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薬が全然分からない、俺は雰囲気で薬剤師をやっている

以前、薬が全く分からないという記事を書いたのだが、この記事はその続きである。私は先月、ITパスポート試験に合格したのだが、そこにITILというものが出てくる。ITILとはITサービスのベストプラクティス(成功事例)集であり、企業はそれを元にITサービスを実施する。

今回の記事ではその反対、バッドプラクティス(失敗事例)集を具体的に書いていきたいと思う。私は薬剤師になってから4年目であるが、合間に休職しているので実際には3年目に届かないくらいである。

しかも職歴の大半が離島の精神科病院であり、ただでさえ少ない経験も偏っている。なので他の薬剤師から見ると「えっ、そんなミスするの」という事例も多く存在するが、恥を忍んで書いていきたいと思う。


1:フォシーガ粉砕可否

フォシーガという薬がある。糖尿病や心・腎不全に用いるのだが、その薬を服用している患者が入院してきた。その患者は経鼻栄養チューブより栄養摂取しており、当然薬も鼻から入れる事となる。

錠剤やカプセルのままだとチューブを詰まらせる恐れがあるので、薬を粉砕する必要があるのだが、薬によっては粉砕してはいけない物もある為、注意しなければならない。

そういう場合、粉砕してもよいか調べる必要があるので、『錠剤・カプセル剤粉砕ハンドブック』という1600ページ以上もある分厚い本を用い、薬を1つずつ確認するのである。

私はその患者へ、当院から新たに処方された薬を鑑別し、粉砕してもいいのかどうかを、粉砕ハンドブックを片手に調べていた。患者は慢性心不全を患っており、他の十数種類の薬と共にフォシーガも処方されていた。

フォシーガについて粉砕ハンドブックには『粉砕不可だが著者判断では条件付きで可』と記載されていた。私は「いや、一体どっちなんだよ」と思ったが『粉砕後防湿・遮光保存で可能と推定』とも記載されていたので「まあ、粉砕してもいいか」と思い、薬局にあるパソコンからMIRSIsという処方システムで、フォシーガに粉砕指示を入力した。

ところが最近の処方鑑査システムは、私のようなボンクラ薬剤師よりも余程賢いらしい。フォシーガに粉砕指示を入力した所『この薬剤は粉砕不適です』と警告メッセージが出てきた。

私は慌てて他の薬剤師に確認した所、「粉砕ハンドブックに不可と書かれているのだから粉砕しちゃダメでしょ」とお叱りを受ける事となった。私は粉砕ハンドブックの著者判断というものは信じてはいけないという事を悟った。薬剤師の諸氏も著者判断は信じないほうが良いと思う。


2:ノボラピッドとインスリンアスパルト

糖尿病の既往を持つ患者が当院に入院する事となった。私は精神科勤務なので糖尿病の事はあまり分からない。それでも経口薬なら多少は分かるのだが、注射製剤となるとまるで知らない。

その患者の持参薬を鑑別していると、1本の注射製剤が出てきた。それには『インスリンアスパルトBS注ソロスターNR』と書かれていた。それを見た私は「文字だけで目が滑る」と思ったが、兎に角調べたら超速効型インスリンという事だけは分かった。

当院にあるインスリン製剤は『インスリングラルギン』という持効型(1日1回注射で24時間持続)しか無いので、病棟に渡す鑑別書に『他科受診』と記載した。他科受診とは要するに、当院にその薬は無いので処方先の病院でもらって来て、という意味だ。

目が滑る鑑別を終え昼休憩に入り、帰ってきたら薬剤師の仕事を補佐する薬剤助手から「病棟看護師から当院でノボラピッドを採用していないか確認の電話があった」と伝えられた。私は助手に「いや、ウチにはインスリングラルギンしかないでしょ」と言った。

すると助手は「ノボラピッドは要事購入品だ」と言った。要事購入品とは、普段は薬局に置いていないが、必要時に卸に連絡して購入する薬の事である。薬局に置いてある薬は一覧表があり、それで確認できるのだが要事購入品は一覧表に乗っていないので、私はそんな物があるとは知らなかったのだった。

一体ノボラピッドとは何か、と思いスマホで調べてみた。するとどうやら、インスリンアスパルトBS注ソロスターNRはノボラピッドのバイオシミラーだという事が分かった。

バイオシミラーとは簡単に言えばインスリン製剤等のバイオ医薬品の後発品の事である、と言えば薬剤師の方々からお叱りを受けるだろうが――バイオ医薬品は分子量が大きいので、製造工程が違うと先発品と同じ製品を作るのが困難――説明が面倒なのでそのままでいく事とする。

ヤバいと思った、病棟に誤った鑑別書を送り看護師から突っ込まれている状態だったからだ。その看護師は以前、要事購入品としてノボラピッドが当院から処方されている事を知っていたのだった。

私は病棟に連絡し要事購入品としてノボラピッドがある事を伝えた、するとその看護師から「患者はインスリンアスパルトBS注ソロスターNRの針を持ってきていない、当院にはその針はあるか」と尋ねられた。

私は「針!?そんなの知らないよ!」と半ばパニックになりながら折り返し連絡することを伝え、必死に添付文書を確認した。添付文書とは法的根拠を持つ医薬品の情報が記載されている紙の事である。最近では紙の添付文書は無くなりつつあり、ネット上に公開されている場合が多い。

スマホをポチポチしながらインスリンアスパルトBS注ソロスターNRの添付文書を調べると『JIS T 3226-2に準拠したA型専用注射針』が必要な事が分かった。私は、何だこりゃ、JIS T 3226-2ってなんだ?A型ってことはB型とかC型もあるのか?と訳が分からず混乱したが、当院で唯一採用している『ペンニードルプラス 32G 4mm』がそれに該当する事が分かった。

病棟にそれを伝え、一安心した所で薬局のパソコンに処方が飛んでた。その患者用のノボラピッド2本分の処方だった。患者は1日40単位使用しており、約1週間で使い切るので、要事購入品という事もあり早めに処方されたのだった。

早速、卸に連絡しノボラピッドが入荷する事となったのだが、1箱しか入荷しなかった。私は2本分の処方が出ているのに、1つしかないじゃないかと思い、病棟に1本しか入荷していないので、取り合えずその1本を渡す事を伝えた。

病棟看護師にノボラピッドを1箱渡し、残り分の入荷を待つこととした。すると病棟から「1本しか渡していないと言われたが、2本分ある」と連絡が来た。そう、ノボラピッドは1箱に2本入っていたのだった。インスリン製剤について何も知らない私は、その日ミスの連続を引き起こしてしまった。


3:グルコンサンKとアスパラカリウム

とある外来患者は精神疾患の他に低カリウム血症の既往があった。その為、カリウムを補給するグルコンサンKという薬が処方されていた。グルコンサンKは大きい錠剤で、その患者は飲みにくいから粉砕して粉にして欲しいと薬局に伝えてきた。

当院にはグルコンサンKの散剤は無かったが、代わりにアスパラカリウムという同効薬の散剤があったので、それに切り替える事とした。主治医にその旨を伝えた所「じゃあグルコンサンKと同じ量のアスパラカリウムを出しておいて」と指示を受けた。

カリウム製剤はmEq(メックと読む)という単位を用いて用量を計算する。その患者はグルコンサンK錠5mEqを1日3錠毎食後服用していた為、1日量は15mEqとなる。一方のアスパラカリウム散は1g中2.9mEqカリウムが含まれており、15mEqなら5.17g必要となる。

1回量をキリのいい1.7gとする事とした為、アスパラカリウム散を1日量として5.1g調剤することとした。散剤を調剤し患者に渡し、無事仕事は終わった、かと思えた。

昼休憩に入りスマホで先ほどの事を調べていたら、カリウム製剤切り替え時の換算量計算というサイトを見つけたので、何にも考えずに計算してみる事とした。するとグルコンサンK錠15mEqでは、アスパラカリウム散2.1gに相当するという結果が出てきた。

なんじゃこれは?このサイト間違ってない?だってアスパラカリウム散2.1gだと6.1mEqしかないじゃん、と思いながらも気になって色々調べてみる事とした。すると衝撃の事実が判明した。

なんとグルコンサンKからアスパラカリウムに切り替える際には、mEq数を約4割にして計算する必要があったのだった。グルコンサンKとアスパラカリウムでは生体内利用率が違う為、単純に同じmEq数には換算できないのであった。

つまり、本当はアスパラカリウム散を1日2.1g処方しなければならない所、間違って1日5.1g処方してしまったのだった。しかも医師の指示を受けたとはいえ薬局で(より厳密にいえば私が)代行入力してミスが発生してしまったのである。

直ちに主治医と患者に連絡を取り、アスパラカリウム散を再度1日量2.1gで調剤しなおし、薬を取り換えることとなった。幸いな事に、患者は翌日朝分から服用しようとしていた為、誤飲をする前に防ぐことが出来た。主治医からも「多少の経口カリウム製剤の間違えでは、特に問題は起こらないでしょ」と許してもらえる事となった。

ただし当然の事ながらインシデントレポートを書くハメにはなったのだが、なんにせよ患者に何も起こらずに良かったと、その時ばかりは心より安堵した記憶がある。


4:1ヵ月のシップ枚数

2022年度の診療報酬改定により、1回の湿布薬の処方枚数が63枚――大体1袋7枚入りの為、9袋まで――に制限される事となった。その為、湿布薬が足りないと薬局に苦情が頻繁に来る事となった。

私はその度に「1回の処方では9袋が上限です。同一月内にそれ以上をお求めの場合は再度受診し医師から処方を受けてください」と伝えていた。1回の処方で9袋が上限なので、1ヵ月に2回、3回、と受診すればその度に9袋貰える筈だからだ。

ある日、難聴のお婆さんが処方された薬を取りに薬局に訪れた。お婆さんは案の定、湿布薬が足りないと対応した私に文句を言った。私は裏紙に文字を書きながら大声で上記の内容を伝えた。

すると薬局内の別の薬剤師から「同一月内では9袋が限界だよ」と横から伝えられた。そんなバカな、と思いその言葉をシカトし(私がその薬剤師と仲が悪かったのもあるのだが)同じ内容を繰り返し伝えた。

お婆さんは納得せずに渋々といった感じで帰っていった。それを見届けた私は薬局内に戻った。すると私に横から伝えた薬剤師から「ひと月で9袋が限界って言ってんじゃん」と再度言われたので、「でもこのサイトでは1回の処方上限が9袋で、ひと月とは書いてないですよ」と反論した。

私はその会話を聞いていた薬局内の薬剤師達からフルボッコに論破された。曰く、「ひと月9袋以上だとレセが通らず返戻になる」との事であった。レセとはレセプト(診療報酬明細書)の事で、通常病院は公的医療保険の運営者にレセプト請求を行う。例えば自己負担額が3割の場合は、残りの7割をレセプト請求する、といった形となる。

レセが通らないとは、つまりは自己負担額の残りが病院に入らないという事となり、当然赤字となってしまう。薬剤師にとって『レセが通らない』とは恐怖の言葉である。もし医師がレセが通らない処方を打ち、それに疑義照会し、医師から「レセが通らなくても仕方がない!この患者はこの処方じゃないとダメなんだ!」とか返答されたら、薬局内のみならず事務からも大目玉を食らうハメになる。

というか普通に医師を説得して来いと言われ、診察中の医師の邪魔をし、怒らせながら必死に処方変更のお願いをする事となる。そういうレセが通らない処方を普通に打ってくる医師の場合、頑固な信念を持っている場合が多いので、それが受け入れられる事は殆ど無いのだが。

結局の所、診療報酬上問題が無いはずなのにレセが通らないってどういう事やねん!と思いながらも私は他の薬剤師達に平謝りしたのだった。


5:アレンドロン酸35㎎と5㎎

アレンドロン酸35㎎という薬がある。ビスホスホネート製剤と呼ばれる種類の骨粗しょう症治療薬で、1週間に1度服用する薬である。ある日、当院と提携している訪問看護師が薬局の受付にやって来たので、私が対応する事となった。

訪問看護師が言うには、とある患者が週1回服用のアレンドロン酸35㎎を間違って4日間連続で服用してしまったとの事であった。幸いな事に特に副作用は見られなかったのだが、今後もこの様な事が起きる恐れがある為、毎日服用するタイプのビスホスホネート製剤は無いか?と尋ねてきた。

私は精神科勤務の、それも経験の浅い薬剤師である。骨粗しょう症の薬なんて、当院で採用しているアレンドロン酸35㎎とエディロールとラロキシフェンくらいしか知らないし、聞いたこともなかった。

なので訪問看護師に「いやぁ~毎日飲むビスホスホネート製剤とか聞いた事無いですねぇ~」とあやふやな対応をしてしまった。今にして思えば、その場でスマホをポチポチして調べれば良かったのだが、動揺していて気が回らなかったのだった。

すると湿布薬の話で出てきた、私と仲の悪い薬剤師が横から話に入り込み「毎日飲むってアレンドロン酸の5㎎でしょ、ウチにはないよ」と訪問看護師に伝えた。

私は一瞬にして置物となった。訪問看護師は私と話をしても無駄と思ったのか、横から入り込んだその薬剤師とのみ会話をしていた。本来なら、私の知らない知識を教えてくれてありがとう、と感謝しなければならない立場だったが、人間関係の拗れから素直にそう思えず、100%自業自得なのだが、屈辱を感じながら2人の会話を聞き続ける事となったのだった。


6:単純疱疹と帯状疱疹

とある外来患者に定期薬とは別の処方が追加された。パラシクロビルという薬でヘルペスに用いるのだが、500㎎錠が1日6錠、7日分処方されていた。午前中の外来診察時は混雑極まり大変忙しい。その日私はVP担当であった。当院は電子カルテを導入していないので、調剤にVPを使用しているのだった。

VPとは調剤支援システムの事で、パソコンで操作し自動分包機や散剤分包機に調剤指示を飛ばしたり、処方箋・薬袋・薬情・お薬手帳のシール等を印刷したり出来る。処方監査と呼ばれる、主に医師の処方が正しいか確認する際に用いたりもする。

VP担当とはその日の薬局内の要ともいえる存在であり、もし処方に不備がある場合は、医師に疑義照会を行ったり、処方修正を行ったりする立場である。

そんな中でVPの画面と紙カルテを見比べて鑑査していたのだが、カルテには『単純疱疹』と記載されており、特に問題ないな、と思いそのままの処方で調剤してしまった。以前も別の患者が帯状疱疹で1日6錠、7日分で処方されていた事があったからだ。私はVP操作が忙しく、単純と帯状の区別が付いていなかったので、そのまま調剤指示を出してしまった。

午前の喧騒も終わり、昼休憩の時間となった。早速昼休憩に入り午後に備えようとしていると、パラシクロビルが処方された患者の薬を調剤鑑査した薬剤師が今頃になって私にとある事を伝えてきた。「〇〇(私の名前)先生、パラシクロビルは単純疱疹には1日2錠ですよ」と。

私は慌てながらもまず添付文書を確認し、それが正しいと知るとミスを認め、同時に何故患者に薬が渡った今になって伝えたのかを尋ねた。すると調剤鑑査をした薬剤師が「いや、まあ似た様な症状だし別にいいかな、と思ってそのまま渡しました」と言い放った。

私は唖然とした。いや、確かに碌に確認もせずにミスをしたのは私だが、そのミスを見つけてそのまま患者に薬を渡し、あまつさえ今になって私にそれを伝える…?私はこの調剤鑑査をした薬剤師の脳みそが、一体どういう構造をしているのか1㎜も理解できなかった。

直ちに医師と当該患者へ連絡を取り、処方を修正して1日2錠とし、患者宅へ向かい薬を交換する事となった。更に当然ながらインシデントレポートも書く事となったのだが、調剤鑑査を行った薬剤師は「自分には関係ない」の一点張りで結局、医師へ疑義照会する事も、患者宅へ赴くことも、インシデントレポートを書く事も無かった。


7:レザルタスとメトホルミン(とカモスタット)

当院に入院する患者が、他の病院から薬を貰っている場合、当院の薬で代用できるか、出来ない場合はどうするのか、等を鑑別する必要がある。それを持参薬鑑別と呼ぶのだがある日、新患の入院患者の持参薬鑑別を私が行う事となった。

この患者は高血圧症と糖尿病を併発していた。高血圧の薬であるレザルタス配合錠LDと糖尿病の薬であるメトホルミン、その他諸々の薬を服用していた。全部で60日分処方されており、その多さに少々面倒な気持ちを感じた。

私はレザルタスなんて聞いた事ねえよ、と思いながらも『今日の治療薬』という、簡単に言えば薬の辞書みたいな本を開いた。そして2種類の降圧薬の配合錠という事が分かった。早速、鑑別書に代替薬を記載し、メトホルミンは当院で採用していたので、そのまま処方可能と書き込んだ。

鑑別書を書き終えたら次は持参薬の一包化である。病棟に渡す薬は基本的には名前・日付・用法を印字し一包化している(一包化不可の薬や頓用薬は除く)。

私はレザルタスとメトホルミン、あと数種類の薬を一緒に一包化し、いっきに60日分を調剤した。この患者は1日4回(朝・昼・夕食後・就寝前)内服していたため、60×4=240包を手巻きした。


自動分包機のコンベアと呼ばれる部位

手巻きとは、簡単に言えば薬を自動分包機の『コンベア』と呼ばれる部位のセル1つずつに手で入れていくことである。上記の画像にある小さい四角の穴に、PTPシートの薬を1錠ずつ入れていく作業の事を言う。

それが240包分あるのだが、この患者は9種類ほど薬を服用していた記憶がある。9種類の薬を240包分セルに入れていき、手間と時間をかけながら分包していく必要がある。

病院によっては助手が手伝ってくれる所もあるが、当時私は新人で、助手も私を軽く見ていたので忙しいと断られてしまい、1人でやるハメになってしまったのだった。

持参薬の調剤が終わったら、後は鑑査者に持参薬を鑑査してもらうだけである。私は一仕事終えた解放感に満足しながら、溜まっていた院内処方を片付けようとした。

すると、鑑査者が私に「レザルタスはメトホルミンと一緒にしちゃダメだよ」と伝えてきた。私は「今日の治療薬には特に記載がありませんが」と返答した。

鑑査者はスマホをいじり、レザルタスの添付文書を見せてきた。そこには『レザルタスとメトホルミン、又はカモスタットを一緒に一包化すると薬の変色が起こる』と記載されていた。今日の治療薬にはその記載がされていなかった。

結局、私は60日分、240包も一包化した薬を一包ずつハサミでバラし、レザルタスとメトホルミンを分けて再度調剤しなおすハメとなったのだった。今日の治療薬は確かに役に立つが、信じすぎない方がいい。


8:「私は薬を飲み過ぎていませんか?」

薬局には患者からの電話がかかってくる事がある。朝の薬を寝坊して昼の薬と一緒に飲んだけど大丈夫か?とか頓用の眠剤は1日何錠まで飲んでいいのか?等の質問になら薬剤師はおおよそ答えられる。

しかし中には薬剤師には答えられない電話が来る事もある。つい先日、とある外来患者から「私が今服用している薬のせいで太ってしまった。私は薬を飲み過ぎている、太る原因の薬を探して教えて欲しい」という何とも返事に困る質問をされてしまった。

結論から言うと、確かにこの患者は薬を飲み過ぎている。フェイクを交えるが、処方されている薬の種類だけで12種類――ランドセン・セルシン・炭酸リチウム・バルプロ酸Na・クエチアピン・ベンザリン・オランザピン・クアゼパム・トラゾドン・ミルタザピン・酸化マグネシウム・センノシド――もある。

この中で体重増加作用がありそうなのは、血糖上昇作用があり糖尿病禁忌であるクエチアピンとオランザピン、それと抗ヒスタミン・抗セロトニン作用により摂食中枢を刺激するミルタザピン、その辺りが怪しいだろうが当然断言など出来ない。

そもそも医師に許可も得ずに「いや、この薬が太りやすいですね。中止しましょう」などと言える筈がない。薬剤師の仕事はあくまでも医師の処方を監査し、処方内容に問題が無ければ、患者に用法通り服薬する様に指導する事である。

当然、拒薬に繋がるような発言など出来ない。もししてしまったなら医師から「薬剤師如きがなんで医師の処方にケチをつけるんだ!」と大目玉を食らう事となるだろう。

結局この患者には、たしかに薬の種類は多いが同じような処方を受けている患者も一定数居る事、太りやすい薬は特定できないし医師の許可なく伝える事は出来ない事、等を伝えお為ごかしに終始する事となった。

最終的に患者は納得せず医師と直接話したいと言って外来へ回線を繋ぐ事となった。その後の事は分からないが、薬局に連絡が来ていないという事は恐らく解決したのだろう。そう思い込むようにしている。



以上が私が体験したバッドプラクティス、その極一部である。他にも

・慢性ざ瘡にクラリスロマイシンを長期投与処方する事を知らずに疑義照会した事。
・インフルエンザワクチンHAが1バイアル2人分である事を知らず、人数分のバイアルを病棟に渡してしまった事。
・低マグネシウム血症に何の薬があるか聞かれて反射的に「カマグ」と返答した事(経口酸化マグネシウム製剤は低マグネシウム血症には不適、普通は注射製剤を用いる)。
・COVID-19の治療薬を当院で採用しているラゲブリオとベクルリー以外碌に知らなく、医師から「他にいい薬ない?」と聞かれ答えられなかった事。

など、今思い出せるだけでもこれだけある。正直私は薬の事が全然分からないし、なんとなく雰囲気だけで薬剤師をやっていると、自分でもそう思ってしまう。一応、単位の為にMPラーニングとか受けているが全然頭に入らない。いつか薬の事が分かる日が来ればいいな、と漠然と思う日々ばかり続いている。

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