岸田首相とは何だったのか 総裁選不出馬に思う

 岸田文雄首相が14日、自民党総裁選への不出馬を表明した。派閥の裏金問題の再発防止策が中途半端に終わり、内閣支持率を再浮上させることはできなかった。政治とカネの問題を捨て身で解決に導けば活路も開けたが、党内を束ねるリーダーシップに欠け、難題を乗り越える度量と器量はなかった。

 岸田なるものとは何だったのか。残念だが、ひと言で言うならば、何もしなかった宰相ということだろう。分厚い中間層をつくるべく、令和版所得倍増と新しい資本主義を打ち出したが、ふたを開けてみればパフォーマンスとフレーズばかりが上滑りし、課題を解決する実行力と突破力が弱かった。

 象徴的なのが核兵器廃絶に向けた対応だ。被爆地広島選出の首相として期待され、核兵器廃絶をライフワークに掲げながら、政治的なレガシーは乏しかったと言わざるを得ない。

 最大の見せ場となったG7広島サミットでは、米国の「核兵器の傘」に頼る抑止力の拡大を採択し、被爆者から大きな反発と失望を招いた。核兵器禁止条約の参加には最後まで後ろ向きで、米国の顔色をうかがうことに終始した。

 1000日を超える在任期間をたどれば、安倍首相の路線を踏襲し、拡大した印象が強い。期待された新味のある岸田カラーは感じられず、結局は保守色の濃い古い政治家のイメージばかりが際立った。
 
得意の外交も政権浮揚のエンジンとしては出力不足。外交の岸田を自認しながら、台湾有事を防ぐカギとなる中国トップとの対話はほとんどできなかった。北朝鮮による日本人拉致問題についても結局、金正恩氏との対話のチャネルを開くことはできず、事態の打開には至らなかった。

自民党を変えるために身を引いたというが、国民が求めているのは自民党が変わることではなく、岩盤のように動かない難題の解決に尽きる。岸田首相の退任は、党内や派閥の力学、しがらみにとらわれた古いタイプの政治の限界を意味する。旧態依然とした組織政治、派閥政治、先入観や価値観を打ち破る、大胆かつフレッシュな宰相が今こそ求められている。

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