逆回転するニッポン


【人類の未来を暗示するネズミの実験】  
今から60年近くも前に、人類の未来を暗示するような実験が進められていました。その結果に驚愕を禁じ得ません。それはまるで2004年をピークに人口が減り続けている今の日本のようです―。

 1968年、米国の動物学者がネズミを使い、ある実験を始めました。その名は「ユニバース25」。ネズミには十分なスペースと水、食料が与えられました。室温は20度前後。病気が予防され、捕食者もいない。天国のような環境の中、ネズミの個体数はどう変化するのかを追いました。

 実験から104日目で最初の子どもが生まれます。その後は約55日ごとに個体数が倍になる「人口ボーナス期」を迎えます。このまま爆発的に増えるのかと思いきや、350日目に倍増するペースが約145日と鈍化します。そして560日目には個体数の増加がストップしてしまいました。

 原因はオス同士の争いです。勝利したオスは縄張りを広げるが、その防衛に追われ、やがて受胎数が減少し、赤ちゃんの死亡率が高まりました。敗北したオスは活動が鈍り、互いに傷つけ合うようになります。  

やがてメスは子育てを早めに放棄するようになります。オスは戦いもせず、メスにアプローチもしない「美しい者」ばかりになり、メスの妊娠率が大幅に下がってしまいました。960日目にメスの最後の受胎が確認され、1790日目には最後のオスが亡くなったのです。

【動物の宿命】  
この結果は、動物は豊かな状態が続くと、縄張りを確保する闘争本能や、子孫を残す活動力が失われ、やがて種の終焉を迎えることを如実に物語っています。そのプロセスは現実の日本社会に実に似ていて、少しぞくっとします。

日本の人口のピークは2004年12月の1億2784万人。明治維新の1868年の3330万人から、わずか140年ほどで4倍近くに増えました。ところが人口が下り坂を迎えた今、男子の草食化はユニバース25の美しいネズミたちを連想させます。育児を放棄する母親や、子どもを持たない女性の増加も、実験の過程と重なる面があります。

ネズミと人類を単純に同列に扱うことはできないかもしれませんが、この結果は無視できないと思います。人口減少はもはや自然の摂理であり、動物としての人間の宿命というほかないのかもしれない。少子高齢化は、行政による出産や子育て支援の乏しさに起因するのではなく、必然の流れなのでしょう。

【「正しく縮む」資本主義の転換期】
そう考えると、膨張を続けた資本主義は、風呂敷をたたむ時期に来ているのかもしれません。それは決して悲観するようなことではなく、経済的に柔軟な対応が求められているということだと思います。

政府には人口減少と高齢化を前提に、エネルギーや商品の大量生産、大量消費をやめ、徐々に縮小させる政策こそ求められているのではないでしょうか。人口増を前提に成長を追求するこれまでの経済政策は、資源の無駄遣いを招くだけだからです。

その際、人口減をどのレベルで食い止め、どれぐらいの人口水準で国を維持するのかという前提を打ち出す必要があるでしょう。 人口だけ取ってみれば、日本は確実に逆回転しています。GDPが伸び続ける幻想を捨て、プラスからマイナスへ発想を180度転換することから始めなければならない。正しく縮小すれば、エネルギー、物質の両面で無理なく社会を持続でき、無駄な労力を省くことができるからです。

超高齢化の到来も見据えれば、人々が穏やかに暮らせる高福祉社会を目指すのがベストな選択なのかもしれません。

いいなと思ったら応援しよう!