失恋と海とサンマ


 失恋をすると、海を見に行った。食欲が失せ、やつれた体で波打ち際にたたずみ、大海原を眺めた。大きな懐で傷心を受け止め、洗い流してくれるような気がした。

 その海にも恋人がいると知った。お相手は森。漁業に携わる人たちの間には「森は海の恋人」という業界用語があるという。森は川を通じて海に栄養分を届けているからだ。なるほど、海が命のゆりかごとして役目を果たせるのも、最愛のパートナーがいてこそなのだろう。

 ところが最近、その関係は少しずつ揺らいでいるようだ。原因は地球温暖化。豪雨や台風といった災害で森林が荒れ、海に流れ込む養分が減り、海が痩せているという。旬が到来した秋の味覚サンマも、ここ数年は不漁が続き、身は痩せ細っている。原因ははっきりしないが、専門家の間にはプランクトンの減少が一因との見方もある。広島県特産のカキも、身太りが気になる。  

 温暖化を招いたのは、他でもない人間だ。海産物の異変は、ロマンチックな営みを邪魔された自然のしっぺ返しなのかもしれない。声なき警告を正面から受け止め、海や森との付き合い方を改めて考えなければなるまい。愛情を注がなければ、二度と振り向いてくれなくなる。

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