我が家が初めて一緒に暮らしはじめた犬はお姉さん座りで笑っていた #3
アルファー・シンドローム
1998年2月、いよいよ、新居での家族3人とラブ1頭の生活がはじまった。
Buddyは3ヶ月。何もかもが珍しく全身が好奇心の塊だった。
1歳になるまでは、犬との生活の何もかもが初めてのことばかりなので、とにかく毎日がバタバタである。最初の頃は体も小さく、かわいいばかりだったのだが、子犬の成長というのは驚くほどで、朝見ると昨日よりも身体が大きくなっているといっても過言ではなかった。
どこの犬も一緒かもしれないが、Buddyは甘噛みがひどかった。別に父犬が「警戒」訓練ができる嘱託警察犬だからというわけではないだろうが、とにかくなんでも噛んだ。テーブルの足も噛んだ。そして、私たちの手も噛んだ。
幼犬は乳歯で歯が細いので、噛む力がそれほど強くなくても、結構痛い。しかし、「痛い、痛い」と騒ぐほどではない。
そして、半年もするとすっかり成犬とほぼ同じ体型になる。しかし、心は子供のままなのである意味タチが悪い。
またこの頃の雄犬は、群れでの自分の地位を優位にするための攻撃行動を始める。そしてこれに屈してしまうと、家庭内での地位で犬が一番になってしまう、いわゆるアルファーシンドロームと呼ばれる状態に陥ってしまう。それはなんとしても阻止しないといけない。
今までの話を整理すると、生後半年になると、成犬と同じ体型の犬が無邪気なままで攻撃行動を行うということだ。主な攻撃方法は、もちろん「噛む」ことだ。
この頃の私たちの服には、至る所にBuddyが噛み付いた後の穴があき、手には青あざができていた。あっちでもこっちでもBuddyがいるところには家族の「痛い!痛い!!」という悲鳴が聞こえる日々だった。
身体の青あざだけで判断されると、間違いなく家庭内暴力が振るわれている家庭、そのものだった。
ある日、この状況に危機感を覚えたモーニャン(妻)が、「この子はきっと脳に障害あるに違いない! この噛み方は尋常じゃない!!」と真顔で訴えていたのをよく覚えている。
また、噛む犬への躾の一環として、「噛んできたら、拳を口の中に入れて噛んだら嫌なことをされることを覚えさせるといい」と聞いたので、早速実行してみた。
効果はなかった….。
たとえ拳を突っ込んでも、噛むことをやめるわけではない。結局我慢比べになり、その痛さに我慢できずに、こちらが負けてしまうのだった。
とてもこの状態が普通だとは思えないので、おそらくこれが、動物病院の若先生が言っていた、
「確か初めて犬を迎えるんですよね。苦労するかもしれませんね。この子は、例えるとラブラドールの皮をかむったシェパードなんです。」
ということだったのだろう。
(シェパードはそれくらい幼少期の躾が重要であり、プロの手を借りないと、素人には難しいという意味で、若先生はそう言った。)
とにかくその後の数ヶ月は、Buddyが向かってきても怯むことなく、マズルを手で押さえて噛むのを制止したり、ある時は身体ごと押さえ込んだりする、まさしく戦いのような日々だった。
(しかし、これらの行為は躾としては間違っている、らしい….。もっとも躾のレベルではなかったのだが….。)
そして1歳を迎える頃には、やっと優位性の主張による攻撃行動もなくなった。
無事にアルファー・シンドロームになることもなく、家の中では私たちとフレンドリーに接することができる、立派な家庭犬へと変貌したBuddyがいたのだった。
家の中では….なのだが….。
(つづく)
前回はこちら