たような、愛らしい召喚獣だった。小さく、今度はまるで子ブタのような姿をしていたが、どこか異次元から来たような不思議な存在感を持っていた。
なにやら、今まで見たことのない場所、会ったことのない人たちに囲まれた召喚獣は、ひとり「ブヒブヒ」と辺りをキョロキョロと見回していた。
「え?なにこれ?」美咲が驚きながらも、その可愛らしさに目を奪われている。
「どういうことだ?」田中も目を丸くしてその小さな生き物を見つめた。
翔太はそれを見て、満足そうにうなずいた。「これだ。君たちの心が完全に重なった証拠だ。」
三人は驚きと興奮を隠しきれずに、思わず笑い合った。その瞬間、すべての疑問が解決されたような気がした。あの時から続いてきた心のつながりが、ついに形となって現れたのだ。
「もう、どうしようか。」美咲が手をこすりながら言った。「こんな小さな子、どう扱えばいいのか…」
翔太はすぐに反応する。「とりあえず、この子を美咲の家に連れて行こう。こんなところで見られたら、大変だ。」
美咲はすぐに首を振った。「待って、無理よ!私、仕事が忙しくて…」
「いや、でも、もし何か起きたら大変だろう?オレもさすがに2匹は面倒見切れんし」と翔太が説得する。
「そうだな、でも…」田中がしばらく考えた後、頷いた。「じゃあ、どうしよう。まずは慎重に進めよう。」
「そうじゃないだろ大紀、今はこの子の面倒をだれが見るかって話しをしてるんだ」と翔太は田中に詰め寄った。
「まぁ、そう言うなって。翔太のことだ。この子と暮らすことで、また何か新しい発見をするかもしれないじゃないか」
「ったく、なにを勝手なことを言ってんだか...…。まあ、1匹飼うのも2匹飼うのも同じと腹をくくるしかないかな。そのかし美咲も大紀もエサ代はカンパしてくれよ。あのネコちゃんタイプの召喚獣は舌が肥えてるのか高い肉しか食わないんだから」
「ああ、わかったよ」
「わかったわ」
しぶしぶOK!したかに聞こえた、この二人の本音は今すぐにも、この2人の子を我が家に引き取りたかったのだった。
「そういえばネコちゃん召喚獣の性別はわかったの?」と、美咲はず~っと気になっていたことを翔太に尋ねた。
「それがまだなんだ。地球では当たり前な性別を象徴する体の部位が見当たらないんだよ」と、翔太は申し訳なさそうに答えた。
「こいつはどうかな?」と、ブタちゃん召喚獣の身体を確認しようとしたところ、「ブヒブヒ」と何やら翔太に猛抗議している様子だった。
「なら、いつまでも名無しじゃ困るから、今度ネコちゃん召喚獣と、今来たブタちゃんのこの子と、この3人で集まって2人の名前を考えようじゃないか」と、田中が提案すると。
「賛成!」と、美咲と翔太の賛同の声がピッタリと重なり合った。
こうして三人は、この小さな召喚獣とともに、未知の世界への扉を少しずつ開いていくこととなる。それが、やがて日本を、世界を救うための大きな力に変わるとは、誰も予想していなかった。
翌日の命名式は突然に!
その後、無事2人(2匹?)の召喚獣の名前が決まった。いつまでも名前が決まらないままだと気の毒だと美咲が強引に田中を呼びつけ、翌日アポなしで翔太宅に乗り込んできたのであった。
「おお、なんだなんだ二人して」...…翔太は突然の2人の来訪に面食らってる。
「それがさ、美咲のやつが強引で......俺も」と、その先を話したそうにしている田中の発言を遮る形で美咲は必死モードで2人の男に訴えかけた。
「だって、名前がないままなんてかわいそうじゃない。名前が決まらないと落ち着かなくて仕事に手がつかないのよ」
「美咲らしいな」
「ほんとそれな」
美咲の性格をよく知る2人の男性陣は苦笑いするより他に手がないことを悟った。
じつは、この美咲の強引さのの背景には、もう一つの本音があったのだ。
なにかにつけて理由をこじつけ、キュートな召喚獣の2人に会いたくてたまらなかったのだ。
そんな美咲の本音に田中はとうに気づいていた。その話をしようとしたのに見事なまでの美咲のツッコミによって口封じされてしまったのだ。
(やれやれ、これからも美咲は翔太の仕事の邪魔をしに凸するんだろうな)と、田中は翔太に少なからぬ同情が芽生えたのであった。
3人の協議の結果、ネコ型の名前は「モコまる」、ブタ型の名前は「ペチャまる」に決まった。
翔太の「ぶたろう」は、田中と美咲により即却下!田中の「タピオカ案」は、ネーミングセンスーゼロの烙印を押されることとなった。
名前が決まりホッとした空気が流れ始めると、「あ、そうそう”ぶたまる”の...…」。「”ぶたろう”じゃなくて”ペチャまる”でしょ」とすばやく美咲が翔太をたしなめた。
「そうそう、その”ペチャまる” なんだけれど、なんかオスだったみたい」
「きゃぁ、男の子だったの”ペチャまる”......かわいい!」と、すかさず彼を抱き寄せた美咲は、頬ずりを始め「よくわかったわね」と翔太にその理由を尋ねた。
「ていうか、昨日は ”ぶたろう” は...…見」「”ペチャまる”でしょ」「そうだった、ついさっきまで”ぶたまる”って呼んでたから、まだ”ぺちゃまる”という名前になれてないんだよ」
しびれを切らした田中は「そんな話は、どうでもいいから早くその先の話をしろよ」と、2人をたしなめた。
「その先って言われても、昨日は ”ペチャまる” が、見せてくれなかったから、わからなかっただけの話しなのよ」
その話を聞いた一同は、一斉に吹き出した。
お腹をおさえながら美咲は「モコちゃんの性別はまだわからないの?」と同じく腹を抱えながら笑いこけている翔太に問いかけた。
「ああ、それな...…、ちょっとまってお腹イタイ!」
「ほら水!」と、田中は来る途中コンビニに立ち寄り買ったペットボトルの水を翔太に手渡した。
水を一口飲み、笑いからくる腹イタをクールダウンした翔太は「それが、どこをどう見ても、わからないんだよ。ひょっとして、その星に住むすべての生き物に性別がない、地球の人間みたいに性的な悩みや問題がない惑星のような空間があるんじゃないかな」
「ひょっとして、この子、性転換手術を受けていたりして...…?」
「それを言うんなら去勢じゃない!?」
ネコの増えすぎ対策に必要な措置とはわかっているが、「自分がされたらイヤだ」との理由で、ネコちゃんの去勢手術を快く思っていなかった3人は、その結論には納得がいかない様子だった。
モコまるの身体を観察してきた翔太1人だけは、これが性転換手術や去勢によるものではなく、もっとなにかアセンション=次元上昇した世界~その生き物進化版のような形態をもって生まれた知的生命体を有する惑星~空間があるのではないか、そこから来たのが”モコまる” なのではないか? と密かに直観に近い感触を覚えていたのだった。
一方の、田中と美咲は、キュートなブタ型の子を召喚することを、翔太に告げることなく事前に打ち合わせていたのだ。それは2人が子供の頃大好きだったアニメに登場したアニメキャラそのものだったのである。
この召喚体験の大成功により、2人に共通するイメージをより具体的なものとして共有することにより、これから推し進めるプロジェクトに必要な助っ人として、自分たちが求める人財を召喚できるというおぼろげな自信が確信に変わったのである。
再び首相官邸
田中は、首相官邸のオフィスに静かな時が流れるのを感じていた。「玲瓏」ーそんな表現がピッタリだと心の中でひとりごちた。彼の目の前のデスクには、古代ローマの遺物が無造作に置かれていた。
その中でも、銀の皿に刻まれた「オ・マグヌム・ヌメン」の文字が、今にも光りだしそうに輝いている。田中はそれをじっと見つめながら、思わず唇を引き結ぶ。彼が次に起こす行動が、すべてを変える――そんな予感を胸に抱えていた。
窓の外では、昼間の喧騒がすっかり静まり、夜の闇が街を包み込んでいる。ひんやりとした空気の中、彼は机に向かいながらも、どこか遠くを見つめているような気分だった。
いかにもオフィス向けといった黒革張りの高級ソファーに浅く腰かけた田中美咲は、彼女らしい精悍な表情を浮かべ田中を見つめていた。彼女の目には、期待と不安が交じった複雑な感情が浮かんでいる。しかしその目は、何か新しい冒険の始まりを感じさせる輝きを秘めていた。
間髪入れずその後につづくように、彼女と真向いのソファーに翔太は、大の字に深々と自分の身体を投げ出した。高級とはいえクッションが多少かためなオフィス向けのソファーである。そんな乱暴な座り方をして腰を痛めないのか?と、田中と美咲はいつも思うのだが、そんな2人の心配をよそに、翔太の顔には、どこか楽しげな色が浮かんでいる。そんな翔太に2人はつられたのか、いつものように、三人は互いに親しげに顔を見合わせ、普段通りの和やかな笑顔が交わされた。
「じゃあ始めようか、電話では会議だって言ったけど、実はね。」田中は、ソファーから立ち上がると、にやりとした笑みを浮かべながら言った。
美咲と翔太は顔を見合わせ、一瞬驚きの表情を浮かべる。
「え?会議じゃなくて?」美咲が口を開くと、翔太も目を丸くして驚きの声を上げた。
ソファの前に立った田中の手の中には、銀の皿が輝いている。「今夜、我々の前に現れるのは、古代ローマの護民官だ。」
「え?」美咲はさらに驚きの声のトーンが上ずった。翔太も一瞬言葉を失う。田中の顔には、少しだけ険しさを含んだ笑みが浮かんでいる。
「一体全体、古代ローマの時代から “御みかん” だっけ? 甘くて美味しい『みかん』の新種かなんかですか?」翔太は、思わず自分の頭をかきながら冗談を言った。「相変わらず常人の想像を超えた発想をするもんですね」と、肩をすくめて言ったが、その顔にはどこか期待を込めた表情が浮かんでいた。
田中は頷き、皿を持ち上げる。「この儀式を通じて、現代における政治的な問題を解決するために、あの護民官たちの力を借りるんだ。無論、単なる政治家としてではなく、彼らの知恵や力を借りて、この国を新たな方向に導くために。」
「本当にそんなことができるのか?」翔太は疑い深く言った。「古代ローマの護民官だって?」
田中は、にやりと笑って答える。「そうだ、実は今晩、この場所で召喚の儀式を行おうと思うんだ。」
美咲が少し考え込みながら口を開いた。「でも、護民官ってそんなに力強い存在だったの?」
田中は、皿を振るいながら答える。「彼らは古代ローマ時代、民衆の権利を守るために戦った者たちだ。今の時代に必要なのは、まさにその精神だ。」田中の声に力強さがこもる。
「なるほど。」翔太は頷くが、その顔にはどこか楽しげな表情が浮かんでいる。「じゃあ、古代ローマの制服でも着て現れるのか?それとも、現代風にカジュアルな服装で?」
田中はニヤリと笑いながら言った。「その辺りも楽しみにしておいてくれ。」
「ええ?」美咲は、今宵3度目となる驚いた声を上げ、翔太も「本当に?」と目を大きく見開いた。
田中はその反応に楽しげに答える。「そう、その古代ローマ時代の護民官たちを、ここに呼び寄せるんだよ。」
翔太は、その場でくすりと笑うと、目の前の二人に向かって手を振った。「ああ、やっぱりお前らしいな。常識外れのことをやってくれるからこそ、こんなチート能力の持ち主になったんだろうけど。」
その言葉に美咲は眉をひそめる。「わたしもその『護民官』シグナル女神さまから受け取ったけど、だからって、いきなり儀式なんて、びっくりするじゃない。」だが、そんな彼女もどこか嬉しそうな、興味津々の顔をしていた。
護民官の召喚の前に
「さて、みんな。心の準備は整ったようだな」と首相官邸に集まった2人に田中は言い、机上の資料に目を通した。「これから召喚すべき人物は、歴史の中で最も“公平”と“透明”を重視し、民衆のために立ち上がった人物だ。それが、古代ローマの『護民官』だ。」
翔太が目を見開いて反応する。「護民官?それって、現代に召喚しても意味があるのか?」
「意味がある。そして、今この場所、首相官邸内で行う!ということが重要なんだ。」田中は強調するように、翔太の疑念を即座に払拭する。「護民官は民衆の権利を守るために存在した。彼らが築いた制度は、今でも多くの国の法の基盤に影響を与えている。今の日本にもその精神が必要だと思うんだ。」
美咲もその意義を理解しながら頷く。「確かに、今の時代、強大な権力や大企業に振り回されることが多いですからね。私たちはあらためて、『守るべきもの』が何かを問い直さなければなりません。」と応じた。
田中はさらに資料をめくり、テーブルの中央に広げた。「そのためには、ただ単に職務を遂行する能力だけではなく、道徳心と正義感を持った人間を選ぶ必要がある。『護民官』の精神は、単なる指導者ではなく、民衆の声をきちんと受け止める『耳』を持った人間にこそ必要なんだ。」
「それでこそ、日本が今抱えるさまざまな問題を解決する道が見えてくる。」美咲が語気を強めた。「このシステムをつくりあげることで、私たちは日本の未来を変えることができる。」
田中は頷き、静かな声で語りかける。「そして、そのためには今後も慎重に進めなければならない。だが、待っていても未来は決して変わらない。今すぐにでも始めなければならないんだ。」
その瞬間、美咲がふと顔を上げ、田中に尋ねた。「ところで、田中さん、あの女神さまからのシグナル、受け取ったのでしょ?」
美咲がプライベートで「田中さん」という呼び方はしない。血はつながってはいないものの戸籍上は兄である田中に対しては、幼いころからいつも親しげに「大紀」と呼び捨てであった。
だが、ここは首相官邸である。
首相官邸でなくとも仕事の場では「田中さん」と呼ぶようにしていたのだ。
田中は少し黙り込み、静かに答える。「ああ、受け取った。今回も女神さまの示唆に従い、私たちが進むべき道が明確になった。」
翔太が不安げな声で問いかける。「女神さま…本当に信じているんですか?霊的なシグナルが私たちを導いてくれると?」
田中は少し笑みを浮かべ、穏やかに答える。「あの方は、人間の枠を超えている。信じるかどうかは別として、私は今回もその道を進むべきだと確信している。」
「なるほど…」翔太は一瞬黙って考え込み、やがて納得したように頷いた。
翔太が静かに言葉を続ける。「ただ、召喚する人物を古代ローマの「護民官」として、彼らを呼び寄せるまではいいが、それをいかに今の日本に当てはめ、またAIとタッグを組む公平さと透明さを担保するスペシャリストをどうやって選び出すかが、次の課題ですよね。どんな基準で選び、どうやって育成するのか……?」
田中は少し考え込んだ後、静かな声で答える。「その点については、私たちが今後決めなければならない。そして、最も大切なことは、このプロジェクトが成功するために全員が同じ方向を向いて進んでいくことだ。」
翔太は黙って耳を傾けながら、静かに告げる。「それにしても、もしこの計画が成功すれば、私たちの時代が大きく変わる。それは恐ろしいほどのインパクトを伴うだろう。」
田中はその言葉に深く頷きながら、目を鋭く光らせた。「そうだ。しかし、その変化を恐れる者が必ずいる。だからこそ、私たちは絶対にブレてはいけない。」
田中はテーブルに並べられた資料をもう一度確認しながら、再度語りかけた。「今夜、私たちの未来が決まる。そして、女神さまの力を借りて、このプロジェクトが成功すれば、日本は新たな時代を迎えるだろう。」
その言葉に、美咲も翔太も、そして田中自身も、心の中で確信を抱いた。確かに、この計画は簡単ではない。だが、女神さまからの霊的シグナルを受けて、護民官を召喚し、次なる一歩を踏み出す心の準備は整った。
美咲と翔太もその言葉に頷き、田中自身もその確信に満ちた目を光らせる。「今夜こそ、私たちの歴史が動き出す。」
田中をはじめ、美咲と翔太の瞳にも、強い決意と共に、未来を変えるという揺るぎない信念が宿っていた。
いざ召喚!
「では、儀式を始めるぞ。」
いつになく真剣な面持ちで語る田中の言葉に、美咲と翔太は頷いた。
田中は、室内に響く声で呪文を唱え始めた。「オ・マグヌム・ヌメン、テ・インヴォカマス! ローマの護民官よ、我々の前に現れ給え!」
聞いたことのない呪文を唱え始めた田中に、美咲と翔太は「いつの間にそんなの覚えたんだ!?」との疑念がわいたが、「今は集中、今は集中」と、その疑念についてはいったん忘れることにした。
「オ・マグヌム・ヌメン、テ・インヴォカマス!」(O Magnum Numen, Te Invocamus!)とはラテン語で、直訳すると「おお、偉大なる名よ、我らはあなたを呼びます!」という意味なのだそうだ。
むろん、美咲と翔太にそんな予備知識はなかった。というより呪文を唱えている田中自身も、その意味についてあまり詳しくはなかった。
この呪文フレーズは、「特定の宗教的または神秘的な儀式において、神聖な存在を呼び寄せる際に用いられることがある」ということだけは田中は解説本の知識としてだけ知っていた。
この呪文を唱える厳粛な田中の声が部屋に響き渡ると、空気が一変した。青白い光が部屋中を包み込み、霊的ともいえるゾクゾクとした振動が体中に伝わってくる。美咲と翔太は思わず立ち上がり、目を見開く。
その光の中から現れたのは、古代ローマの衣装をまとった男だった。硬い鎧ではなく、優雅なトガを身にまとい、腰に剣を携えている。その顔には厳格で真剣な表情が浮かんでいたが、どこか落ち着いた雰囲気も感じられる。
「我が名はカエサル・マルクス。護民官、ここに降り立つ。」彼の声は深く、重々しかったが、どこか温かみがあった。
(というか、どこかアニオタというか中二病してね?)と、美咲と翔太は「ね!」と、同意を求めるようなアイコンタクトを交わしていた。
そんな2人の様子を尻目に、田中は目を輝かせながら言った。「おお、マルクスよ、我々に力を貸してほしい。この時代の問題を解決するために。」
(大紀まで、中二病って......。やめちくれ~)
ツボった、美咲と翔太は笑いをこらへようと必死に冷静な人を装っおうと最善を尽くした。
カエサル・マルクスは、田中を見つめた後、静かに頷いた。「我々の力、貴公のために使おう。だが、覚悟は良いか?」
カエサルのこの一言により本来の使命・目的を思い出した美咲と翔太は冷静さを取り戻し、三人の顔が一瞬引き締まった。そして、これから始まる冒険の予感が、部屋の空気をさらに張り詰めさせた。
(にしても、おいおい、ちょっと待てよ。なんで古代ローマの人がいきなり俺たちにもわかる日本語で自己紹介してんだ!?)
翔太は儀式の進行の妨げになってはマズいと思いつつ声には出さなかったが、この疑念の心の声を静めることはできなかった
実は、この異世界転移にはある秘密があった。カエサルたちが降り立ったのは、単なる召喚の儀式ではなく、神々の計画の一環だった。彼らは、21世紀の日本という異世界での使命を授かれていたのだ。日本の未来、そして地球全体を救うために。
さらに、ここに降り立つ前に、古代ローマからやってきた護民官たちは1度、女神さまの元へ行き、21世紀の日本という国に行く目的や、彼らがなすべき使命、禁則事項その他モロモロの説明を受けていたのだ。
召喚の呪文を唱え護民官たちがこの場に現れるのは一瞬の出来事であったのだが、彼らはいったん女神さまの元へ行ってから、ここに降り立ったのだ。このタイム的なズレは、人間界と神さま次元の時間感覚が違うがためだった。
賽は投げられた: 女神からの啓示
古代ローマの時代
カエサル・マルクスは、後世に語り継がれる『一代戦記』のような自伝書を書き残したいと常々思い、その構想の糧となる文学や歴史書の資料を集めていた。
今宵も知人の紹介で、いま護民官養成学校の教官をしているアウルスという人物に会い、いくつかの文献資料を譲り受けることになっていた。
シャワーを浴びこざっぱりした彼は、内縁の妻であるセリアが洗濯してくれた古代ローマ時代の制服に着替え、出掛ける身支度を整えた。
セリアの息子であり、彼の才能に惚れ込みカエサルが常日頃から目を掛けてきたマルティウスのことをふと思い出した。
「やつは元気にしてるかな」
おっと、いけない。もうこんな時間だ!
カエサルは厩へと急いだ。するとどうしたことか。カエサルの周囲を包み込むような光の渦が彼を巻き込み、ある異空間へと吸い込まれたのだ。
自分の身に何が起きたのか、さっぱりわからず、目をパチクリさせ周囲を見回した。カエサルが飛ばされた場所ーそこはどことなく神秘的な雰囲気が漂うあ空間のような所であった。
21世紀の人が見たら「あ、異世界転生物でお馴染みの神さまがいるところじゃない?」と、すぐにでもわかりそうだが、カエサルの時代にはまだそのようなアニメはなかったので、ひとり唖然と目をパチクリさせ周囲を見渡した。
すると右手後方に数人の人影らしいものがみえた。カエサルが近づくと30代前後の男性と、十代後半と思しき男女が2人づつー彼らもカエサル同様、自分たちの身に何が起きたのか皆目見当がつかず右往左往している様子だった。
彼らの顔が確認できる距離まで近づくとカエサルは腰を抜かしそうになった。「ブルータスお前もか」と咄嗟に叫んでしまった。
「あれ?カエサルおじさん、なんでここに?っていうか随分老けちゃったんじゃない?」。いまは「アウルス」という偽名で護民官養成学校の教官をしているブルータスも驚きの声を上げた。
「おお、ブルータス、やはりお前だったか...…。それにしてもお前の方は随分と若返ったように見えるが、一体全体どういうことなんだ?」
「ボクらにもサッパリわからないんだ。養成学校の課外授業で、ここにいる生徒たちと街中を巡回しているときに、なんだかワケのわからない光に包み込まれたかと思ったら、この場所にいたんだ」
などと、近況報告ならぬ、お互いの身に起こった状況報告を交わし合っていた彼らだったが、どうやら同じ古代ローマであっても数十年とはいかないまでも10年以上のタイムラグがある世界から召喚されたようだった。
無論、そんな説明を彼らにしたところで、この異世界転移のような話しをすぐに理解できるとも思えなかった。
すると、心が洗われ、魂が癒されるような、なんとも美しき女性の声が聴こえてきた。
「よく来てくれました。そして突然のこととはいえみなを驚かせてしまったことをお許し願いたい」
この場に連れてこられた一同は女神の声にすっかり魅了され、突然の出来事を訝しがっていた感情も一瞬にして消えたのであった。
「あれは、女神さまというものなのではないか?」
そのことはアニメがなかった古代ローマの人たちでもすぐに分かったようだ。
「みなのもの、わらわの近くに集まりたもう」
女神さまの放つオーラに魅了された召喚者たちは、吸い寄せられるようにして女神のもとへ集まった。
「みなに、ここに来てもらった理由はほかでもない。あなた方にぜひ、やっていただきたいことがあるのじゃ」
「やっていただきたいこととは、なんですか?」と、自己紹介するのも忘れカエサルが女神に聞いた。
というより、女神であれば当然、彼らの名前や素性は知っていたのである。
「あなた方に託す使命とは、21世紀のジパングに行ってもらいたいのじゃ?」
「ジパング?」
「そうじゃ、ジパングとはローマからみると東の果てにある島国のことじゃ」
「そんなところへ、しかも21世紀というと今から2000年以上もはなれた遠い未来じゃないですか」
「さすがはアウルス、護民官養成学校の教官をしているだけあって話しが早くて助かるぞよ」と、女神はやさしく微笑んだ。
「みなのものにはいまから、そのジパングー未来のその地では『日本』と呼んでいるのじゃが、そこへ行って、皆が持つ護民官のスキルをもって21世紀の日本~しいては地球村全体の危機から救ってもらいたいのじゃ」
女神の言葉を聞いて、カエサルは思わず口を開いた。「2000年後の未来、そして遥かに遠く離れた日本、ということですか?」
カエサルを始めとした召喚された者たちは唖然とした表情で女神さまからの神勅を聞いていたが、持ち前の正義感とともに「なんだか面白そう!」という冒険心というか使命感のような心が芽生え始めたのだった。
女神はやさしく微笑み、こう言った。「その通り。あなた方には、未来の日本で発生した危機に立ち向かってほしいのです。そしてその力をもって、地球を守ってほしい。」
そこでアウルスが女神に問いかけた。
「21世紀という途方もない未来、しかもローマより遠く離れた日本へ行くのはよいのですが、言葉は通じるのでしょうか?」
「アウルスよ、良いことを聞いてくれた。じゃがその点は心配には及ばぬ。なぜなら、わらわが今ここで、みなのものに日本語が話せ、日本語を聞いてもわかるよう「言語スキル」というチートな能力を授けるからじゃ」
「『げ・ん・ご・す・き・る ⤴』ってなんだ?」と、思わず語尾が上ずりってしまった護民官学校の生徒Aは、聞いたこともないような話しに思わず声を上げた。
「むずかしく考える必要はない。簡単に言うと今話している感覚で日本の方たちともスムーズな会話ができるということじゃ」と、女神はやさしく諭した。
「ええ?」
「そんな魔法みたいなことができちゃうの?」
「えええ?」
「うっそ~?」
生徒たち4人のこの驚愕したリアクションも、言語スキルによるチート効果なのか。すでに21世紀のアニオタ化していることに彼らは気づいていない様子だった。
一通りの説明を受け自分たちが21世紀の日本で何をすべきなのかを理解し、これを快諾したみなに向かい、女神は日本における立ち居振る舞いで絶対に犯してはならない禁則事項を語り始めた。
「みなのものであれば心配はないと思うが、念のため言っておくことにするぞよ。それは日本に降り立った皆の姿は、ローマ人としてのいまの姿・形ではなく「2000年後~21世紀の日本人に見える」ということじゃ。」
「ええ?」「マジで?」
「チートすぎる!」
カエサルやアウルスのリアクションまでもが、すでに日本化しているようだった
そんな彼らの様子に「してやったり」と満足した女神は話しを続けた。
「でも油断すると、たとえば酔いつぶれたり、不倫に走ったり、十戒に規定された禁則事項など「人としてやってはいけない」こと「公平さ」「透明さ」に逆らう行為をすると、途端にローマ人の姿になってしまい、皆の者の身の安全は保障できなくなるので、その点だけは気を付けるように!」と、くぎを刺すことを忘れなかった。
「ほかに何か、質問はあるかな?」と、女神が聞くも、退屈な説明に飽き飽きした彼ら護民官たちは「早く未来の日本という国に行きたい」という衝動を抑えきれなくなっていた。
そんなところまで早くも21世紀の日本人のノリに書き換えられていたのだった。
女神は、その滑稽さに笑いを隠しきれず、思わず軽く「プッ」と吹き出してしまった。
それを、悟られまいと高らかに宣言した!
「では、行ってまいれ!みなのものシッカリと使命を果たしてくるのじゃぞ!戻ってきたときの報酬も楽しみにしておれ!では道中の無事を!」
と言い終わると、右手に持っていた杖を床にドンと振り下ろした。
すると再びカエサルたちの周りに光の渦が現れ、彼ら護民官たちを巻き込み中空空間へと吸い込まれ、姿を消したのであった。
「やれやれ、無地に行ったかな。あとはよろしく頼んだぞ大紀!美咲!翔太!よ」と虚空へ向かい言い放つと、女神はホッと安堵したのであった。
21世紀の日本に舞い降りた古代ローマの護民官たち
首相官邸に召喚されたカエサルたちは、田中があらかじめ官邸の厨房にお願いしてあった歓迎用の料理に舌鼓を打った。
「なにこれ、こんなの食べたことない」
「ちょっとちょっと、この白い粒々の上に赤いものがのっているけど、この紅白な感じが美しくて何なんだか食べるのがもったいないわ!」
「え?この赤いのお魚さんなの?」
「ヤバい。超うまいんだけど......。」
古代ローマの護民官養成学校ではトップクラスのスキルを持つ女子生徒の2人組はキャッキャとはしゃいでいた。なんにせよ女神さまがチョイスするほどの護民官スキルを持っている子たちなのだ。
明るく元気で、愛らしく柑橘系の香りが漂う彼女たちの見目姿は、日本の女子高生そのものだった。
女神さまが与えた、チート言語スキル能力だけあって話し方まですっかり21世紀の日本に溶け込んでいるようだった。
女神が授けた、このチートな能力に、すっかり魅了された田中たちだったが、そんな「彼女たちが禁則事項だけは犯さぬよう......、温かく見守るのもオレたちの大事な仕事の1つなのかもしれないな」と翔太は思った。
「この担当は美咲かな......。」と、田中に目配せしていた。
田中も、翔太の意図を察したのか、「それがいい、それがいい」と、軽くうなずいたのであった。
こうして女神より使命を託された、古代ローマ時代で大活躍した護民官たちは、現代日本の首相官邸に降り立ったのだった。
その姿は日本人の外見をしており、周囲の人々には目立つことなく新たな役割を果たし始めることだろう。
この時点で重要なのは、彼らの助言により、現代の日本人が、いかにAIとタッグを組み、公平さ、透明さを担保できる各分野における専門性を有するスペシャリスト集団=いわば21世紀版「護民官」制度を確立できるかにかかっている。
この構想力~プロデュース力が問われる、田中、美咲、翔太の3人組は改めて気を引き締めたことは言うまでもあるまい。
その晩は、あまりに突然の出来事に疲れているだろうと召喚した護民官たちには早めに休んでもらうことにした。
彼らには1人ずつの個室を計6室用意してあったが、カエサルはアウルス(ブルータス)と、男子生徒2人と女子生徒の2人もそれぞれ男女別の同室を希望したので、3室だけで事足りてしまったのだった。
東京見物に出向いた、護民官たち
初めて現代日本に足を踏み入れたカエサルたちは、驚きの連続だった。スマートフォンを手にした若者たちが街を歩き、SNSで情報を発信している姿を見て、カエサルは唖然とした。
「この…小さな箱が、何をするためのものなのだ?」カエサルは困惑した。
さらに、初めての日本食に触れるたびに、彼らの反応は面白いものだった。昨晩の晩さん会でスッカリお気に召したのか、この日のランチでもカエサルは寿司を手に取り、戸惑いながらも食べてみる。すると、その味に目を見開き、驚いた表情を浮かべた。「これは…神々の食事か?」
また、スマートフォンを使いこなすことにも苦労し、最初は何度も操作ミスをしてしまうが、次第にその便利さに魅了されていく。日本語を理解し、会話もできるようになったことで、彼らは次第に日本社会に溶け込んでいく。
カエサルたちが地球を救うためには、現代日本の危機を解決する方法を共に見つけなければならない。彼らの知識とスキルをどのように活かすかが鍵となる。だが、敵は予想以上に強大であり、彼らの前に立ちはだかる新たな挑戦が次々と現れる。
さらに、現代の日本人との交流を通じて、カエサルたちは友情や信頼を築いていく。彼らの成長と変化が描かれる中で、彼らはどのように日本を、そして地球を救うのだろうかが、大きなテーマとなっていく。